静岡県にある大井川といえば、江戸時代の川越人足による肩車での渡しが有名だ。徳川幕府の軍事上の理由からあえて橋や渡し船は置かれなかった。現在、この上流では、毎日蒸気機関車が運行している。そのレトロな旅は、鉄道ファンならずとも心惹かれる魅力に満ちている。 |
大井川鐡道・大井川本線を走る蒸気機関車。毎日1本運行している
ラフティングといえば本格的なシーズンは夏のように思われるが、水量が増える雪解けの季節がおもしろい。水に触れると手が凍ってしまいそうな冷たさだが、ウェットスーツに身を包み、水しぶきをあげてゴムボートで豪快にすべっていく。 なぜかこの年は、徳島の吉野川や群馬・水上の利根川など、立て続けにラフティングめぐりをすることになった。 不思議だが、こういうことはたまにある。 で、長瀞のラフティングの帰りだった。 そいつはいきなり目の前に現れたのだ。 真っ黒な煙を吐き、汽笛を鳴らして、蒸気機関車が目の前の踏切を通過していったのだ。 予期せぬことだっただけに、その存在感に圧倒され、ラフティングの興奮の余韻がいっぺんに吹き飛んでしまった。 動いている蒸気機関車を間近で見たのは、それが人生で初めてだったのだ。 秩父鉄道では、週末を中心に熊谷から長瀞を経由して三峰口まで、一日一往復のペースで蒸気機関車を運転している。 予備知識がなかったとはいえ、不覚だった。 もし、知っていたら、長瀞の旅の行程は運行ダイヤを基準として考え、ラフティングという選択肢はなかったかもしれない。 通り過ぎる蒸気機関車を眺めながら、ついさっきまで盛り上げてくれたラフティングのスタッフに申し訳ないような、後ろめたい気持ちになったのを覚えている。 蒸気機関車は、夏休みなど、ある特別の期間でなければ乗れない、というものではない。 今回ピックアップする静岡県の大井川鐡道は、春休みから12月上旬にかけて、毎日蒸気機関車を運行している。 大井川鐡道は、1976年(昭和51)7月9日に、日本で初めて蒸気機関車の動態保存を手がけ、今年で35周年を迎えた。 まだ5台の蒸気機関車が、現役で走り続けている。 大井川鐡道のホームページには、その車両が紹介されている。 ・C10形 8号機 昭和5年、川崎車両で製造。旧国鉄が全国的統合を成し終えて、 最初に新造した近代型タンク式機関車 ・C11 190号機 昭和15年、川崎車両で製造。昭和49年に廃車となり 個人が所有していたものを大規模改修 ・C11形 227号機 昭和17年製造。C10形の改良型として生まれたタンク式機関車 ・C12 164 昭和12年、日本車両で製造。昭和初期の不況時に簡易線用として経済性を求めて製造 ・C56 44 昭和11年、三菱製。テンダー(炭水車)をけん引し長距離走行が可能な機関車 テレビCMや映画の世界と思いきや、蒸気機関車はいまも現役選手として活躍しているのだ。 このデジタルの時代に、ノスタルジックの象徴のようなアナログの機関車が動いているのが奇跡のように思われる。 蒸気機関車の走る大井川本線は、静岡県のほぼ中央に位置する島田市の金谷駅を起点とし、大井川に沿って北上する。千頭駅に至る39.5kmを1時間20分かけて結んでいる。 町営 美女づくりの湯
所在地:静岡県榛原郡川根本町寸又峡温泉 TEL:0547-59-3985 泉質:アルカリ性単純硫黄泉 泉温:43度 営業時間:10:00~19:30 入浴料:大人400円 定休日:木曜日 金谷駅はJR東海道線金谷駅との乗り換え駅だが、駐車場はない。 クルマで行くときには、東名高速道・相良牧之原ICより北へ20分ほど北上したところにある新金谷駅へ向かう。駅には有料駐車場があり、駐車料金は1日700円。クルマを置いて蒸気機関車に乗り換えるか、それとも車窓から機関車を眺めて上流へ向かうか、悩ましい選択を迫られる。 ちなみに午前中に1日1本(繁忙期は3本に増便)運行される蒸気機関車に乗るには座席予約が必要だ。 大井川は中流域が大きく蛇行しているが、線路はそれを縫うように遡上していく。 ダムによる水力発電のため、川幅に比べ水量は少ない。 それが残念と言えば残念だが、河岸の町と山野の合間を力強く進んでいく蒸気機関車に乗っていると、タイムスリップしたかのような感覚に襲われる。 1時間20分の旅はまったく飽きることがない。 すれ違う駅で見かける列車や、車内の設備のひとつひとつがレトロで、つい目を奪われてしまう。 当たり前だが、機関室では本当に石炭をくべている。 「SLおじさん」「SLおばさん」と呼ばれる車掌が客席にまでやってきて、ハーモニカで演奏をはじめたのには驚いた。 こういった演出も含めての運賃と考えると、遊園地の乗り物とは比べ物にならないくらいの満足感がある。 終点の千頭駅からは、バスに乗り換え、40分かけて支流の寸又川沿いの林道を上がっていく。 最終目的地は山の奥深いところにある寸又峡温泉。 芸者やコンパニオンは置かない。ネオンサインはつけない。山への立て看板は設置しないという三原則を頑なに守り、「日本一清楚な温泉保養地」をめざしている静かな温泉地だ。 寸又峡温泉から先は一般車の車両は進入禁止だ。 ダム湖にかけられた「夢の吊り橋」を見るため、徒歩で約90分の「寸又峡プロムナードコース」散策に出かけてみる。 トンネルを歩き、林に囲まれた林道を抜けると、突然エメラルドグリーンの湖が見えてきた。 幻想的な「夢の吊り橋」。途中から引き返す人がいるほどだ
近づいてみて初めてわかるのだが、ワイヤーで吊られた橋の足元には板が渡してあるだけで、下はすけすけ。人がすれ違うのもやっとというほどの幅しかなく、一度に渡れる人数は10名というのもうなづける。 「夢の」という名前には、幻想的なという意味のほかに、夢に出るほど怖いという意味があると言っていた宿の御主人の言葉がよくわかった。 宿泊施設は全部で13軒。 宿で1000円の「湯楽戯手形(ゆらぎてがた)」を購入すると、町営露天風呂のほか、3カ所の宿のお風呂の湯めぐりを楽しむことができる。 無色透明だが、硫黄の香りがして温泉の効能が感じられる肌に優しい湯だ。 ファミリーで子どもを連れていくだけじゃもったいない。 人にやさしくなれるような、心の安らぎを与えてくれる旅になった。 今年の秋、10月7日~10日には、この一帯で「SLフェスタ」が開催される。 市内の小中学校では7日(金)を休みにし、4連休になる。蒸気機関車をテーマに、無料での親子のSL乗車体験や金谷駅での転車台手回し体験などを予定している。大代橋から新大代橋にかけて、2万株のコスモスが植えられるなど、いつもとは違ったにぎわいをみせるだろう。 |
大井川鐡道は金谷―千頭間が本線でSL運転区間となる。春休みから12月上旬までは金谷発11時48分のSLが毎日運転(新金谷発11時58分)。全席座席指定でホームページから予約できる。
片道約80分で、大人1810円の運賃にSL急行料560円で2370円がかかる(子どもは半額)。クルマを駐車した場合、新金谷-千頭間は大人1720円で2280円。
千頭駅からさらに上流の奥泉駅を経由して井川駅に至る井川線は、川根両国駅付近での土砂崩れにより、当分の間運休でバスによる代行運転を行っている。
寸又峡温泉へは、千頭駅からバスで片道約40分。大人片道860円。
寸又峡温泉までは大井川本線とバスとがセットになった2日間有効の「寸又峡フリーきっぷ」4800円がお得(3月20日~12月10日)。さらに今年は6月25日から9月30日にかけて「静岡に泊まろう!半額キャンペーン」を実施中。「寸又峡フリーきっぷ」が半額の2400円になる。