「さるく」という言葉をこのごろ耳にする。九州地方で「歩く」を意味し、たとえば「熊本さるく」なら、熊本を歩くということ。加えて“散策する”、“探訪する”という要素も含まれているようだ。各地でブームになりつつある街歩きを体験しよう。 |
知らない街を歩いてみようと推奨する歌詩もあるくらいだから、街歩きは楽しいことなのだ!と、バカボンのパパのような口調で始まる今回である。 |
旅の仕事をしているからと言って、365日どこかをぷらぷら歩いているわけではないし、行く場所に偏りがあるのも事実。そんな僕がこの2年以内に散策して、おもしろかったと推薦できるところを「自分勝手さるくランキング・トップ5」にしてみた。もちろん、私的感情がたっぷり入っています、ガイドのおじさんが酒好きだったとか。さらに季節を考慮して、温泉でほかほかになれるところのポイントを高くしました。許してくださいね。 |
ジャジャン。第5位 漁師の暮らしを知るさるく 牛深の「せどわ」。軒先がくっつきそう
天草の南にある牛深は天下の良港として発展、立ち寄る廻船と漁業によってにぎわった街。宴席で歌い踊られた陽気な「牛深ハイヤ節」は牛深に停泊した廻船によって全国に伝わり、「佐渡おけさ」「津軽アイヤ節」などに姿を変えて各地で伝承されているほどだ。 牛深には網元の住んだ地区とは別に、漁師たちが暮らした「せどわ」と呼ばれる地域が残り、そこは軒下がぶつかるほど家屋が密集、まるで迷路のようだ。さらに、船乗りたちを呼び込むために女衆が上った坂なども残る。 ボランティア・ガイドが昔と今を楽しく説明。第5位になった理由は二日酔い気味なのに、写真店を営んでいたガイドの名調子が高ポイントだったから。街歩きツアーを楽しんだ後は、名物のきびなごや、鯛茶漬けをさらり、と。これがうまいんだなぁ。 天草宝島観光協会 http://www.t-island.jp/ |
ジャジャン。第4位 駄菓子に芋菓子でお腹いっぱい 川越では駄菓子屋めぐりが病みつきです
徳川幕府の守りを固めるために重要な役割を果たした城下町には昔ながらの街並みが残り、「小江戸川越」として人気を博している。 防火のために幕府の奨励によってできた「蔵造り商家」や、川越のシンボルになっている「時の鐘」などがあるのが「蔵造りゾーン」。博物館がある「博物館ゾーン」、五百羅漢や1月3日のダルマ市で知られる喜多院がある「喜多院ゾーン」の3エリアが主な散策ポイントだ。 個人的に好きなのは「蔵造りゾーン」である。そこにある漬物屋で試食しつつ漬物を選び(玉ねぎの漬物がご飯にベストマッチです)、「菓子屋横丁」では飴作りを見物(のど飴もあるよ)、昔懐かしい駄菓子に歓喜する。駄菓子世代でない子どもも喜ぶこと間違いなし。名物の芋せんべいもおみやげにぜひ。 小江戸川越観光協会 http://www.koedo.or.jp/0_japanese/index.html |
ジャジャ、ジャジャン。第3位 温泉を訪ね歩く 乳頭温泉郷鶴の湯温泉の白にごりの湯
11月終わりの土曜日、テレビや雑誌でおなじみの温泉達人・野口悦男さんが天国に旅立っていった。僕は野口さんとは27年の付き合い。どれだけ一緒に全国各地の温泉を訪ね歩いただろう。 河原の石を掘って湯船を作ったこともあったし、温泉上がりにクマ鍋を一緒につついたこともあった。日本全国北から南まで、二人で旅した温泉地は400を下らない。 そのなかでも“温泉散策”が印象深いのは乳頭温泉郷だ。雪深い冬だと徒歩では困難だが、黒湯温泉から鶴の湯温泉まで、入浴を繰り返しながら山道を歩く。乳頭温泉郷はたとえば鶴の湯温泉だけでも白湯、黒湯、中の湯、滝の湯と4つの源泉を備えるぐらいだから、めぐる温泉地でまったく異なる湯が楽しめる。白いにごり湯、黒い湯、鉄分の多い赤い湯と、実にさまざまなのだ。新緑の季節、ここでの散策は格別だ。 一緒に旅したころの野口悦男温泉達人
そこのエメラルド色の美しい湯に入ると何が起きるかは行ってからのお楽しみ、答えは書きません。自然の力を思い知るんじゃないかな。 乳頭温泉郷 http://www.hana.or.jp/~nyuto/ |
ジャジャジャ、ジャーン。第2位 桐下駄、平賀源内、ミニお遍路 桐下駄職人の技に感嘆する
四国霊場第86番志度寺の門前に広がる街。まずは桐下駄職人のいる店を訪ねてみよう。明治中期に始まった桐下駄作りは、昭和の最盛期には30もの業者があった。しかし、時代の流れによって今では2軒だけになったが、桐下駄職人の手によってていねいに桐下駄が作られている。 熟練した職人の作業は見ていておもしろい。下駄作りの工具も興味深い。桐下駄は問屋に卸され、全国各地に運ばれるそうだ。「桐下駄工場見学と桐下駄作り体験」を行うツアーもある。 志度は江戸時代の才人・平賀源内の生誕地でもある。学者、医者、陶芸家と、さまざまな肩書をもつ偉才の遺品館(生家)が門前にあり、庭は薬草園になっている。 街歩きの締めくくりは志度寺へ。ちょっとだけお遍路さん気分で心を清めてしまいたい。ちなみに僕は四国に行くと、八十八か所のうちのどこかに必ず立ち寄り、身と心を清めています。 ところで、香川の魅力は志度だけではない。たとえば、醤油蔵と酒蔵をめぐり、名産の和三盆で作ったシフォンケーキを食べる引田の街歩きツアー。瀬戸内海の地魚を味わえる高松港ガイドツアー。金比羅宮をめぐるガイドツアーなど、地域ごとにさまざまな街歩きツアーを実施しているのが香川の特徴。合わせ技で1本、第2位に入ったというわけ。もちろん、讃岐うどんめぐりも忘れてはダメです。 エンジョイ香川 http://www.21kagawa.com/ |
パンパカパーン。第1位 温泉の力を知る街歩き 高温の源泉の湯気を利用したむし湯
杖立温泉は福岡を始め大勢の観光客がやって来て、昭和時代に活況を迎えた温泉地。川が温泉街の真ん中を流れ、その両側に昔ながらの温泉宿が軒を並べ、あちこちから昇る湯気も風情たっぷり。 杖立の人々は昔ながらの細い路地裏を「背戸屋(せどや)」と呼んでおり、地元ボランティア・ガイドによる「背戸屋めぐり」が楽しい。 古い街並みを見学するだけではなく、ここでは温泉の底力を痛感できる。温泉を利用したさまざまな文化が生まれており、それを見てまわるのが「うーむ、なるほど」なのである。先人たちは実に温泉を上手に利用していると感心する。 杖立の「みちくさ案内人」渡邊誠次さん
お次は「むし場」。温泉の蒸気を利用した自然の台所で、野菜や卵などの食材を蒸す。杖立温泉は硫化水素が含まれていないので、野菜なども気軽に蒸すことができたのだ。 現在ではむし場を利用して作る「杖立プリン」が大人気。茶碗蒸しに砂糖を加えた「甘玉子」という名のプリンは以前からあったが、それが復活した。 高温・上質な温泉にめぐまれた昭和レトロ感たっぷりの温泉地を散策し、温泉で作ったプリンを楽しむ。ガイドも思わずにっこりの街角ツアーだ。 杖立温泉 http://tsuetate-onsen.com/ |
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載中(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/)