「若者は都会へ」。この流れは今に始まったことじゃない。そして、農村部には高齢者が残される。住人のいなくなった民家や休耕田となってしまった田が目立つようになる。深刻な問題である“過疎”を解決するために斬新な発想を取り入れた場所があった。 |
旧三国街道須川宿のおもかげがあるメインロード
読売新聞が運営するウェブサイトYOMIURI ONLINEに「いいもんだ田舎暮らしhttp://www.yomiuri.co.jp/tabi/」という連載を始めて2年近くになる。定年や退職を機に都会から田舎へ移住した人を訪ね、そこでの生活や趣味、初めて行った畑仕事などの様子をレポートする。 現在、田舎への移住は比較的簡単になった。その背景に地方の過疎化がある。住人のいない民家、人の手が入らなくなって久しい田畑。これらがものすごく多いのだ。 写真左の看板を見ればさまざまな体験ができるのがわかる
移住しようと思えば安価で古民家が手に入るし、田畑にするための土地も安い料金で契約できる。取材した人のなかには、広大な畑を有するのに借地代は年に2回の付け届け程度、500平方メートルの畑の借地代が年額2万円というケースもあった。田舎への移住を行政も支援する。都会から人が来てくれれば、過疎対策になる。 さて、群馬県のみなかみ町に「たくみの里」がある。数年前までは過疎が進行する集落だった。しかし、現在は地元の住民と移住者が協力し、24戸もの「たくみの家」が点在する“体験”村として、年間47万人もの観光客が訪れる場所になった。 |
ガラスの家では金剛砂を吹き付けて模様付け
関越自動車道月夜野インターチェンジから国道17号を猿ヶ京温泉方面に走っていると、やがて道路の脇に「たくみの里」の看板が出てくる。 ちりめんを使って箱を作る
【そば打ち体験】豊楽館、 貝ガラにちりめんで装飾、ひな人形が完成
このほかにも「マッチ絵の家」、素焼きの土鈴に絵付けをする「鈴の家」、「おしばなの家」、「ガラスの家」、「ぬり絵の家」、「ちりめん細工の家」、「ドライフラワーの家」など、さまざまな体験ができる。 なんといってもおもしろいのは「地元」と「日本の昔」が意識されていることだ。地元産のコンニャク玉を使用したり、地元に伝わってきた竹細工など、昔からこの集落に伝わってきた伝統が、新しいかたちで遠来のお客に披露されている。また、一昔前ののどかな遊びや工芸がこの集落に凝縮されており、年配の方にとっては懐かしい気持ちになる。 |
自動車道のインターチェンジからも近く、周囲に名湯がある「たくみの里」は、四季それぞれに楽しめる。
冬はうっすらと雪が積もる。1日目は水上周辺でスキーやスノーボードを楽しみ、温泉宿に泊まって2日目は「たくみの里」で過ごすのがベストプラン。
春から初夏は周囲の緑が美しい時期だ。体験をするだけでなく、野仏めぐりなどの日本の田舎を満喫する1日が楽しい。
夏は避暑をかねて。畑が緑色に染まり、目がうれしい時期だ。
秋、周囲は紅葉で美しく、リンゴ狩りなどもできる季節。収穫の秋を存分に。
というわけで、「たくみの里」は自然のままの里山ワンダーランド。田舎と体験の両方が楽しめる絶好の場所なのだ。
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載中(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/)