美しい自然と暮らしの文化は 強い意志があってこそ伝承される |
足助八幡宮の秋の例祭「足助まつり」。高さ6mあまりの山車が曳かれ、火縄銃の鉄砲隊も警護に就く勇壮なまつり
11月になると、日没から21時にかけて毎日、カエデの見事な紅葉を眺めながら、郷土に思いを馳せる町がある。 愛知県豊田市、足助町(あすけちょう)。 尾張・三河と信州とを結ぶ伊那街道(別名・中馬街道)は、塩の道として知られている。 中山道の脇往還として、三河湾で採れた塩が信州や美濃地方へ運ばれ、山の産品が尾張や三河地方へ送られた。 足助は三河湾に下って扇状に広がる分岐点となる山里で、塩の道の宿場町、山荷をほどく交易の町として栄えた。 江戸天保年間には塩問屋が14軒もあったほど、人の往来が盛んだった。歴史をひもとくと、足助の地中からは多くの縄文土器が出土する。 いまから約1300年ほど前の白鳳年間には、足助八幡宮が創建された。 文正元年(1466年)再建の本殿は国の重要文化財に指定されており、4台の山車を引きまわす「足助まつり」は、18世紀半ばには現在とほぼ同じ形で行われていた。明治時代になり、近代化の名のもとに鉄道や工業化が進むと、歴史と活気のあった山里はその繁栄から次第に遠のいていく。 とくに戦後の高度成長期には急速に過疎化が進行した。足助の町にはいまでも漆喰と板壁で覆われた塗り込め造りの街並みが残っている。 三州足助屋敷
所在地: 開館時間:9:00~17:00 休館日:木曜日、年末年始(ゴールデンウィーク、11月は開館) 入館料:大人500円、高校生以下200円 その背後には、町の将来を憂い、自然の景観と塩の道の歴史に観光地としての活路を見出した先人たちの慧眼があった。1964年、5人の町民により、離村した古民家4棟を移築させた郷土料理店「一の谷」が開業する。75年には町の有志65人が集まり「足助の町並みを守る会」が発足。 町並みについての学術的な研究をはじめたのと同時に、解体寸前の歴史的建造物を買い取る運動が、住民の開発による地域づくりの意識を徐々に町並みの保存による観光へと変えていった。80年には、明治時代の豪農屋敷をイメージさせる「三州足助屋敷」が開設。ここでは和紙を使っての番傘造りや、桶造り、機織り、ぞうりなどのわら細工、紙すき、炭焼き、鍛冶、竹を使ったかご細工を学ぶことができる。 こうした手仕事はお年寄りの手によって復活され、彼らの仕事と生きがいの場を確保することになった。地方にある民芸展示館と一線を画すのは、職人と来訪者とのふれあいによって、かつての暮らしぶりや文化を伝承していこうという、強い意志が感じられることだ。 |
夏の風物詩「たんころりん」。家によってお囃子やアコースティックな音楽会が開かれている
農耕や神社にまつわる祭礼は本来そこに住む人々のものだが、足助のイベントには来訪者も共同体の一員として参加し、楽しむことができるという視点がある。 代表的なものをいくつか挙げると、「中馬のおひなさん」(2月上旬~3月上旬)は、交流館などのいくつかの拠点のほかに、街道沿いの家々が開放されて衣装雛や土雛が展示される。 夏至の時期には、民家の前に「たんころりん」と呼ばれる竹で編んだ行燈がいくつも並べられ、電気を消したスローな夜の風情を楽しむ。 夏のお盆には、静かな念仏を唱和し、楽器を使わずに音頭とりの歌に合わせて踊る「綾渡の夜念仏と盆踊」が。これは国の無形重要文化財に指定されている。 飯盛山を中心に、待月橋や巴川越しに見る紅葉は絶景
そして11月。足助の観光地としての名を広めた「香嵐渓もみじまつり」(11月1日~30日)が開催される。 町から巴川越しに見える飯盛山(254m)では、一面の紅葉が見頃を迎える。ライトアップにより、昼夜を問わず紅葉が見られるだけでなく、和太鼓や陶器展などのイベントも開催される。 香積寺第11世住職の三栄和尚によってカエデや杉が植えられたのは、いまから約370年前。 大正時代には地元の人々により飯盛山中に植樹され、今日の景観を創り出している。足助を訪れれば、そこに住みたくなるようなロマンを感じる。 過疎を救う地域文化とはなにか、ということがおのずと感じられるのではないだろうか。 |
アクセスは、関東方面からは東海環状自動車道・豊田勘八ICか鞍ヶ池PAスマートICで下車。関西方面からは東名高速道路・名古屋ICから猿投グリーンロード力石IC下車。足助の町は国道153号から足助バイパストンネルを避けて旧道に入ったところにある。11月の週末は紅葉による大渋滞が見込まれる。駐車場は足助八幡宮や足助支所に近い宮町、西町近辺にあるが、中心部なだけに避けたほうが無難。飯盛山裏手の落部駐車場が狙い目。歩いての観光も十分可能だ。また、11月21日~23日、28日、29日は足助資料館に近い豊田市足助グラウンド、足助中学校・小学校が臨時駐車場になる。
問い合わせ先
足助観光協会
所在地:愛知県豊田市足助町宮平26-1
TEL:0565-62-1272
< PROFILE >
長尾嘉津友
雑誌や書籍、ウェブなど、活字にまつわるメディアのプロデュースを手がけるエディトリアル・ディレクター。
旅行や写真が趣味であり、仕事。最近はクルーズに注目しています。
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