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芸術の秋は陶芸をかじる

「芸術の秋」「スポーツの秋」「食欲の秋」と、いろいろやらないといけない気分になる秋がやってくる。ゴルフやフットサルは秋じゃなくても楽しんでいる。食欲だって1年通してそこそこだ。ならば、今年の秋は「芸術」に挑戦。茨城県・笠間に車を走らせる!

広尾のギャラーで久々の再会
粘土をこねるところから始める。作家の作品のようなものを自分でも作りたい

小さいけれどスタミナは人一倍。グラウンド狭しと走りまわって、しばしば最高のポジションに現われて得点にからむ。オシム監督時代に日本代表に初選出された羽生直剛みたいなミッドフィルダーだった。それからおよそ30年。東京・広尾にあるギャラリーで、久しぶりにその男、学生時代の2年先輩である小貫善二さんに再会した。

彼は現在、益子と笠間の中間に窯を持ち、陶芸家として知られる存在になっていた。パソコンで名前を検索すると、全国各地のギャラリーで行われている展覧会が検索できる。さまざまな作品のなかでも“練込”といわれる技術を屈指した器は、サッカー選手のときの彼からは想像もできないほど繊細で美しく、光を通すと和紙のように透き通り、さらに土の厚みの度合で光の加減に強弱がつく。これらの作品のインスピレーションは「万華鏡」にあったというが、僕はその陶芸品をひと目で気に入ってしまったのだった。

場所は個展会場である。作品が気に入ったのなら、普通は「これ買います!」と口にするはずである。しかし、「弟子にしてください!」と僕は叫んでいた。
一瞬きょとんとした表情を浮かべたあと、「ならば、少しは陶芸を勉強せよ」と、小貫先輩は言った。

笠間で「目」を肥やす
笠間にある「回廊ギャラリー 門」。笠間の代表的な作家の作品が並ぶ

芸術の勉強とはつまり、「目」を肥やすことだろう。僕はそう決めつけると茨城県の笠間へ向かった。ここには“東日本で初めて陶芸を専門に扱った”が謳い文句の「茨城県陶芸美術館」がある。

日本陶芸界の最高峰を集めたというだけあり、「近代陶芸の祖」板谷波山や笠間市出身の人間国宝・松井康成などの作品が並ぶ。そのみごとさたるや、どうやって作ったのかちんぷんかんぷんなぐらいなのだ。土をこね、ロクロをまわし、素焼きをして、絵付けや上薬を塗って再度焼き……くらいの陶芸の基礎知識は僕にだってある。しかし、彼らの作品は薄っぺらなその知識をはるかに超越しているのだ。

波山の描くツヤを意識的に抑えた、淡く幻想的な世界。
松井康成の練上はもう陶芸の域を超えて、現代アートを融合させた先進的なすごみを感じる。 作り方はわからなくとも、美術館に2時間もいれば目は肥えた気になる。その勢いのままに美術館向かいの「笠間工芸の丘」のふれあい工房に直行。陶器の購入もできるが、ここでの目的はロクロ体験(2100円)や手ひねり体験(3150円)だ。“先生”は温和でやさしい。基本の「き」をていねいに教えてくれる。しかし、僕がやりたいのは並の作品ではなく松井康成なのだ。練り込みたい、練り上げたい、粘土をいろいろ細工して。

笠間稲荷神社では10月中旬から11月下旬まで「菊祭り」が行われる
先生、我が作品に大いにあきれる。でも、先生はそれを口にしない。僕も間違っても松井康成をイメージしたなんて言わない。僕の気分を傷つけることなく先生は適当に修正して、どうにもならないものを「器らしきもの」にしてくれた。

器作りがダメでも、まだ「絵付け」が残っている。絵付け体験も笠間の様々なところでできる。素焼きの器を選び、筆に絵の具をつけて描き始める。めざすは波山の幻想的世界。 5分後、それが無理なのを思い知らされる。幻想的と壊滅的は紙一重。我が作品は現代アートを超越してしまうのだった。

これらの作品は数日後、“陶器”となって我が家に届けられる。見る人が見れば、そんな人が見なくてもダメな作品なのはわかっている。しかし、その器がなんとも愛おしいのである。これで飲む朝のコーヒー、夜の焼酎のおいしいこと。
陶芸体験はその場限りではない。作品とともにずっと後まで心にも残る体験なのだ。
芸術の秋はあきらめ食欲の秋に
市内には笠間焼によく合う料理を提供するフレンチ・レストランも
意気込んでトライした陶芸体験は、あまりにも最初の思い込みが激しかったために、頭に抱いたイメージと実際の仕上がりの差に、いささかがっくりきたが、なにしろめざしていたのが「人間国宝」なのだから仕方ない。

陶芸体験をした後は、「作家がなんたるものか」を知るために陶芸ギャラリーで、地元の作家の作品鑑賞をした。なかでも目を引いたのが「回廊ギャラリー門」だった。笠間を代表する作家の作品が魅力的に展示されている。回廊の名のとおり、中庭のまわりにロの字型に展示スペースがあり、陶器は中庭に注ぐ太陽によってより一段と輝きを増す。

「笠間焼とはなんぞや?」の答えは見つけにくい。
ここにはさまざまな作家が集まってきており、それぞれが工夫して焼物を作っている。その独創的な作品を眺め歩くのが笠間の楽しさなのである。
「陶芸品を美術館、ギャラリーで見ました。ロクロや絵付けの体験もしました。あとは笠間でなにをすればいいんですかね」と、門のスタッフに尋ねてみた。間髪入れずに答えが返ってきた。
「笠間には笠間焼の陶器を用いてフランス料理を出すところがあります。そこを訪ねてみては」

門の美人スタッフが一押しするレストランに行ってみた。上品なフランス懐石が、趣の異なる笠間焼の陶器に盛り付けられて出てくる。その味たるやよし、ご馳走を引きたてる陶器もまた傑作。大いに舌鼓を打ったのである。
芸術の秋で訪ねた笠間は、結局最後は食欲の秋で締めくくったのでした。
体験の旅 陶芸体験をしたい、歴史ある笠間稻荷の「菊祭り」を見にいきたいのなら、以下のサイトで詳しい情報を。

陶芸体験をしたい、歴史ある笠間稲荷の「菊祭り」を見にいきたいのなら、以下のサイトで詳しい情報を。
笠間市公式ホームページ:http://www.city.kasama.lg.jp/

「笠間工芸の丘」での体験教室の詳細も掲載されています。
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載中(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/
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