三陸海岸にある浄土ヶ浜は、本州最東端にある日本有数の美しい浜辺。この地にある「青の洞窟」を体験するために、盛岡から100kmのドライブに出発した。 |
青の洞窟といえば、イタリア・カンパニア州のカプリ島が有名だが、日本でもそんな光景が見られるとは知らなかった。 岩山が波によって浸食され、海食洞ができると、小舟でその洞窟の中に入っていくことができる。三陸でも同じように“サッパ船”という小舟に乗っていくという。 なにはともあれ、行ってみよう。 岩手県宮古市、浄土ヶ浜にあるその「青の洞窟」をめざして北に向かった。 東京からは東北新幹線で盛岡駅まで、たった2時間半で着いてしまう。 盛岡駅でレンタカーを借り、国道106号線の宮古街道(閉伊街道)を東へ向かった。盛岡から浄土ヶ浜までは約100km、2時間強の道のりだ。 この宮古街道が素晴らしかった。 街道はローカル線のJR山田線と並走しており、ときおり姿を表す橋脚が旅情を誘う。 フライフィッシングができるほどの川幅をもち、川の両岸は深い緑に覆われている。渓流が好きな釣り師であれば、誰もが竿を垂れてみたくなる、そんな景観が延々と続いた。 宮古市で真っ先に入ったお鮨屋さんの大将によれば、この川には秋になると鮭が遡上するという。とくに観光化されているわけではないのだが、大将は鮭が来る時期になると閉伊川へ向かう。何千匹という鮭が産卵し、力尽きていく様子を見ていると敬虔な気持ちになる。 観光で宮古に来たお客さんを、何度か閉伊川の産卵が見られる場所に連れて行ったことがある。みな感激して涙を浮かべながら、満足して感謝の言葉を述べていくのだという。 船による観光船もあり、浄土ヶ浜やロウソク岩といった景観を堪能できるほか、ウミネコの餌付も楽しむことができる
豊富な海産物は乾燥させたり塩漬けにして、廻船で江戸へと運ばれていた。 宮古の海産物といえば、春は花見ガキ、夏は生ウニ、ホヤ、秋はサンマ、冬は鮭、毛ガニ、アワビ、どんこ(エゾアイナメ)。 旅行先では必ずその町の市場に向かうのだが、宮古にも海山の幸が並ぶ生活市場があった。 「魚菜市場」は、宮古駅から北へ徒歩で7、8分のところにある。 この時期、とくに目を惹いたのが、牛乳瓶に入った生ウニの瓶詰めと岩ガキだった。 生ウニは日によって市場値が変わり、日数が経つと次第に価格が下がっていく。 土産に購入して、帰ってから丼にしてみたが、丼茶碗にウニをご飯が隠れるほど乗せても、ゆうに2人分はあった。 薄い塩水に浸して殺菌処理をしているので、ミョウバン臭はまったくなく、これまで食べたどんなウニよりも甘く、うまみがあった。 岩ガキはひとつ100円から、手のひらサイズの大きなものでも250円で販売しており、その場で殻を開けてくれる。ひと口では食べきれないほど身が大きく、すぐにもうひとつ食べたくなって、その場からしばし立ち去ることができなかった。 いかん。 目的を忘れるところだった。 浄土ヶ浜の「青の洞窟」は、宮古湾に突き出た小さな臼木半島の東側にある。 この日の午後はあいにくの濃霧で、美しい色が望めるとは思えなかったので、明日に持ち越すことにした。 浄土ヶ浜は陸中海岸国立公園を代表する浜辺で、環境省が選ぶ「快水浴場百選」のなかでもとくに優れた海の部特選10カ所のひとつに選ばれている。 天和年間(1681~1684)に、宮古山常安寺7世の霊鏡竜湖大和尚がこの地を訪れた際、「さながら極楽浄土のごとし」と感嘆したことが、地名の由来となっている。白い浜辺を浄土に、外界を地獄に見立て、浜の北東に突き出た半島部には剣の山や賽の河原、血の池といった名前がつけられている。 奥浄土ヶ浜に立つと、そこは砂浜ではなく、足元に岩盤を砕いたような白い岩が山積しているのがわかる。これは流紋岩(石英粗面岩)という火成岩で、臼木半島の標高86mの臼木山(うすきやま)から浜にかけて分布しているものだ。 波による浸食によって岸壁が削られ、そのかけらが浜に打ち上げられてこの景観を作り出している。 臼木山の山頂周辺には駐車場が点在しており、4月~10月まではタクシーや観光バス以外、東側の海岸線にクルマで下りていくことはできない。 海水浴場として開放される奥浄土ヶ浜や砥石浜、ボート乗り場や観光船の発着所など、小さな湾がひだを成すように幾重にも連なっている。 ひときわ美しい景観を維持しているのは、こうした地の利によって入場を制限している効果もあるのだろう。 太平洋を望む露天風呂
浄土ヶ浜パークホテル 所在地:岩手県宮古市浄土ヶ浜 ご予約・お問い合わせ TEL:0193-62-2321 日帰り入浴不可 宮古市周辺には、残念ながら自噴する温泉を利用した温泉宿はなく、わずかに鉱泉があるだけだ。 浄土ヶ浜パークホテルは、宮古湾を望むロケーションのほか、開放感あふれる大浴場が魅力のひとつになっている。 泉質にこだわる源泉かけ流し派の温泉好きにとっては物足りないかもしれないが、ロビーや部屋から眺める景観や海の幸をふんだんに使った料理は、それを補うに余りある。 宮古市街地から浄土ヶ浜に向かう途中にある「道の駅みやこ・シートピアなあど」は、2013年7月6日、2年4カ月ぶりに再開した。東日本大震災では5mの津波が2階部分にまで押し寄せ、建物が半壊。幸い基礎や構造が無事だったため、改修工事が進められていた。地元野菜や海産物などの販売所やレストランがある。 シートピアなあど
所在地:宮古市臨港通1-20 営業時間:9:00~17:00 定休日:無休 だが、時間が経つにつれて霧は薄くなり、右手にすぐ目の前の御台場展望台のシルエットが浮かび上がってきた。
ホテルの窓からは雲海が広がっていた
いよいよ青の洞窟へと向かう。 ボート乗り場の浄土ヶ浜マリンハウスへは、徒歩で急こう配の階段と車道を下りていく。 2人~4人程度まで乗れるサッパ船の由来は、笹の葉のように小さな漁師船から来ている。 浄土ヶ浜マリンハウス
所在地:岩手県宮古市日立浜町32-4 TEL:0193-63-1327 営業時間:8:30~17:00 営業期間:3月~11月 料金:一人1500円(予約受付なし) 所要時間:約20分 サッパ船はいったん奥浄土ヶ浜へと向かい、湾内を一周して剣の山や血の池に接近してくれる。海上から見る浄土ヶ浜は、いっそう自然の迫力を感じさせる。 船はぐるりとまわって陸の方向へ向くと、御台場展望台の南側へまわりこんだ。岸壁にぽっかりと亀裂が入っているのがわかる。 地元の漁師の間では、この穴は「八戸穴」と呼ばれている。 水深はおよそ7、8m。奥行きは20、いや30mぐらいあるだろうか。 この穴の水面の奥に、さらに深い穴が広がっており、この穴は青森の八戸まで通じていると言われていた。ここには、そう思わせるだけの神秘的な雰囲気がある。一度穴の奥深くに飲み込まれてしまったら、戻ってこられないかもしれない。 穴の奥深くまで進んだところで、サッパ船はゆっくりと入口の方向へと船首をまわした。 すると、目の前にはコバルトブルーの水面が広がっていた。 透明度が高く、海底の岩や貝にまで手が届いてしまいそうだ。 たしかにここは、「青の洞窟」。 これを目当てに、足を運んだ甲斐があったと納得するものがあった。 カプリ島に行くなら、まずその前に宮古の青の洞窟へ。 日常から遠く離れたこの景観は、旅の思い出として深く刻まれることになった。 |
サッパ船の青の洞窟観光は、季節や天候によって色合いが変わるため、予約は受け付けていない。狙い目は、天候のいい日の干潮時。潮が引いたときには洞窟がさらに大きくなり、奥で岩から潮を吹く様子を見ることができるという。本当に天候に恵まれた日は年に何日もないというから、青の洞窟が体験できるだけ、幸運かもしれません。