病気を治す“奇跡の温泉”として知られる玉川温泉。強酸性の泉質と岩盤浴の効果だけではなく、ゆるキャラ「岩盤マン」が訪れた人の心と体を癒してくれる。 |
夕食を楽しむ客と親しげに写真を撮ったりしている。全身をオレンジ色で統一し、いわゆるゴレンジャーのような戦隊モノのコスチュームで、頭には鎧兜のようなヘルメットを装着している。 温泉旅館でキャラクターとは珍しいなあと思って調べてみると、このキャラの名前や略歴を見つけた。 名前は大憤岩雄(おおぶきいわお)。平安時代の大同元年(806年)、焼山の噴火によって誕生。08年1月、1200年の眠りより覚め、岩盤の秩序と安全を守るため、岩盤マンとして地上に現れる、とある。 “大憤の憤は、本当は噴火の噴を当てたかったんじゃないかなー”と突っ込みを入れたくなるところだが、テレビを見ているときには名前までは知らず、こんな顧客サービスもあるんだ、と感心したことを思い出す。はっきりと記憶に残っている理由は、その温泉が秋田県の玉川温泉であったことだった。 玉川温泉ではゴザを敷いて岩盤浴をする
玉川温泉 所在地:秋田県仙北市田沢湖玉川 TEL:0187-58-3000 外来営業期間:4月中旬~11月下旬 営業時間:7:00~20:00 日帰り入浴料:600円(子ども300円、幼児100円) 観光地の温泉旅館とは異なり、自炊の湯治客も多い温泉宿でこのような試みとは違和感がある。だがそれがかえって、ぐっと胸に迫るのだ。ゆるキャラを生んだ行動力に感銘しながら、記憶のなかに深く刻み込まれたというわけだ。 ホームページを見ると、玉川温泉では温泉療法を5つの総合作用として考える、と宣言している。 1 泉質刺激による療法(pH1.2の強酸性泉) 2 気候刺激による療法(海抜740mの気圧、森林浴ほか) 3 入浴による物理療法(浮力、水圧、温度ほか) 4 地熱による温熱療法(岩盤浴) 5 お客様同士による精神的ケア(情報交換、励まし合いほか) この5番目の項目に、実際に現場を体験した者にしか掲げられないリアリティがある。 同じ浴槽に入る者同士、ふと目に入った隣の人の肌に、手術の傷跡を見つけることもあるだろう。同じ境遇であることを確認し、励まし合い、情報を交換することが、日常生活では得られない精神的なケアになるとしたら、その効能は決して小さくはないはずだ。 |
玉川温泉の特徴のひとつに、強酸性の湯が挙げられる。 pH1.05の酸性-含二酸化炭素・鉄(Ⅱ)・アルミニウム-塩化物泉。2倍に希釈してある温泉水を、さらに5~8倍に薄めて飲泉することを推奨しているが、それでも酸が強くて水でうがいをしないと歯のエナメル質が溶けてしまうほどだ。 飲泉は軽度の糖尿病や、胃潰瘍、慢性胃炎、慢性肝炎などの消化器疾患に効果が認められる。一方、腎臓病、高血圧症、甲状腺に疾患がある人には向かない。 毎分9000リットルという、1カ所の源泉からの湧出量は日本一を誇り、硫化水素臭のある98度の熱水が噴き出ている。 この湯を利用し、さまざまな浴槽を準備しているのも温泉療法をうたう玉川温泉ならではだ。 源泉100%の浴槽のほか、ぬる湯(源泉50%)、あつ湯(源泉50%)、浸頭湯・寝湯(源泉50%)、弱酸性の湯、打たせ湯(源泉50%)、蒸気湯・箱蒸し湯など、それぞれ適切な入浴時間や方法が細かく設定されている。 慢性の皮膚病に対する効果は大きく、水虫も7日~10日の湯治で完治した事例も報告されているという。 強酸性の湯治を続けると、3~5日目ごろに一時的な症状の悪化や抗菌力の減退があるものの、温泉浴を続けていくうちに代謝が改善されて免疫力や抗菌力が強くなっていく。 一方、ガンに対しては、この酸性湯は禁忌症として掲載されており、入浴は推奨されていない。玉川温泉には、もうひとつ、多くのガン患者が目的とする別の温泉利用法があるのだ。 宿泊施設から歩いて300mほど自然研究路を上がっていくと、あちこちから噴煙が上がる一帯がある。この一帯は国立公園内のために立入禁止区域があるが、地熱のある岩盤の一部に、岩盤浴のスペースが確保されている。 岩肌の上に持参したゴザを敷き、スウェットシャツを着たままそこに横たわる。タオルケットや毛布などをかけて、そのまま30分から40分、地熱を感じながら汗をかくのだ。 この岩盤は「北投石(ほくとうせき)」と呼ばれ、特別天然記念物に指定されている。学術的に含鉛重晶石と呼ばれるこの石は、放射性をもつ天然のラジウムを含み、世界でも台湾の台北市にある北投温泉と、この玉川温泉でしか産出されない。 この岩盤浴がなぜガンに作用するといわれるのか。 その医学的な根拠は明らかになっていない。 岩盤の効能を主張する人のなかには、ホルミシス効果を根拠に挙げるものもある。ホルミシス効果とは、「生物に対して通常有害な作用を示すものが、微量であれば逆によい作用を示す」というものだ。 このホルミシス効果ですら、効能を疑問視する医師は多い。 だが、この岩盤浴と入浴を繰り返すことで、ガン細胞が消え、完全に治癒したという人がいるのも事実だ。 治癒した理由は、カラダにゆっくりとした休息を与えながら、温熱効果によって免疫力が高まり、ガン細胞が減ったことによるのかもしれない。 しかし、理由はどうであろうと、回復の可能性があるかぎり、人は玉川温泉の効能を信じて湯治を続ける。 それでいいのだ、とも思う。 玉川温泉に訪れる人に、癒しを提供する岩盤マン。 少しでもやすらぎの場所を提供しようと思うスタッフの気持ちこそが、治癒につながる最高の薬になっているのだろう。 |
玉川温泉へは、観光がてら東北道・松尾八幡平ICから八幡平を抜けるルートが気持ちいい(約2時間)。そのほか、東北道・盛岡ICから田沢湖を経由するルートだと約2時間30分の行程となる。なお、11月下旬から翌年4月中旬までの冬季は、国道341号線(田沢湖側長者の館~鹿角側澄川間)が全面通行止めになる。そのため、クルマでの玉川温泉への乗り入れはできず、また日帰り入浴の利用も不可となる。冬季は田沢湖駅から新玉川温泉までの路線バスを利用し(約80分)、新玉川温泉から雪上車で(約15分)玉川温泉へというアクセスになる。