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福岡は観光の拠点となる九州随一の都市。そこからわずか
1時間足らずのドライブで、風情のある水の里に出会った。
朝倉三連水車
所在地:福岡県朝倉市
九州・福岡での週末日帰り旅行。
涼を求めて、筑後川沿いの清流と湧水の里に向かった。

筑後川は阿蘇山を源流とし、九州北部を東から西へ、久留米を経て有明海に注ぐ一級河川だ。今回の目的は、その筑後川沿いにある原鶴温泉と、その周辺の水をめぐる旅にあった。

福岡から九州自動車道を南へ向かう。鳥栖JCTは西の長崎、東の大分、南の熊本への分岐点となるため、とくに平日は太宰府付近から渋滞するルートとなっている。

博多駅から大分自動車道・朝倉ICまで約50分。高速を下り、国道386号線を筑後川に沿って東へ向かう。最初の目的地は「菱野三連水車」。

「はちみつの藤井」の看板に引き寄せられるように無料の駐車場に停める。ここは水車見学にはもってこいの駐車スペースで、庭園には蓮の花が咲き乱れていた。思いがけない光景にカメラを向ける。
園内を散策していると、あぜ道の向こうに木製の二連水車が姿を現した。

これが、日本で唯一現存する木製の重連水車群だ。
いまも現役で稼働している。

筑後川の氾濫による洪水を防ぎ、田畑に安定した水を供給するため、筑後川から支流の堀川を引き、約200年以上前の宝暦年間に水車をまわしはじめた。

少し上流に向かって歩くと、菱野三連水車が現れた。
ここには三連水車のほかに、三島二連水車、九重二連水車の3つの重連水車があり、平成2年に国指定の民俗文化財に指定されている。

実用的な水車を見たのはこれがはじめてだった。
水車の大きさは背丈ほどの高さしかないが、近づいたときの、この存在感はなんだ。
柄杓がぐんぐん水をくみ上げ、トイに流し込む。すごい水の勢いだ。
川幅を細くして水流を強くすると水車がまわり、三連の水車で1分間に6000リットルもの水をくみ上げる。
3つの重連水車では35ヘクタールの水田を潤している。

力強いだけでなく、機能的な美しさを兼ね備えた水車。
地元の農家の方がきちんとメンテナンスをし、使い続けてきたことが、今日の保存につながったのだろう。

6月中旬から10月中旬までの期間、断続的に休みはあるが、この夏も水車はまわり続けている。
筑後吉井
所在地:福岡県うきは市
三連水車からJR九大本線・筑後吉井駅に向かう。

吉井はかつて天領日田へ通じる豊後街道の宿場町として栄え、白いなまこ壁の土蔵造りの商家がいまでも立ち並んでいる。
それらは商店のほか、ギャラリーや古美術店などに転用され、写真を撮りながらの散策も楽しい。

クルマは国道210号線(旧豊後街道)から、福岡銀行のT字路を白壁通りに入り、少し走ったところにある観光会館の無料駐車場に停めるのがいい。
観光会館「土蔵」でマップを入手して街を散策すれば、ゆっくりまわって1時間ほどのミニトリップができる。

この町はおひなさまめぐりにも力を入れており、筑後地方独特の「おきあげ」や「箱雛」といった手作りのおひなさま文化が残っている。
2月上旬から3月下旬まで、これらを展示したイベントが行われており、この時期に訪れるのも楽しみ方のひとつだ。

清水湧水
所在地:福岡県うきは市
吉井を離れ、国道210号線を東の日田方面に進む。
次の目的地は、建長元年(1249年)に、諸国を遍歴する常陸の国の僧が発見したという湧水だ。

環境庁が認定した日本名水百選にも数えられるこの「清水湧水」は、臨済宗の清水寺の敷地内にある。

駐車場から寺の正門に向かう前に、湧き水を利用した水浴びスペースがあった。素足の子どもたちがはしゃいで水をかけあっている。

湧き水は杉木立のなかにあり、あたりの気温がぐっと下がったように涼しくなった。
ペットボトルを何本も持って、地元の人が水を汲んでいた。水汲みの人は次から次へと何人もやってくる。

柄杓で水をすくって飲んでみると、ひやっとしたなかに、やわらかな、滋味深い口当たりのよさを感じた。
硬度を示すカルシウム、マグネシウム等を含む数値は36.2㎎/lと超軟水。味のある、うまい水だった。
泰泉閣
所在地:福岡県朝倉市杷木志波20
TEL:0946-62-1140
筑後川周辺を散策して、汗を流すために温泉へとクルマを走らせた。

筑後川には、その流域に宝泉寺、天ヶ瀬、日田、筑後川、原鶴の5つの温泉地が点在している。
この5つの温泉は総称で筑後川流域温泉郷と呼ばれている。

筑後吉井、うきはの町に近いのが、筑後川温泉と原鶴温泉。
この一帯は福岡の奥座敷として、県下一の温泉地と位置付けられており、なかでも原鶴温泉は宿の件数も多く、明治時代に開業した宿もある。

日帰り入浴をしている宿も多く、その中の一軒、「泰泉閣」を訪れた。

日帰り入浴料は800円。露天風呂の「渓流の湯」、森林のなかにいるような「ジャングル風呂」、河童伝説の里の逸話から命名された半露天の「かっぱの湯」などがあり、日替わりで男女の入れ替えをしている。

原鶴温泉は歴史があり、旅館により泉源をもつので、宿により泉質が異なる。泰泉閣の泉質は単純アルカリ硫黄泉。
肌に触れるとぬるっとした感触で、つるつるになるいわゆる美人の湯だ。
ジャングルのような木々の間にあるいくつかの浴槽を行き来しながら、短くも充実していた一日を思った。
<筑後川流域温泉郷>
●宝泉寺温泉
所在地:大分県玖珠郡九重町
おもな泉質:単純温泉
●天ヶ瀬温泉
所在地:大分県日田市天瀬町
おもな泉質:単純温泉、硫黄泉、食塩泉
●日田温泉
所在地:大分県日田市
おもな泉質:単純温泉、ナトリウム―炭酸水素塩・塩化物泉
●筑後川温泉
所在地:福岡県うきは市浮羽町
おもな泉質:単純温泉、放射能泉
●原鶴温泉
所在地:福岡県朝倉市杷木町
おもな泉質:弱アルカリ性単純温泉、単純硫黄泉

千年家
所在地:福岡県うきは市吉井町千年
TEL:0943-76-4186
食事処としてぜひおすすめしたいのが、原鶴温泉から国道210号線に向かうところにあるうなぎ料理の「千年家」。
昼時にもなればクルマが駐車場からあふれているのでひと際目につく。うな重(1560円)は蒸さずに仕上げた、皮が香ばしい関西風。
甘辛の濃厚なタレでしっかりした味つけ。
写真のセイロ蒸し(1400円)はタレをしみこませたごはんの上に焼いたうなぎを乗せてセイロで蒸した関東風。驚くほど身と皮がやわらかく、ほくほくしている。あまりのおいしさに、この価格で天然うなぎを使用しているのかと思い、女将さんにたずねると、控え目に「養殖なんですよ」との返答。炭焼でもないのに焼き方は絶妙。
都内なら、この倍の値段でも納得するのでは。水のおいしい地域だけに、よほどいい水で育てられたうなぎだと思った。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・執筆を手がける。ブログ「軽井沢別宅日記」をどうぞよろしく。 http://blog.bectac.com/
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