ヨーロッパの温泉施設に行くと、温泉を「保養施設」ととらえて療養に利用しているのがわかる。日本では娯楽や観光レジャーの延長で温泉をとらえがちだが、もっと「飲む温泉」が増えていい。 |
1877年開業のテレーゼ・テルメ温泉の売店で見つけた「飲む温泉」。娯楽というよりは治療といった意識が強い
イタリアの温泉をめぐる機会があり、今年の春、ナポリから48kmほど離れたテレーゼ・テルメという町に行ってきた。 |
「トンボの湯」の脱衣所に設けられた飲泉口。源泉はずっと蛇口からあふれ出ている
ただ、「飲む」という発想が浸透していなかったせいか、源泉を守り、そのまま飲める状態を保っている温泉地や宿は意外と少ない。お風呂は循環ろ過させたり、塩素を入れて殺菌すれば清潔さは保てるが、飲用には向かない。 飲用のためにはそれなりの検査をして安全性の担保が必要だ。 昨今は宿主も「源泉かけ流し」を意識するようになり、循環であるかどうかの表記もきちんとされるようになってきた。さらに一歩進んだ宿や施設は「飲む」ことにも踏み込み、より清潔さを保った管理を進めている。 泉質にもよるが、「飲む湯口」を確保しているかどうかが、経営者の温泉に対するリスペクトの度合を示しているようにも思える。 |
ここは山の別荘? それとも高級宿? 日帰り温泉施設には見えない外観。入浴料は一般1200円。町民は優待価格。10時~22時受付まで(23時閉館)
住所:長野県北佐久郡軽井沢町星野
TEL:0267-44-3580
明治時代に赤岩鉱泉と呼ばれ、草津の帰りの人の「仕上げ湯」として親しまれてきたが、大正2年から星野温泉が掘削を開始。大正4年に開湯した弱アルカリ性の「美肌の湯」で、避暑地の名湯として親しまれてきた。北原白秋や与謝野晶子など文豪にもなじみが深い。 このトンボの湯は平成14年に立ち寄り湯として開業。黒壁に覆われた和モダンのデザインは、とても日帰り温泉施設には見えない。巨大な内湯と、その奥に広がるさらに大きな露天風呂。 露天風呂は男女の浴槽が中央でつながっており、エントランスから丸見えなのでさすがにそこを越えて行き来する人はいない。建築家、東利恵氏による斬新な発想とデザイン。湯はもちろん、循環・ろ過を一切していない、源泉かけ流しだ。
エントランスの左が男湯、右が女湯。奥の露天風呂から湯が中央を仕切るように流れ出していて、足湯ができるようになっている
泉質はナトリウム―炭酸水素塩・塩化物温泉。日頃の食生活で酸性に偏りがちな血液を、弱アルカリ性に戻してくれる効果がある。 食べ物をはじめ、「安全」に対する意識が強くなるなかで、こうした「きちん」としている温泉施設が増えることは、本当にうれしい。 |
上信越自動車道・碓井軽井沢ICから国道18号線を経て、中軽井沢から国道146号を草津方面へ北上する。クルマで3、4分走ると右側に星野リゾートがある。トンボの湯はその入り口そば。施設内には森の動物の生態を観察できるピッキオビジターセンターや蒸籠で蒸した温野菜がおいしい村民食道など、施設が点在している。
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・執筆を手がける。最近はじめたばかりのブログ「軽井沢別宅日記」をどうぞよろしく。 http://blog.bectac.com/