僕らが子どものころ、「おせんべい、焼けたかな?」というとても単純で、すぐにできる遊びがあった。あの口上とお煎餅が焼けるタイミングは、実際のものと同じなのかな? 妙な点が気になって煎餅工場に出かけてみた。 |
精米し、さらに臼(うす)で丁寧に挽いて粉にしたもの。「しんこ」と呼ばれる煎餅の素になる
「生地(きじ)」と呼ばれる焼かれる前のお煎餅。ゴマ入りや青のり入りも
参加者みんな、生地を火の上に置いていきます
講義は2単位連続、合計3時間にもなるので生徒の集中力も鈍る。彼らはイベントプロデュースを学んでおり、キッズプログラムに関わる職業に就く生徒も少なくない。 そこで “昔の遊び”を息抜きに行う。生徒たちがリフレッシュできるだけでなく、子どもと接するときにも生かせるのだ。 たとえば、古典的なぞなぞ。 「ちーちゃんが風邪をひきました。病院の帰りに歩いていると牛がモーと鳴いて、蝶々がひらひら飛んできました。ちーちゃんの病気はな~に?」 「あっ! わかった盲腸(モーと蝶で)」 「ブ、ブー。風邪でした」、なんていうやつ。 ダジャレなぞなぞもあります。 「世界で一番飛ぶのが速い虫はなんだ!?」 「ハエ(速えー)」 さらに、僕が子どものころに楽しんだ手を使っての遊びも、テレビゲーム世代の生徒たちには新鮮なようだ。 その遊びのひとつに「おせんべい、焼けたかな?」がある。 兄弟や友達と一緒に両手を前に出して、「お・せ・ん・べ・い・や・け・た・か・な?」で当たった手がひっくり返せる。同じ手に2回当たったら「できあがり」で手を引込められる。最後まで残った人が負けという遊びである。 リズミカルに行えば円を描いたみんなの手のひらが、小気味よく返っていき、なんだか楽しい気分になる。 雨の日の休憩時間、教室の片隅で男の子も女の子も一緒になって遊んだものだった。 |
お煎餅がふくらんできたら、上からググッと押し付けて平らに
小さな子どもも上手に焼いていました
「お・せ・ん・べ・い・や・け・た・か・な?」のリズムで
煎餅の起源は千年以上も前で、米を蒸してからつぶし(ここで終われば餅となります)、さらに乾かして乾餅(ほしもち)を作る。 これが煎餅の前身(?)といえるもので、焼いてから食べる“保存食”として重宝されたそうだ。 草加では後世、豆やゴマを入れるなどの工夫をして塩味をつける製法が主流になったものの、利根川沿岸で醤油が造られるようになってからは醤油煎餅が名物となり、「草加煎餅」として広く知られることになる。 俗説もある。 日光街道の宿場町・草加に“おせんさん”が切り盛りする団子屋があった。あるとき武者修行中の侍が立ち寄り、「団子をつぶして天日で乾かして焼いてみれば…」と注文を出す。 おせんさんが試してみると大好評で、草加のおせんの餅(草加おせん餅)が名物として世に出たというものだ。 たぶん、前述した説が事実に近いのだろうが、草加のおせんさんの姿を想像するほうが楽しい。 現在でも草加はお煎餅の町だ。「草加せんべい振興協議会」が結成され、草加煎餅のますますのブランド化や高品質の維持に努めている。さらに、「ミス草加せんべい」も毎年公募しているのだから、熱の入れようは限りない。 |
焼きあがったら醤油を塗って体験も終わり
おかあさんと力を合わせてお煎餅が3枚できました!
予約制で体験を受け付けている「草加煎餅丸草一福」
「これは行くしかあるまい」と出かけたのは、草加煎餅丸草一福である。地元埼玉県産の米と無添加にこだわる昔ながらの草加煎餅店の外観は、なるほど歴史を感じさせるものだった。 「草創庵博物館」も設置しており、昔の精米機や周囲の農家が使っていた農耕器具なども展示されている。 工場見学をした後は、いよいよ手焼き体験が始まる。まずはビデオを見て煎餅ができるまでの工程を学ぶ。 お次は社長の挨拶。 「みなさん、このごろは口にやさしい、食べやすい柔らかいものが好きでしょう。でもね、時々は堅くておいしいものも食べてください。口や歯を丈夫にするんですよ!」と、草加煎餅の堅さへのこだわりが印象的だ。 そして、ついに焼く。白煎餅、ゴマ入り、青のり入りの3枚を順次焼き、膨らんできたら上から“ぐぐっ”と押さえつける。 両面焼けたら、醤油を塗ってできあがり。 体験だけに“醤油のつけ焼き”は行わないが、焼き立てのお煎餅はなんともいえずにおいしい。 ところで、焼いてお煎餅をひっくり返すリズムといえば、女性担当者が口にする「お・せ・ん・べ・い・や・け・た・か・な?」なのだった。 |
●手焼きができるお煎餅屋さんのひとつです。
[草加煎餅丸草一福]
http://www.sokasenbei.co.jp/
●草加煎餅のすべてがわかります。
[草加せんべい振興協議会]
http://www.sokasenbei.com/index.html
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/)
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/)