大きな観光地に行くと必ずある施設がある。たとえばトリックアート系美術館、人形やオルゴールの美術館、そして最近ではガラス工房がその仲間入りを果たしている。中に入ってみると作家の作品が並んでいるだけでなく、「体験教室」の看板も目につく。 |
ガラス工房にはアーティストの美しい作品が並ぶ
これまでに日本各地を旅して、どれだけ多くのこの手の施設にめぐりあっただろう。最近は“地産地消”がちょっとしたブームになっていて、その土地でとれたものをその土地で食べようという動きが旬なのに、どこに行っても梅宮辰夫の漬物で、これが信州の高原でも九州の温泉地でもけっこう繁盛しているので驚く。 こういった観光地の常連施設のなかに、このごろ“ガラスアート”が入ってきた。一昔前なら「江戸切子」のように、ガラス工芸は職人さんの世界で、少々近づきにくい感があった。しかし、ガラス工芸材料を販売する会社の発展などによって、一気に全国に普及したらしいのだ。
安価なストラップなどが売れるのもガラス工房が増えた理由?
今や観光地であってもなくても、ガラス工房は全国にあり、体験は気軽にできるのである。 |
鉄パイプで空気を送ってガラスを膨らませる
蒸気を吹き出す野性的な地獄がある雲仙だが、その一角におしゃれな雰囲気のガラス工房があった。体験メニューはグラス作りである。鉄パイプに息をそっと吹き入れて、火に炙られていたガラス玉を風船のように膨らませていく。まさに、小さいころにチューブに入って駄菓子屋で売っていた「ポリバルーン」の要領だ。 ストローの先にまん丸につけたバルーンの素を、息を徐々に入れることによって顔ほどの大きさの風船に仕上げていく。油断すればすぐに形が崩れるし、勢いよく息を入れ過ぎると風船は破裂してしまう。 ガラス玉はそれほど脆弱ではないが、それでも慎重に行わなければグラス状になってくれない。指導の先生に、「もっと息を入れて」、「しっかり」などと励まされて作ったものだ。 おもしろかったのは色選びも自分でできたことだ。青や赤、緑などの色がついたガラス原料を選び、それを混ぜてもらう。火にかけているとき、ガラスは真っ赤に変色していてわからないが、徐々に熱が冷めてくると予想もつかない塩梅(あんばい)で、選んだ色がついているのである。 グラス作りでもっとも難しい底の部分と上部の飲み口は先生に仕上げてもらい、やがてグラスらしくなる。 この時作ったグラスは、九州に敬意を表して焼酎用と決めた。 |
旅行雑誌の記者たちも仲良く工作中
切り取ったステッカーを、すでに完成しているグラスに貼る。そして、それをサンドブラストの機械に入れるとあら不思議。ステッカーを貼った部分は透明のまま残り、それ以外の部分は曇りガラスのように微妙なざらつきが生じ、透明な部分が模様としてグラスに残るのだ。その名のとおり、砂をかけてガラスを“すりガラス”にしてしまう機械だそうだ。ステッカーが貼ってあるところは砂がガラスに当たらないから透明のまま残るという仕組みだ。 あまりに細かい絵にしてしまうと、ナイフで切っていくのが超面倒くさい。グラスにだって貼りにくい。絵柄は大胆なほどよし。単純明快ならなおよし。
これがメイド・イン・イバラキのハワイみやげです!
僕は自分のデザインした絵をひた隠しに隠す。描いていたのはハワイでよく見かける“幸福の亀”の絵だった。グラスの前側には亀、そして後側には“ALOHA”の文字。こうしてすっかりハワイみやげのグラスができあがってしまったのだ。 そのメイド・イン・イバラキのハワイみやげは、現在でも我が家の食器棚の隅を飾っている。 |
ガラス工房は今や全国各地にあります。ガラス原料販売会社のホームページに「ガラス工房ガイド」を見つけました。
http://www.santoku-kogyo.co.jp/index.html
茨城で行ったガラス工房シリカです。
http://www.studiosilica.com/index.html
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載中(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/)
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載中(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/)