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魅惑の温泉ドライブ古湯から日帰り湯まで、日本全国温泉行脚の旅
心を照らす灯ろうの光「ひじおりの灯」を求めて山形県大蔵村/肘折温泉

山形県大蔵村にある肘折温泉は、開湯1200年以上の歴史を誇る湯治の温泉地。カルデラのなかにひっそりとたたずむ湯の里が、学生たちによる町おこしで再び脚光を浴びつつあるのを知っていますか。

住民の思いをつないで和紙に描いた「肘折絵巻」

「2010ひじおりの灯」は7月13日~8月31日まで開催された。今年は地元の青年団や閉校した小中学校の児童も出店するなど地域文化として根づきつつある
この夏、十何年かぶりでお盆に帰省した。
これまで実家に帰るタイミングといえば正月ぐらいで、それもほんの2、3日の駆け足滞在。昔過ごした町をじっくりと振り返ることもなく、あわただしく東京の生活に戻ってくるのが、いつもの帰省だった。

ここ数年、実家のある山形で、町おこしの新しい動きが起こっている。
山形市にある東北芸術工科大学の学生たちが山形の魅力を再発見し、建築やアート、民俗学といった側面から新しく定義しなおし、地域を活性化するプロジェクトが進んでいるのだ。

こうした動きを見ておきたいという気持ちに火がついたことが、この夏に帰省するきっかけのひとつになった。  

2007年、山形県のほぼ中央に位置する肘折温泉で、東北芸術工科大学の赤坂憲雄教授のもと、「肘折温泉プロジェクト」が発足した。赤坂教授は「東北学」を提唱するアクティブな民俗学者だ。その一環として「ひじおりの灯」というアートムーブメントが始まっている。  

ツイッターで「hijiorinohi」を検索すると、温泉街に週替わりで常駐する芸工大の学生がつぶやいている様子をフォローできる。急きょ、夏の間だけ期間限定でオープンすることになったカフェ「肘折黒」。そのカフェの運営と灯ろうのメンテナンスをしながら、彼らは温泉街に訪れる人との出会いから起こった身辺雑記をつぶやいている。

「ひじおりの灯」は、夏の夜に、温泉街を灯ろうでライトアップするイベントだ。開湯1200年を迎えた2007年から始まったオリジナル灯ろうの展覧会で、今年で4年目を迎えた。
芸工大で絵画やデザインを学ぶ学生が2泊3日の合宿を行うなかで、肘折に住む人々から民俗学的手法でヒアリングを行う。そしてその話をモチーフとして、手漉きの月山和紙に各自が思い描いた「肘折絵巻」を表現していく。
その絵巻は庄内地方の職人の手により灯ろうとして組み立てられ、肘折温泉の夏の夜を彩るのだ。


肘折温泉全景。いで湯豊かな小さな山里だ
「ひじおりの灯」に魅せられ、山形へと向かった。
出身地とはいえ、僕にとっては初めての肘折温泉行になる。  

山形市から国道13号線を北上し、新庄方面へと向かう。西側は出羽山地で、役小角が開いたといわれる修験道の葉山(1462m)がある。
江戸時代初期までは羽黒山、月山とともに出羽三山のひとつと数えられていたが、のちに里から離れた湯殿山に重きが置かれるようになると、葉山の修験道は衰退していった。

肘折温泉はその葉山の北西側に位置する。
北からぐるりと回り込むように県道を走る。
まだ青い稲の広がる水田や緑豊かな山里を抜け、山形市からは約2時間のドライブとなった。

肘折温泉は、県道からぐっと標高が下がった場所に位置している。
直径2キロの火山のカルデラ(火口)がそのまま温泉街になったといわれるように、つづら折りの下り坂の途中から、肘折温泉の全景を眺めることができた。
山の奥深くに、突然現れた人里というイメージだろうか。  


崖斜面のため、歩道にはガードレールが設置してある
肘折温泉の開湯の歴史は、大同2年(807年)と伝えられる。
豊後国(大分県)からやってきた行者の源翁が山中で道に迷って途方にくれていると、そこで老僧と出会う。老僧は、「かつて崖から落ちて肘を折った際に、岩の隙間から湧き出る湯を発見し、肘を浸したところたちまち傷が治った」という。

この老僧こそが地蔵権現であり、この湯の効能を伝えることを源翁に託したとの伝説がある。
源翁は、崖の壁を削ってその洞窟に住みつき、温泉を後世に伝えた。
その「地蔵倉(じぞうくら)」は肘折温泉開湯の地として、地元の人々に大切にされている。
温泉街から小1時間ほどで歩いていくこともできるが、はじめは森の中を抜け、途中からは岸壁を伝っていくように登っていかなければならない。 

温泉街から一気に標高を上がっていくので息が切れる。
しかし、その代償から得られる景色はすばらしい。


温泉だけでなく、囲炉裏端で供される山海の味覚もこの宿の魅力のひとつだ
湯宿 元河原湯
所在地:山形県最上郡大蔵村肘折温泉
TEL:0233-76-2259
日帰り入浴:12:00~15:00
入浴料金:500円(4階展望風呂利用)
そして、最後に見えるのは、岸壁に寄り添うように立つ小さな木造の庵。
その手前には、約10体の地蔵が見守っていた。 岩の穴に念じた紙をこよりにして入れると願いが叶うと言われており、地蔵の周りには無数のこよりがぶら下がっている。 

温泉街は銅山川に寄り添うように集落を成しており、川上の堰のたもとには「不動の湯」と呼ばれる源泉が湧き出ている。
泉温は73.5度。泉質は含重層―食塩泉(ナトリウム―塩化物・炭酸水素塩温泉)で、旅館や一部の一般家庭に供給されている。  

温泉街の中心、共同浴場の「上の湯」に入るとその泉質がよくわかる。
無色透明なのだが、ほんのりと鉱物のような香りがほのかに立っている。
湯口から源泉をすくって口に含むと、塩気を感じたあとに、うまみが広がってくる。これまで入ったどの温泉よりも、味が濃い。
飲用すると、慢性消化器病、慢性便秘、糖尿病、痛風、肝臓病に効く。

宿によっては独自に源泉をもつところもあり、微妙に泉質が異なっていて、軒先にはその源泉を使った足湯に浸れるのがこの温泉地の楽しみのひとつとなっている。

宿泊した「湯宿 元河原湯」では、分類的には不動の湯と同じ泉質ではあるが、明らかに茶褐色が強く、鉄分が多く含まれているのがわかる。
展望風呂では不動の湯と混合させて源泉かけ流しを楽しめるほか、貸切湯では信楽焼の浴槽に河原湯源泉が100%注ぎ込まれ、異なった趣きの湯を堪能することができた。

このほかにも、肘折温泉には「肘折いでゆ館」、「黄金温泉 カルデラ温泉館」という大きなふたつの日帰り湯がある。
ともに源泉は「不動の湯」とは異なるのだが、泉質は含重層―食塩泉(ナトリウム―塩化物・炭酸水素塩泉)で同じ系統。

とくに気になったのは、「カルデラ温泉館」にある天然の炭酸水だった。
泉温7.8度の単純二酸化炭素冷鉱水(単純炭酸水)。
脱衣所の入り口前に飲泉所があり、とぎれることなく炭酸水が湧き出ている。
ひしゃくですくって飲むと、口の中に淡い炭酸が広がり、若干の酸味と塩分も感じられる。かなりうまい。
ここでは2リットルのペットボトルの容器を200円で購入することができる。胃酸を中和し、胆汁の分泌を高めるこの炭酸水を持ち帰ることにした。フレッシュな炭酸水は、なかなか手に入らない。
いいお土産になった。 


肘折いでゆ館
所在地:山形県最上郡大蔵村大字南山451-2
TEL:0233-34-6106
利用時間:9:00~20:00(12月~2月は9:30~17:00、11月・3月は9:30~18:00)
入浴料金:大人350円/小学生200円
休館日:第2・4火曜日(都合により臨時休館日もあり)


黄金温泉 カルデラ温泉館
所在地:山形県最上郡大蔵村大字南山2127-79
TEL:0233-76-2622
利用時間:9:30~19:00(12月~2月は~16:30、11月・3月は~17:00)
入浴料金:大人350円/小学生200円
休館日:第1・3火曜日(都合により臨時休館日もあり)
僕が宿泊した日は、温泉街で湯坐神社大祭の「仮想盆踊り大会」が開催されていた。
トラックに積まれた和太鼓を囲むようにして、湯の里肘折に住む人々が、踊りながら温泉街を移動していく。  

カメラを片手に山車を追いかけていく浴衣姿の観光客。縁側で夕涼みしながら踊りを眺めている宿屋のご主人。温泉街の中心にある共同浴場の前で井戸端会議に花を咲かせる地元の人々。

祭りを眺めながら、「ひじおりの灯」が始まることを一番心待ちにしているのは、じつはここに住んでいる人たちなのではないだろうか、という思いが次第に強くなってきた。  

イベントは観光客のためにあるのではない。その地域に住む人々のためにある。

そして、僕らのような観光客は、こうした地域文化を眺めたり、地元の人たちとの時間を共有することが、小さな感動や安らぎにつながってゆく。

お客様をもてなすことだけを目的にしたイベントでは、きっとその地域に根付くことはむずかしく、活性化にはつながらないだろう。

また、地元の人が楽しむことができないイベントでは、観光客にとっても深い感動にはつながっていかない。

ひとつひとつの作業に意味を持たせ、住民を巻き込んで作り上げていく。

「ひじおりの灯」は、肘折温泉に定着しつつあるように見えた。
「ひじおりの灯」が灯すものは、山に囲まれた地域にひっそりと住む、肘折の人々の心なのだろう。  

肘折温泉からの帰り、大石田駅付近で偶然にだんご屋さんを発見。

田舎道なのにクルマが大挙して路上駐車しており、建物の奥には大きな駐車場も完備されていた。
地元の人に大人気の、豆腐屋が作る「最上川千本だんご」。


最上川千本だんご
所在地:山形県北村山郡大石田町大字大石田乙76
TEL:0237-35-2312
営業時間:8:30~18:30
“明日には固くなるだんご”というキャッチフレーズで、本日中に食べる分しか売ってくれない。添加物を一切使わず、注文を受けてから餡を塗ってくれるという徹底ぶりだ。

しょうゆ、ずんだ(枝豆)、ごま、あんこ、くるみが1本100円前後。ほのかな甘みで3、4本は食べられそうだ。My人生史上最高だんごと断言できる。

店内には休憩所もあり、無料のお茶を飲みながらひと休みもできる。?またひとつ、ヤバい店を見つけてしまった……。
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旅のヒント
山形方面から寒河江を北上して、南から肘折温泉に直接アクセスする国道458号線は、知る人ぞ知る日本で唯一の未舗装区間が残る国道。十分一峠にかけての約28kmにおよぶこの道路は、断崖絶壁が続く「最後のダート国道」として有名で、休日には多くの“酷道ファン”が訪れるほど。ルートとしては国道13号線を北上し、舟形方面から看板に沿って入るのが順当だ。
秋は10月下旬から11月上旬にかけて、新そばの収穫祭が行われる。また、秋の味覚といえば、原木から育てたなめこが美味。傘が大きく、味も濃厚で、市販のなめこからは想像つかないほどのおいしさだ。このローカルフードをもっと知ってもらうために45年前に始まったのが「なめこ・こけし祭り」。「肘折いでゆ館」を舞台に、湯治に訪れた人々に特製なめこ汁が振る舞われる。また、約100年の歴史を誇る「肘折こけし」の即売会も行われる。10月27日(火)に開催。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・執筆を手がける。ブログ「軽井沢別宅日記」をどうぞよろしく。 http://blog.bectac.com/
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