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近ごろ、体験型テーマパークが大人気。動物園だって負けてられません。小動物や草食動物と触れ合う、動物たちにエサをやるなど、さまざまな試みが実施されています。きわめつけは“象に乗る”でしょう。映画のモデルにもなった象、「ランディ」に会いに市原ぞうの国に行ってきました。 |
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必見の象の行進。先頭を行くのが映画のモデルになったランディです
「星になった少年」という映画があります。
二十歳で亡くなった日本で初めての“象使い”、坂本哲夢さんの母である坂本小百合さんが執筆した『ちび象ランディと星になった少年』が原作です。
ある日、動物プロダクションを営む一家のところに象がやってきました。哲夢さんは天性の才能からすぐに象と仲良くなります。
やがて、サーカスにいたちび象のランディも仲間に加わりました。しかし、ランディはサーカスでの苦しい思い出があるために、なかなか馴染んでくれません。「もっと、象と心を通わせたい」、哲夢さんはタイの象学校に入って象使いになりたいと考えました。
タイでの日々はすべて順調とはいかず、最初のうちは食事に苦しみ、象のあつかいも戸惑うことだらけ。それでも孤軍奮闘していくうちに、象やタイの少年たちと心が通じはじめ、一人前の象使いになっていきます。
ランディは哲夢さんがいちばん可愛がった象でした。
そして、ランディもまた哲夢さんをもっとも愛していました。お葬式のときにランディは哲夢さんが入った棺との別れを惜しんで大きな鳴き声をあげ、目から涙を流したといいます。
そのランディが市原ぞうの国にいるのです。左耳横のハートマークがランディのチャームポイントです。哲夢さんを慕い、哲夢さんと心通わせたちび象のランディは、ぐっと大きくなりましたが、そのやさしい目は今も変わりません。 |
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象たちのショーは見る者を圧倒するほどの迫力!
「間もなく象のショーが始まります」と園内にアナウンスが流れると、来訪者たちは我先にとステージのまわりに設置されたベンチに集まります。
でも、ちょっと待って! 見逃せないのは象の行進なんです。
丘の上の象小屋からショーステージまでの象たちによる迫力満点の行進。長い鼻を上下に振りながら、のっしのっしと歩く姿に、思わず歓喜の声をあげそうになります(本当に歓喜しすぎてしまうと象を驚かすようで、ちょっと怖いけど)。
行進はやがてショーステージに。ベンチにいるお客様は拍手喝采で象たちを迎えます。
私もそのころはこそこそっと、ベンチの隙間を見つけてちゃっかり観賞モードになっています。
お待ちかねの「ぞうさんライド」。のっしのっし歩きます
象たちのショーは思いのほか多彩です。
首を振って足を上げるヘビー級ダンスに、巨大サッカーボールを使った中村俊輔ばりフリーキック、さらにはピカソ級のお絵かきまで。
なかには子どもに麦わら帽子をかぶせてあげるという芸もあります。象に背中を向けた子どもたちは、ちょっと心配顔で立っています。
そんな子どもにそっと近づいた象は、後ろからふわりと帽子をかぶせてあげる。その瞬間、こわばっていた子どもの表情もぽわっと笑顔に、微笑ましい光景です。
ショーの後はお待ちかねの「ぞうさんライド」です。
馬なら上下に揺れますが、象の場合は横の揺れ。大きなリズムで右に、左に揺れながら前に進みます。 |
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キリンは長~い首を伸ばしてエサをぱくり
市原ぞうの国は大きな動物園ではないけれど、工夫が随所に見られます。たとえば1杯500円の「エサバケツ」は、誰もが手にしたくなるでしょう。
エサを差し出すとキリンは長い首を下に向けてパクリ。プレーリードッグはちょこんと座ってエサをポリポリ。
思いのほか可愛くて、へんてこりんな動物が南アメリカのアマゾン川流域に棲むカビバラです。ネズミの大親分のような風貌ながら、意外に人なつっこくて、近づいてきて肌をすりすりさせてエサをねだり、ムニョムニョと野菜を食べます。
さて、市原ぞうの国にはもうひとつ大きな目的があります。それは、「象たちに豊かな老後を送ってもらう」ということです。日本国内にも閉鎖となる動物園があります。そこにいた象を引き取って、幸せな余生を送ってもらっているのです。
象の「ようこ」は新潟の動物園の閉鎖を機にやってきました。サンディは北海道の動物園の閉鎖で仲間になりました。
もしも、引き取り手がなかったらようこやサンディはどんな運命をたどっていたのでしょう。
動物園好きな私だけに、少々考えさせられました。 |
< PROFILE >
石井 喜代美
ご主人がアウトドア・旅行雑誌の編集者をしており、その関係で国内外の旅に同行。ブランドショップより地元の市場、高級レストランより庶民の味、そして動物園と水族館には必ず行く主義だとか。キャンプや温泉にも詳しい。