“露天風呂を整備すればお客さんが来る“という時代はとっくの昔に終焉し、現在では各宿泊施設がさまざまな工夫を凝らしています。加えて、温泉地の魅力をアップする努力も行われています。そのおかげで新たなパワースポットが鬼怒川温泉に生まれました! |
宿泊施設が並ぶエリアと川向こうの楯岩を結ぶ吊り橋は「縁結び」の橋です
吊り橋の中間点から「楯岩」を眺める。川面から立つどっしりとした巨大岩です
「楯鬼」は自らが楯となって鬼怒川温泉の安全と繁栄を見守っています
観光バスが1日に何台もやってきて、お客さんは大浴場に浸かったあとに大宴会。その後は二次会、三次会。翌日、朝食を終えると観光バスで近隣の観光スポットへ出かけて行く…。 宿泊施設は団体対応するために客室を増築し、大浴場を整備。人気の露天風呂を作れば、それだけで団体客が見込めました。 しかし、そんな時代はとっくに終わりました。 現在、宿泊施設はさまざまな努力を行っています。 部屋数を減らし“おもてなし”を第一にする宿。食材と調理にこだわり、グルメに主眼を置く宿。一方、夕・朝食ともにバイキングを取り入れ、価格設定を低くおさえた宿…。 私たちもその時々の気分や目的、予算に応じてさまざまな宿泊パターンが選べるようになりました。 個人客や個人のグループが主流になったぶん、早く温泉地に着き、翌日ものんびりしたいというお客さんが増えました。 受け入れ側の温泉地も「滞在する人たち」の対応を前向きに考え始めました。温泉地に目を向けると「遊歩道」が整備された温泉地が増えたことに気づきます。 地獄(源泉など)めぐりができる秋田の後生掛温泉や長崎の雲仙温泉などの遊歩道は有名ですし、近年では川沿いに遊歩道を整備して共同の露天風呂を設置した山形県の小野川温泉の例もあります。 滞在客が温泉地で遊べるための工夫が始まったのです。鬼怒川温泉もご多分に漏れません。 |
橋を渡って登っていくと楯岩トンネルに出ました。胎内を現す手掘りのトンネルです トンネルの先には「楯岩鬼怒姫神社」。金運、商売繁盛のほか、とくに縁結びと子宝にご利益があります
ライン下りで人気の鬼怒川の上空37mに架かる橋は、そのスリルと景観のみごとさから一躍人気の散歩道になりました。 鬼怒川は水量が増すと、鬼が怒り狂うほどの荒々しい流れに姿を変える川です。 吊り橋の中間点からは「楯岩」と呼ばれる巨大岩が望めます。どんなに鬼怒川が荒れ狂っても、まるで大地を凝縮したようにどっしりと揺るぎのない楯岩は、女性の大らかさと懐の深さを感じさせるものだと地元では言われていました。 温泉ホテルが点在するエリアと鬼怒川を挟んで対岸に位置する楯岩。ふたつを繋ぐ吊り橋ができたわけですから、鬼怒川温泉の魅力は増えました。 さて、吊り橋を渡った先には自らが楯となって鬼怒川温泉を見守る「楯鬼(たてき)」や、母なる大地の“胎内”である長さ72mの「楯岩トンネル(元々は会津と東京を結ぶ小佐越新道の脇道として作られた手掘りトンネル)」があり、その先には楯岩鬼怒姫神社、楯岩展望台、縁結びの鐘があります。 スリル満点の吊り橋に、昔は馬車が通ったという道とトンネル。その先には神社があり、急勾配の階段をあがれば鬼怒川温泉が一望できる展望台…。 まるでテーマパークのように場面が数々と変化する鬼怒川の散歩道は楽しさにあふれていました。 |
神社から続く急な階段を登ると展望台へ。鬼怒川温泉が一望でき、縁結びの鐘が設置されています
縁結びにご利益があるために吊り橋を渡るカップルが続々と
男性的な鬼怒川と女性的な楯岩を結んだのが由来です。 …ところで、余談があります。 男性的な鬼怒川と女性的な楯岩…の解説は橋の手前の解説ボードにありました。 しかし、「鬼怒川・川治温泉観光協会」のホームページを調べると、「ム、ム」なんです。 ――浪々と流れる鬼怒川は女性的で、巨大で雄々しい楯岩は正に男性を現しています―― あれ! 正反対のことが書かれているのです。 私が訪ねた日でいえば、川はおっとり女性的で、川面からそそり立つ楯岩は男性的でした…。 まあ、そのあたりは気分の問題かもしれません(笑)。 それはさておき、胎内道を現すトンネルと、その先にある縁結び・子宝・開運などにご利益がある楯岩鬼怒姫神社。さらに138段の階段の上の展望台に設置された「縁結びの鐘」はカップルやご夫婦に大人気でした。 平日にもかかわらず、ひっきりなしにカーン、カーンという鐘の音が鬼怒川の上に響きます。 “人々の信じる力と願う気持ち”がパワースポットを作り、育てていくのかもしれません。鬼怒川温泉に来てパワースポットの原点を見た思いがしました。 |
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。