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千葉県一宮町はサーファーズパラダイス。砂浜の長さや波の高さから日本有数のサーフゲレンデとして人気が高い。九十九里浜を見下ろす高台には、この一帯で最も歴史のあるゴルフ場があり、そこは完璧なグリーンを体験できる真っ当なコースだった。
西コース8番ホールのグリーン。西コースは雄大なリゾートコースで池が深い印象を与える
一の宮カントリー倶楽部
所在地:千葉県長生郡一宮町東浪見3166
TEL:0475-42-3711
ホール:36ホール
東コース  パー72
ベント:6548ヤード(バックティ)/6186ヤード(レギュラーティ)/5448ヤード(レディスティ)
コーライ:6624ヤード(バックティ)/6262ヤード(レギュラーティ)/5496ヤード(レディスティ)
西コース パー72
ベント:6640ヤード(バックティ)/6300ヤード(レギュラーティ)/5308ヤード(レディスティ)
コーライ:6668ヤード(バックティ)/6328ヤード(レギュラーティ)/5294ヤード(レディスティ)
開場:1972年
コース設計:沢井徳三郎(監修)
ゲスト料金: 平日1万145円~、土日祝1万6275円~(セルフプレー4名1ラウンド)
東京都内から京葉道路を東へ向かう。
千葉東金道路を経て、終点の東金料金所でいったん国道に出る。
ここまで約1時間。

思ったよりもスムーズに来たなと思いながら、すぐに東金九十九里道路に乗った。  

交通量は少なく、かなり快適なドライブだ。
外房に来るのは久しぶりで、もっと時間がかかるかと思っていたが、あっという間に海岸線に突き当たった。正面にある巨大な建築物は国民宿舎で、初日の出には予約が取れないほどの人気ぶりだという。  

この海岸線はとくに日の出が美しいのだ。

九十九里道路は海岸沿いの防風林を南北に走る道で、一宮へ向かう左手には砂浜と海が見える。
その景色にはっとさせられた。

砂浜のところどころに枯れた芝がびっしりと張りついている。
これは完全にリンクスじゃないか。

もしここにゴルフ場があったら、本物のリンクスになったかもしれない。英国人ならば羊でも飼いながら自然の地形を生かして海岸線にゴルフ場をつくり、この九十九里道路はもっと内陸寄りにしただろうに。  

そんな空想を抱きながら、一宮町へ入っていった。

一宮はかつて「西の大磯、東の一宮」と呼ばれ、明治の元勲や名家の別荘地として栄えた歴史をもつ。
1897年(明治3)に大網―一宮間の鉄道が開通すると、両国から外房へのアクセスが可能になった。海水浴場が整備され、すごしやすい温暖な気候が好まれて100軒ほどの別荘が建てられた。  

だが、にぎわいをみせるのも第二次世界大戦までの話。戦時下にあっては国民に別荘地に目を向けるほどの余裕はなかった。  

戦後、この地に目をつけたのはサーファーだった。
九十九里の最南端に位置する東浪見(とらみ)海岸は一宮海岸から長い砂浜でつながり、サーフィン向けのいい波が立つことで知られている。  

なかでも釣ヶ崎海岸は日本で最もレベルが高いサーフゲレンデとして注目され、09年からは大きな国際大会が開かれるようになった。

近年はサーフィンを目的とした移住者も見られるようになり、デザイナーズ住宅がちらほらと増えはじめている。  

西コース3番ホール、パー4、403ヤード。バンカーの砂の量もしっかり入っているのでクラブヘッドが潜る
西コース18番ホール、パー5.バックティから637ヤードもある名物ホール。ティショットでかせがないと3オンはむずかしい
東コース13番ホール、パー4、383ヤード。左右のプレッシャーを感じるがそれほど難易度は高くなく2オンを狙える
東コース14番ホール、パー5、581ヤード。2段グリーンだが周囲は広いので攻めやすい
さて、今回の目的地の「一の宮カントリー倶楽部」は、東浪見海岸入口から内陸のほうへ少し入った小高い丘の上にある。

冬は温暖なために降雪がほとんどなく、夏は海からの涼風が爽やかな恵まれた環境。  

開業は1972年(昭和47)とこのあたりでは一番古く、50万坪の敷地に西、東の36ホールを擁するチャンピオンコースだ。
開業当時は田中角栄が提唱した日本列島改造論のブームに沸いていたころで、ジャンボ尾崎の活躍とともにゴルフは世の中に浸透していった。  

西コースはアップダウンが少なく、キャディバッグを積むだけのリモコンカートを利用した“歩き”でのプレーとなる。随所にアクセントとなる池が配置され、美しい景観はリゾートコースと呼ぶにふさわしい。

東コースは4人乗りの乗用カートを使用。コース幅は十分に確保してあるが、アップダウンやOBエリアに注意すべき難易度の高いホールがあり、クラブ選択と攻略性を求められる。  

どちらもベントとコーライの2グリーンで、季節によって使い分けられるコース設計になっている。  

この日、東コースをプレーして驚かせられたのは、ベントグリーンの仕上がりのよさだった。  

ベントグリーンにはペンクロスを使用。4ミリカットということで、刈高はどのゴルフ場にも見られる、プロのトーナメント仕様ではない普通の高さになっている。  

だが、パターを離れたボールは鏡面を滑るように転がり、勢いが衰えないままカップの横を通り過ぎてしまった。
予想をはるかに超え、ボールはグリーンの起伏に合わせるようになだらかにカーブを描いて止まった。  

止まるかな、と思ってからの最後のひと伸びとなめらかなボールの転がり方が、これまで体験したどのグリーンとも違うのだ。
見て美しいだけでなく、ボールがガタついたりカップの周りで跳ねたりすることがない。  

ラウンドを重ねるうち、このグリーンの距離感やラインがよくわかるようになり、後半にはいいタッチの寄せが連発するようになった。  

アンフェアではないグリーンなので、感覚さえ合ってしまえば自分を信じてパットすることができる。きちんとストロークすれば狙ったところに打てる素直さが感じられるのだ。  

もし「いいグリーンの基準」を自分なりに設定するとしたら、この一宮カントリー倶楽部のグリーンがスタンダードだと断言してもいい。
本当においしい食材にめぐり会ったときに、これが本物の味だと“わかる”ことがある。それと似た感覚をグリーンで体験したのは初めてだった。


ランチのおすすめは、一つひとつの料理にしっかりと手が入ってバラエティ豊かな「一の宮弁当」1580円と、ボリュームいっぱいで箸を持つ手が止まらなくなる「豚肉・スタミナ野菜炒め」1470円。料理は元・幕張プリンスホテルの料理長が担当。中華料理の腕も立つのでそちらのメニューも注目。
グリーンキーパーの今井清さんは、このゴルフ場に勤めて46年にもなる大ベテラン。千葉県下のゴルフ場でその名を知らないキーパーはいないほど、コース管理の達人として慕われている。
息子さんも父親と同じ道を歩み、現在、東京ゴルフ倶楽部(埼玉県狭山市)でサブキーパーとして働いているという。  

ラウンドを終えると、クラブ本数確認のためにカートに近づいたスタッフから、あたたかい饅頭のもてなしを受けた。
さりげないサービスなのだが、冷えたカラダを気遣ってわざわざあたためてくれるのがうれしい。  

開場して約40年ともなると、時間の流れとともに施設は老朽化し、クラブハウスには時代を感じさせるところもある。
30代の若いゴルファーのなかには「昭和の匂いがする」というビジターもいると、総支配人の小林愼一さんは語る。

「昔つくったものをいかに使っていくか。いまでは当たり前かもしれませんが、よりいいものを安く提供するのが我々の使命だと思っています」  

ゴルフ環境が様変わりしたいま、総支配人の言葉から感じられるのは、目先を変えるのではなく、運用の仕方でよりよい倶楽部を作り上げていこうという前向きな「気概」だ。  

利益主義に走るゴルフ場が多いなか、このような「真っ当な」ゴルフ場にめぐり会えるのは幸運だ。  

初めて訪れた一宮の地だったが、帰るころにはまた訪れたいと強く思うようになっていた。
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国道128号線のゴルフ場入口付近の交差点には小さなJAがあり、一宮町の農産物の購入が可能だ。また、128号線を茂原市方面に戻ると、道路沿いに魚介類を扱う店舗があり、アサリやハマグリなどが安価で手に入る。
< PROFILE >
長岡 努
編集者。元ゴルフ月刊誌『waggle』(ワッグル)デスク。現在もゴルフギアやルポを中心に『waggle』、週刊『パーゴルフ』などで執筆中。都会と田舎暮らしの二地域居住のヒントや情報を提供する[デュアルライフプレス]を主宰している。
http://blog.duallifepress.com
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