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2009年、明けましておめでとうございます。今年の干支はモーモーの牛。そこで、牛を見に出かけましょう。観光牧場は全国各地にあります。搾乳体験をしたり、新鮮なミルクで作った乳製品を味わったり。牛さんはご利益たっぷりの動物です。

牧草地をのんびり歩く牛たち

私の夫、少々変わった学校を卒業しています。中学1年生の全員が寮に入って学ぶのですが、最初に受けた授業は「木工」だったそうです。寮で使う机、イス、本箱を作るため。

中学3年では腕時計の組み立てを行ったんですって。驚くのはそればかりではありません。この学校、那須に農場、三重県に植林地を所有しており、高校1年になると那須の農場に出かけて農業全般を学び、高校3年の時には裸の山に檜の苗を植えたそうです。

「あと15年経ったら同窓会を三重で行い、僕らが植えた木を切り出すぞー!」なんて、夢のようなことを口にしています。

農業学校というわけではないのに、なんでもかんでも行ったのは、“生活の糧となる産業は全生徒に体験させる”という創設者の想いが込められていたからです。

そんな体験のなかでも、とくに思い出深いのは那須の農場体験だったと夫が言います。
「ひとクラス40人が、全部で8班くらいに分かれて担当する。畑班は朝から夕方まで畑仕事の繰り返し。あれ、腰が痛くなるらしい。開拓班なんて木の切り出しや根っこを抜く作業で汗だくになっていた。その点、僕は牛班。早朝に機械をつけて搾乳をすれば、あとは放牧のお供。牛を放牧している間、牧草地でお昼寝ばかりだった」と、夫。この人、どこまで調子いいのかしら。

でも、同じ牛関連班でもサイロ班は超ハードワークだったそうです。牧草地から草を刈り取り、それをサイロに詰めていく。白いTシャツは草汁で緑色に染まり、サイロの中は暑いからヘトヘトに。

サイロに詰めた牧草は冬のあいだの牛の食糧になります。サイロの中で牧草が乳酸発酵、ま、牛のための保存食といったところでしょう。
春は出産のシーズン。仔牛に出合えるかも
一昔前なら背の高いとんがり屋根のサイロは、牛のいる農家の目印でした。しかし、近年は「ロールベールサイレージ」が主流になってきました。みなさんも秋の牧草地で見かけませんか? 直径2メートルほどの、きれいに切ったロールケーキみたいなものを。あれは刈り取った牧草をロール状にして、その上から白や黒、緑のシートでラッピングしたものです。サイロと同様に、シートの中で牧草が乳酸発酵し、牛たちの冬季の餌になります。

常時、同じ肥料を与えている酪農農家では牛乳の味はあまり変わりませんが、「ああ、牛乳の味はやはり食べ物で変わるんだ」と痛感したことがあります。

広大な牧草地にジャージー種を放牧して育てている農家のヨーグルトをいただいたことがあります。よく見ると、フタには「夏の味」と書かれていました。それは濃厚で猛烈な深みがあり、少々さわやかな草の香りがしました。冬場にも注文したところ、今度は「冬の味」と書かれており、いただいてみると草の香りはなく、より一層とろりとした口当たりが印象に残りました。別にどちらがおいしいというわけではありません(どちらもすごくおいしい)。ただ、香りやとろけ感が微妙に異なるのです。

牛は牛乳を出す機械ではありません。季節や食糧によって味が変わっても当たり前なんです。それに気づかされました。
それ以降、観光牧場に興味を抱きました。観光牧場は景観が売りだけに、牧草地を確保しているところが多いのです。つまり、春から秋は緑の牧草を食み、冬になれば乳酸発酵した牧草を食む。何度も通ううちに、四季によってミルクの味が変わるのに気づきます。新鮮なものを口にしたければ現地に赴く。ミルクであってもその鉄則は変わりません。
乳絞り体験でミルク好きになる子どもも多い

「牛はね、人間のことがよくわかっているんだよ。こちらがやさしく接すれば、あちらもおだやかな対応をする。放牧のあと、ワラを水に濡らして、それで体についた汚れを落としてやるんだ。牛はどこでも寝転がっちゃうから、牧草の上の汚物を体に付けてしまう。ワラでこすりながら汚れを落としてやると、牛がすごくやさしい目をする。でもね、反対にいたずらをすると、まるでアブを追うようにしっぽを振るんだ。友人のなかにはしっぽで顔面をはたかれた奴もいるよ」と、夫が当時を思い出しながら言います。

最近の観光牧場では乳絞り体験、チーズ作り体験などが盛んに行われています。牛は体が大きいから、ちょっとびっくりしてしまう大人も子どももいますが、ゆっくり近づけば牛は絶対に暴れたりしません。乳絞りも手のひらでやわらかく包み込み、ゆったり行えば牛はじっとしたままです。

しかし、牛を怖がって大声を出したり、牛のそばではしゃぎすぎて暴れたら、牛もびっくりしてしまいます。そして、そのうるさいのを追い払おうとして“しっぽパンチ”を繰り出すかもしれません。ま、最近はそれを防ぐために係員さんがしっぽを固定するケースが多いようですが。
お手軽にできる乳搾り体験や農場体験、観光牧場を利用してぜひ挑戦してみましょう。

牛は人間ともっとも仲のいい動物の1種

牧場で消毒しただけの新鮮なミルクが買えるのであれば、それを家に持って帰ってください。
みんなで行うのはバター作りです。500mlの空のペットボトルにミルクを3分の1ほど入れて、ひたすら振ります。振って、振って、振り続けます。子どもも夢中になってシャカシャカ。大人もシャカシャカ。30分ほどたつと、ミルクの中に小さな白い塊ができてきます。ここまでくれば、もうちょっとの辛抱。さらにシャカシャカ、シャカシャカとペットボトルを振ってください。

頃合いを見て、食塩をペットボトル内に投入。その後も振り続けていると、やがて塊がまとまって透明の水の中にピンポン玉くらいの球が完成します。そうなれば完成は間近。ペットボトルから水分だけを取り出します。室内が暖かく、白い球の固まり具合がゆるいのであれば冷水につけましょう。

しゃきっと固まったらペットボトルの上部を切り、白い球を取り出してください。バターの完成です。
それを熱々のパンやジャガイモに付けて食べる。自家製バターは塩分が抑えめでやや薄味(いかに市販のバターに塩分が多いかがわかりますよ)でしょうが、やはり手作りに勝るものはありません。家族全員がバターを付けてニコニコ。ペットボトルを振り続けた甲斐があるというものです。

なお、最後に隠し技をひとつ。ペットボトルを振り続けて30分経過した頃に、「魔法の液体をどうぞ」と言って、ペットボトルに生クリームを入れてあげましょう。固形化するのが早くなり、立派なバターが素早くできます。そして、魔法の液体をくれたおとうさん、おかあさんに子どもたちは感嘆し、とびきりの笑顔を見せるでしょう。


小岩井農場(岩手県) 冬は一面の雪に覆われますが、「かまくら」「花火大会」などを開催。小岩井の乳製品をたっぷり楽しんで。http://www.koiwai.co.jp/makiba/index.html

千本松牧場(栃木県)牧場の広さは東京ドーム178個分というものすごさ。こだわりソフトクリームと牧場内にある温泉が抜群です。http://www.senbonmatsu.com/

成田ゆめ牧場(千葉県)動物との触れ合いが楽しめる牧場。乳製品に加えて特製のパンも人気。隣接してキャンプ場もありますよ。http://www.yumebokujo.com/

マザー牧場(千葉県)ジャージー牛乳が美味。さまざまなイベントを開催。イチゴ狩りも可能。バンジージャンプにはぜひトライ。http://www.motherfarm.co.jp/

長門牧場(長野県)冬季は雪の白が映えて抜群の景観。バター作り、チーズ作り、アイスクリーム作りなど各種体験が可能。http://www.nagatofarm.com/index.html

富士ミルクランド(静岡県)数々のコンテストに入賞しているチーズは絶品。搾乳、バター作り体験や仔牛への乳やり体験も。http://www.fujimilkland.com/

愛知牧場(愛知県)「自然と遊ぼう!」をコンセプトに動物広場などを整備。乳絞り、手作りウインナー教室など体験メニューも多数。http://www.aiboku.com/

おおさか府民牧場(大阪府)搾乳体験などの体験メニューも数多く、ファミリーで1日遊べる牧場。ポニーなどの動物も迎えてくれる。http://osaka-midori.jp/bokujyou/index2.html

淡路島牧場(兵庫県)搾乳、ポニー乗馬、どろんこ体験(!)などができるが、「牛乳無料飲み放題」がすばらしい(笑)。http://www.awajishima.or.jp/

大山まきばミルクの里(鳥取県)霊峰・大山の麓にある美しい牧場。ここのおすすめは大きなシュークリームとソフトクリーム。http://www.milknosato.com/

モーモーファーム竹原牧場(熊本県)阿蘇の山々を目の前にする牧場では乳製品だけでなくパン、ソーセージ作り体験もできる。http://www.aso.ne.jp/~momo/

らくのうマザーズ阿蘇ミルク牧場(熊本県)牛舎、体験教室、バーベキューハウスなどさまざまな施設が揃う。搾乳体験はここで撮影。http://www.park.mothers.or.jp/index-j.html

< PROFILE >
石井 喜代美
ご主人がアウトドア・旅行雑誌の編集者をしており、その関係で国内外の旅に同行。ブランドショップより地元の市場、高級レストランより庶民の味、そして動物園と水族館には必ず行く主義だとか。キャンプや温泉にも詳しい。
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