川原毛地獄に三途川。硫黄臭のたちこめる噴煙が噴き出すその地域は植物も生えず、岩肌が露出した、まさに地獄の景観。だが温泉は最高なのだ。 |
川原毛地獄の山頂付近。遊歩道のある道の周りは植物がいっさい生えていない
そんな噂を聞きつけ、心はぐらぐらと揺れ動いた。 北海道の「カムイワッカの滝」なら知ってる。鬼首の近くの吹上温泉にもそれらしき湯滝はあった。でもそんな温泉の滝が本州にあるのか? 半信半疑だが、向かわずにはいられない。 それは秋田県の南部、山形県との県境に近い湯沢市にあった。 その名も「川原毛大滝湯」。 そもそもこの地は川原毛地獄と呼ばれ、古くから信仰の山として知られていた。大同2年(807年)に同窓和尚が開山したと伝えられ、恐山(青森県)、立山(富山県)とならび、日本三大霊地のひとつに数えられている。 硫黄臭が立ち込める、灰色の大地。岩肌から噴き出る硫化水素の影響で、ある地点を境に植物はほとんど生えておらず、露出した岩や土の山肌がいかにも地獄を思わせる。立ち止まって煙を吸い込むと死にいたる可能性がある。そんな注意書きの立て看板に脅されながらの、駐車場から頂上までの約1時間の散策。ところどころから蒸気が立ち上っており、手を地面に当てると地熱で暖かい。見たことのない、緑のまったくない世界。
湯滝へと続く川。三途の川を渡ればあの世である「地獄」の風景が広がる
秋田県・湯沢市商工観光課「川原毛地獄」 http://aios.city-yuzawa.jp/kanko/kanko02-01.htm そんな地獄の山頂の丘をぐるりとひと巡りし、駐車場へと戻る。 はあ。無事生還できてほっとひと息。プチ地獄旅行でスリリングな体験を終え、こんどは駐車場から川へ下っていく。いよいよ湯滝に向かうのだ。
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川原毛地獄の湯滝。温泉が滝つぼに流れ落ちる、見事な湯の滝だ
高さ20mはあるだろうか。まさに典型的な「滝」といえる、すばらしい景観。 岩に砕け散ったあとの霧ではなく、たしかに湯気のようなものが立ち上っているようにも見える。 滝に近づいてゆくと、その道の傍らに、木で囲っただけの簡単な脱衣所がある。さっそく服を脱ぎ(基本的に水着を着用するように!)、滝つぼへと向かう。10畳ほどの広さで、深さも腰の上ぐらい。湯加減もややぬるめだが、絶妙だ。滝の直下に近づくともう少し深くなる。 「おおー! これはたしかに滝の温泉だー!」 上流で噴出する熱湯が沢水とまじりあうことで冷まされ、適温の滝となって流れ落ちる。入浴に適した時期は7月上旬から9月中旬までの夏の間とのことだが、地獄のなかにも天国はあるものだ、とひとりごちた。 地獄/天国体験のあとに向かったのは、小安峡へと続く、山間に数軒しかない小さな集落。そこは泥湯温泉と呼ばれる秘湯だ。
泥湯温泉・奥山旅館の大露天風呂。宿泊収容人員は20名程度なので、大きな湯船をゆったりと独占できる
古くは、この温泉の北に当たる岩山には天狗が隠れていると言われ、泥湯天狗神社には天狗の面が奉納されている。時代は変われども、自然を恐れ、神秘的なものを敬う気持ちは理解できなくもない。 もともと秘湯中の秘湯として温泉ファンに人気の地であったが、これから冬にかけてのシーズンは、クルマでのアクセスはさらに厳しくなる。雪が降れば県境の峠道が閉鎖になるので、アクセスできるルートが限られてしまう。
奥山旅館の食事は季節に合わせた山の恵みが中心。山菜は春が中心だが、冬季は山芋鍋や馬刺などが食べられる
奥山旅館 住所:秋田県湯沢市高松字泥湯沢25 TEL:0183-79-3021 http://www5.ocn.ne.jp/~doroyu-o/index.htm |
泥湯温泉は冬の間も営業しているが、周辺の道路が11月から5月ごろまで冬季閉鎖となる。小安峡と秋の宮温泉郷からのアクセスはできない。岩手県側からは北上から横手へ、山形県側からは国道13号で雄勝へ回り込むルートでアクセスしてほしい。
・秋田自動車道・湯沢ICより国道13号で45分
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・執筆を手がける。最近はじめたばかりのブログ「軽井沢別宅日記」をどうぞよろしく。 http://blog.bectac.com/
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