日本海に突き出た能登半島の中央部にあり、日本の高級温泉街の代表のひとつに数えられる和倉温泉。大きな旅館やホテルが建ち並ぶ温泉観光地だが、伝統とモダンが交錯し、日本の温泉を新しいステージに牽引する力強さをもっている。 |
温泉街にある「湯元の広場」。開湯伝説にちなんだ白鷺のブロンズ像があり、源泉が湧き出ている。生卵をカゴの中に沈めておくとほんのり塩味のする温泉卵が作れる
和倉温泉 所在地:石川県七尾市和倉温泉 泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(高張性弱アルカリ性高温泉) 源泉:89.1度 湧出量:毎分1857.6リットル(4つの源泉より) 和倉温泉観光協会 TEL:0767-62-1555 七尾市の中心を流れる御禊川(みそぎがわ)にかかるその橋は、町のランドマークであり、その先に450mにわたって続く「一本杉通り」の入口にあたる。 約40軒ほどの個人商店が建ち並ぶ通りだが、独特の品のよさと落ち着きを感じられるのは、歴史を守ろうとする気概が、町の空気のなかにぴしりと通っているからだろう。 この通りには5軒の有形文化財がある。 明治30年代から昭和初期にかけて建築された木造二階建てで、現在でもそこで茶店や醤油店、ろうそく店が営まれている。 そのうちの一軒、「お茶の北島屋」に入ると、石臼を使って自分で抹茶を挽き、茶を点てる体験ができる。 きな粉と水あめを練って作られた地元名産の「大豆飴」を茶菓子にして、自分で挽いた抹茶をいただく。旅行先のぶらぶら散歩としては、贅沢な時間を過ごすことのできる格別の体験だった。 七尾市は、能登半島中央部の能登島とその南西岸一帯を指す。 高句麗式の石室をもつ古墳が残るほど、古代よりこの地には文化が栄え、戦国時代には能登畠山氏が七尾城に拠点を構えた。 1577年に上杉謙信の侵攻によって畠山氏が滅ぼされると、前田利家が織田信長から能登国を拝領し、のちに前田家が加賀藩を置いて治めた歴史をもつ。 毎年ゴールデンウィークになると、3つの大きな山車が町の中央を曳き回される「青柏祭」が行われる。 「でか山」と呼ばれる山車は、船のように扇形に開いた逆台形で、高さ12mにもおよぶ。 一本杉通りの電柱が高いのは、この山車を曳き回すためだ。 また、この地には「花嫁のれん」と呼ばれる風流な習わしがある。 嫁入りにあたって、花嫁は家紋入りの「のれん」を持参することになっている。着物のような大きなのれんを嫁ぎ先の仏間の入口にかけ、結婚式の朝、そののれんをくぐって先祖の仏前でお参りをするというものだ。 11月1日より、毎週月~金の13時30分に「花嫁のれん」というタイトルの連続ドラ マがフジテレビ系列でスタートしている。 羽田美智子と野際陽子のダブルキャストで、金沢の老舗旅館を舞台としたホームド ラマだ。ドラマを通して、加賀文化を垣間見られるいいきっかけになる。 七尾市では、ゴールデンウィークの前後2週間ほどにかけて、一本杉通りを中心に 百数十枚の花嫁のれんが飾られ、実際に花嫁道中も行われる。 今日でも歴史が息づいて生活に根ざしており、北陸の生活の懐の深さや豊かさを物語っている。 市の中心部である一本杉通りからのと鉄道七尾線に沿うようにクルマで15分ほど北西に進むと、七尾西湾に突き出るように面した和倉温泉に至る。 和倉温泉の歴史は1200年前にさかのぼる。 和倉温泉観光協会のHPによると、平安時代初期の大同年間(806~810年)に薬師岳と称する西側の谷に湯が湧き出し、その後、地殻変動により沖合60mの地に湧出口が移動。 永承年間(1046~1053年)になって漁師夫婦が湯気が立つ海で白鷺が身を癒しているのを見て、湯の湧き出ずる浦“湧浦”が発見されたという。 温泉地として整備されたのは加賀藩3代藩主前田利常の時代。寛永18年(1641年)に湯口の周辺を埋め立てて整備し、湯島とする工事を命じる。 これ以降、多くの湯治客が訪れるようになった。 湯島の埋め立てが進み、承応3年(1654年)には「宿方稼」が認可され、鉱泉宿や内湯宿などが建てられるようになる。 延宝2年(1674年)には加賀藩の命により湧浦を「和倉」と改め、幕末には京都や大阪から公家や豪商などが訪れるようになったという。 湯島までの埋め立てが進んで、陸続きとなるのは明治12年から13年にかけて。 明治4年の廃藩置県で和倉村の湯権は官地から村の共有地として認められ、今日の温泉街へと引き継がれている。 現在、和倉温泉は日本を代表する高級宿が建ち並ぶ温泉街として知られている。 和倉温泉の名を高めたのは、なによりもその泉質の力強さにある。 やや苦みのある塩化物泉で、強い塩気が感じられる。体を芯から温めてくれる効 果が高い。 明治13年に、ドイツ・フランクフルトで開催された万国鉱泉博覧会で、和倉温泉は「世界三等鉱泉」の栄誉を得た。 その優れた泉質と薬効は、現在も健在だ。 源泉100%の飲泉コーナーのある宿も多いが、濃度があまりに高いため、半分に薄めて飲むなど、飲用の注意書きが書かれている。 湯の香 潮の香 総湯館
所在地:石川県七尾市和倉町ワ部5-1 TEL:0767-62-2221 入浴料:大人420円/小学生130円/未就学児50円 営業時間:7:00~22:00 休業日:毎月25日(土日の場合翌月曜日) 泉質:ナトリウム・カルシウム-塩化物泉(高張性弱アルカリ性高温泉) 源泉:82.7度 湧出量:毎分990リットル 足湯を楽しめる湯っ足りパークの「妻恋舟の湯」
食材には金沢で栽培されている加賀野菜や地元の能登野菜を用い、魚介も能登ならではの種類豊富な魚が季節によって楽しめる。 アワビや赤西貝といった貝類もうまいが、冬には加能カニや寒ブリが旬を迎える。 また、近年、温泉街周辺の整備が進められており、平成23年4月には日帰り施設の「総湯」がリニューアルされ、「総湯館」として新しくオープンした。 通り沿いには自分で温泉卵を作れるスペースもあり、入口脇の足湯スペースで時間をつぶしながら過ごすのもいい。 館内は一部木造の雰囲気を残し、天井まで高く吹き抜けたモダンな建築に生まれ変わった。観光案内所も併設されており、このエリアの観光情報を集めることもできる。 和倉温泉の東の入口には「湯っ足りパーク」が整備された。 そのなかにある「妻恋舟の湯」では、7時から19時まで無料で足湯を楽しむことができる(1月10日~2月末は休業)。 船をモチーフにした純和風の木造りの建物で、海側が吹き抜けになっていて七尾湾や能登島の風景を眺めながら足湯に浸ることができる。 夜になるとライトアップが施され、辺りの雰囲気もロマンチックなムードに一変する。 伝統を大切にしながらも、和倉温泉は次の時代を見据えた新たなステージに立とうとしている。 温泉観光地としての王道を往く和倉温泉だが、これからの日本の温泉をどのように変えてゆくのか、まだまだ興味は尽きない。 |
交通網が整備されたとはいえ、関東や関西の首都圏からクルマで日帰りできるという場所ではないので、宿泊の楽しみは倍増する。
クルマでは東京方面から関越、上信越、北陸自動車道、能登有料道路、能越道を経て約7時間30分の行程。大阪方面からは名神、北陸自動車道、能登有料道路、能越道経由で約5時間。飛行機で能登空港を起点にすればクルマで45分、小松空港からは1時間40分のアクセスになる。
電車では東京から上越新幹線で越後湯沢乗り換え、ほくほく線「はくたか号」利用で約5時間。大阪からは特急「サンダーバード号」利用で3時間31分。金沢から特急利用で最速55分となっている。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。ブログ「デュアルライフプレス」
http://blog.duallifepress.com/もよろしく。
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