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魅惑の温泉ドライブ温泉街の歴史と六甲の自然を楽しむ
日本の温泉を象徴する古湯、有馬温泉
日本を代表する古湯、有馬温泉。その歴史は神話の世界にまでおよぶ。鉄分を含む茶褐色の塩泉は、まさに温泉そのもの。薬効に触れ、街並みを散策すれば、思いは遠い時代へと向かう。
金泉の湧く神戸の奥座敷
有馬温泉の離れ宿「橋乃家別館 嵐翠」。四季を彩る庭の美しい、喧噪から離れひっそりと時間を過ごせる和風旅館だ(1泊2食3万1500円~)
神戸市内からクルマで六甲山を上がっていくと、30分ほどで有馬温泉に到着する。こんなにも交通の便がいい場所で、歴史ある温泉にたどり着けるのだ。

茶褐色で鉄分を含み、強烈な塩気のある高温泉。地元ではこれを金泉と呼ぶ。もうひとつ、まったく泉質が異なる銀泉(炭酸泉/ナトリウム塩化物泉)も有馬の名物になっている。
自然のままの温泉なら、無色透明な単純泉でも十分満足できるのだが、できれば有馬のような個性のある温泉のほうが、より自然の恵みを分けてもらっている気分になれる。温泉大国に生まれて本当によかった。

温泉地に期待するもうひとつの大きな要素は、散歩だ。浴衣を着て温泉街を散策したり、湯めぐりを楽しんだり。大旅館がぽつりぽつりと点在しているよりも、小さな旅館が一カ所にひしめいているほうが、街に活気が出る。その点でも有馬温泉は正しい。神戸の奥座敷として大きな旅館が立ち並ぶ一方で、きちんと温泉街としても機能している。

細い路地を抜けると思いがけない店や風景に出合う。有馬を象徴するのが、泉源のやぐら。高温のため、蒸気が噴き出ている煙突がちらほら。寺や神社も多く、これらを順繰りにたどっていくだけでも、けっこう楽しめる。
これだけ多くの泉源があるにもかかわらず。有馬の周辺には、不思議なことに火山がない。80度以上の高温泉が噴き出しているのに。その理由は、いままでよく知られていなかった。しかし、最近の研究で、その理由が明らかになった。

有馬を象徴する泉源。左の写真は神様天神社の境内にある。湯がたぎり、猛烈な勢いで蒸気が噴き出している。
温泉の成分を調べたところ、暖められた海水がちょうど有馬の場所に吹き上がっているというのだ。
日本列島はマントルの上のプレートに乗っている。それとは別のフィリピン海プレートが日本の下に潜り込もうとする。そのときの摩擦による戻りが地震を生むことはよく知られている。その深い地中で暖められた水が切り離されて上昇し、自噴しているというのだ。

神戸という、港にするのには絶好のロケーション。
そしてその近くの山にたまたま湧き出る温泉。偶然は地の利となり、多くの人を誘う。有馬温泉はにぎわうべくして存在する、祝福の場所なのかもしれない。
有馬温泉の起源
六甲山頂にある「六甲ガーデンテラス」からは神戸の風景を一望しながらのティータイムやディナーが楽しめる。
日本の温泉の起源を遡ったときに、神代より始まったとされ、文献に記録が残っている温泉地は3つある。愛媛の道後温泉、兵庫の有馬温泉、そして和歌山の白浜温泉だ。

有馬温泉にある湯泉神社の記録によると、泉源を発見したのは大己貴命(大国主命/おおくにぬしのみこと)と少彦名命(すくなひこなのみこと)。この地を訪れたときに、水たまりに浸っていた三羽のカラスがいた。後日、このカラスの傷が癒えているのに気づき、そこが温泉で効能があることがわかったという縁起がある。

また、日本書紀には、舒明天皇(593~641年)が舒明3年(631年)に86日間有馬温泉に滞在し、入浴を楽しんだという記述がある。2代後の孝徳天皇(596~654年)も大化の改新(645年)の2年後にこの地を訪れ、これらの行幸が有馬温泉の名を広く世に伝える大きなきっかけとなった。

その後、有馬は洪水や大火によって盛衰を繰り返すが、行基(8世紀)、仁西(12世紀末)、豊臣秀吉(16世紀末)といった僧や武将により再興され、歴史を紡いできた。明治時代には国際的な温泉リゾート地として海外にも知られていたほどだ。

有馬を歩くと、「坊」という名のついた宿が多いことに気づく。これは仁西が温泉寺を改修した際に、12の宿坊を営みはじめたことが起源となっている。この流れを組む宿か、もしくはそれにあやかったもの。
また、街には観光用としての宿に交じって、瀟洒な民家も点在している。富豪の別邸らしき家屋もひっそりとした場所にたたずむ。 散策するだけで、いくつもの歴史が折り重なっているのを実感できる。それが、有馬温泉に流れる、独特な時間を生み出している。
魅惑の温泉ドライブのヒント
六甲山頂へ向かうには、有馬温泉からの六甲有馬ロープウェーと、神戸方面から六甲ケーブルを利用するルートがある。温泉街に宿泊しての散策もよし。クルマで山頂に向かえば快適な山のドライブが楽しめる。六甲有馬ロープウェーは有馬温泉駅まで温泉街から徒歩15分程度、大人往復で1770円。山頂では少し歩くか六甲山上循環バスを利用すると、クルマとは違った旅の視点が得られる。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・執筆を手がける。
最近はじめたばかりのブログ「軽井沢別宅日記」をどうぞよろしく。 http://blog.livedoor.jp/curtz/
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