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魅惑の温泉ドライブ古湯から日帰り湯まで、日本全国温泉行脚の旅
想像を超えた温泉濃度でタオルが茶褐色に染まる野天風呂長野県松代町/加賀井温泉
長野県松代町に知る人ぞ知る茶褐色の名湯がある。鉄分やナトリウム、カルシウムの含有量が多い炭酸泉で、あまりの濃度の高さに引湯管も詰まってしまうほど。脱衣所も洗い場もない秘湯になぜ惹きつけられるのか。その理由を探しに旅に出た。
温泉の湯力に負けないご主人の心意気

内湯入口。ドアを開けるとすぐに脱衣スペースがあり、流し場で着替えるようなイメージだ。建物を左側にまわりこむと野天風呂がある
加賀井温泉 一陽館(かがいおんせん いちようかん)
所在地:長野県長野市松代町東条55
TEL:026-278-2016
入浴料:大人300円、小学生100円、乳幼児無料
営業時間:8:00~20:00
休館日:無休
駐車場:40台
泉質:含鉄(II)―ナトリウム・カルシウム―塩化物温泉(中性高張性温泉)
源泉:40.8度
PH値:6.3
長野県松代町にすごい温泉があるという。
そこで善光寺に行く機会に寄ってみることにした。  

いったい何がすごいのか? 
教えてくれた当の本人は「まあ行ってみればわかるから」と詳しく話してはくれない。ただお湯は茶褐色で、かなり濃度が高いらしい。「でもすごいのはそれだけじゃないんだよね」  

奥歯に物がはさまったような言い方が気になっていた。  

上信越道・長野ICからクルマで8分ほど。
住所や地図を頼りに向かうが周辺は畑や民家ばかりで、それらしき建物が見つからない。カーナビが目的地終点を告げたとき、そこに場違いな他府県のクルマが何台か停まっているのがわかった。
どうやらここがその温泉の駐車場らしい。

目的地は「加賀井温泉一陽館」
一陽館というからには、一軒宿なのだろう。いままでの経験から、そう勝手に推測していた。
駐車場の奥にようやくそれらしき建物が見えてきた。自動販売機なども見える。おや、立て看板がある。

「見学お断り。車進入禁止」  

見学だけして帰る人がいるってことか? カメラはまずかったかな……と思ったとき、建物から店主らしき御主人が出てきた。
「おたくは初めて? 入る前にちょっとこっち来て。はい、これが温泉の成分ね」
巨大な石の塊を見せながら、温泉の効能や入り方について、御主人はとうとうと語りはじめた。  

加賀井温泉は、江戸時代中期、地元加賀井村の住民が湯宿の建設を松代藩に願い出たことが発祥とされている。この一帯の河原には泥をこねたような茶色いぬるま湯がたくさん吹き出しており、温泉の存在は古くから知られていた。
御主人の春日功さんは東京水産大学(現・東京海洋大学)の名誉教授であり、現在湯守として加賀井温泉を守っている。その歴史は父善之助さんが1930年(昭和5)に一陽館を開業したことにはじまる。

開業時の一号泉は戦時中に手入れができなかったためにパイプが腐食して枯れてしまう。二号泉は一号泉に比べ、温度も湯量も桁違いに優良な温泉だったが、65年から始まる松代群発地震の影響で使えなくなってしまった。67年に改めて三号泉を掘削。一方の一号泉も地震ののちにわずかに湧出を再開し、現在は源泉がふたつある状態になっている。

善之助さんの死後は親戚が守り続け、99年に春日さんが跡を継いだ。一陽館は旅館として営業していたが、10年ほど前に休止し、現在は日帰り入浴のみとなっている。


温泉成分が石のように固まってしまったパイプ内部。新鮮なお湯を確保するために手入れを怠ることはできない
肝心の湯船だが、温泉は管理棟向かいの独立した建物にある。男女別でヨコ2m×奥行き7mほどの細長い浴槽。鉄分と石灰質、炭酸の含有量が多い半透明の湯で、もちろん源泉かけ流し。湯船のへりにはびっしりと石灰華がこびりつき、雪庇のように湯の内側に張り出している。これが木造の湯船だとは、話を聞かなければわからないほどだ。
石鹸が泡立たないほど濃厚な湯なので洗い場はない。外に混浴の野天風呂が二槽あるが、そこまで行くには裸のままサンダルを引っかけて一度ドアを出る必要がある。

野天風呂は赤褐色の湯。空気に触れることで温泉の色が変化していく。温めの湯だが、常連さんはカラダをゆっくりと沈めて居眠りをしている。
タオルはみるみるうちに黄色くなり、湯船の横にあったプラスチックの桶は濃い茶色に染まっていた。浸かっている客の頭に載せたタオルを見れば、色の濃さによってその人がどのくらい通っているかがわかる。

入浴後、御主人に招かれ話をうかがった。
「ここは湯治のための温泉。薄めて目を洗ったり、湯口から温泉を飲む人もいるよ」
効能の高さは折り紙つきだが、その副作用としてあまりの濃さに、毎日大量の泥が出る。それをかき出して湯の流れを確保するのも並大抵の苦労ではないことがわかる。
管理棟の入口に、泥が詰まって石灰化したパイプが無造作に置かれてあった。一番最初に見せてくれた石の塊は、パイプの中に詰まった石灰質を砕いたものだ。

効能が高い温泉だからこそ、たくさんの人に利用してもらいたい。温泉を守っていきたいという御主人の気持ちの強さが、初来場者に対する“洗礼”となって表にあらわれる。

この湯力を体験したいま、知り合いがすごいと言っていた理由がよくわかる。

温泉に負けないくらい、この御主人の思いは濃い。
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旅のヒント

THE FUJIYA GOHONJIN
(ザ・フジヤ ゴホンジン)
所在地:長野県大門町80
TEL:026-232-1206
善光寺参りの際には仲見世めぐりも楽しいものだ。
建物に目を惹かれて入ったのは、仲見世をまっすぐ下ったところにある「御本陣藤屋旅館」。大正ロマンの風情が漂うアールデコ風の洋館で、現在は宿ではなくレストランとして営業している。

和モダンにリノベーションされたバー、ラウンジを抜けると、奥にしゃれたメインダイニングが広がる。

ランチにはパスタランチコース(1000円~)があり、食後のコーヒーはラウンジに席を移してゆったりとくつろげる気配りも。

長野も確実に変化しているというのがわかる、居心地のいい空間だ。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・執筆を手がける。ブログ「軽井沢別宅日記」をどうぞよろしく。 http://blog.bectac.com/
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