昔話に出てくる「機織り(はたおり)」。現代ではすっかり忘れられた存在と思いきや、今でも伝統を守り、すべてを手作りで行っている職人たちがいた。手足を使ってカタン、コトンと機を織るたびに美しい布ができあがっていく様はなんともみごとだ! |
丹波布伝承館では草木染めから木綿糸の作り方、機織りまですべてわかる
最初にタテ部分の糸をセットする。何色を用いるかで仕上がりがまったく異なる
でも、ところどころでお子さんの表情が「ん?」となり、質問攻めにあったのではありませんか? 「おじいさんは山に芝刈りに、おばあさんは川へ洗濯に…」 「え~、川に洗濯に行くの~?」 戦後間もなく、たとえば『佐賀のがばいばあちゃん』のころまでは、川で洗濯をしているおばあさんがたくさんいた。井戸端にも共同の洗濯場があった。 現在でも湧水豊かな土地では、庭にある溜池で洗濯しているおばあさんがいる。 しかし、都会の子どもたちには想像できない。機械の中に汚れものを入れてしまえばスイッチひとつで洗濯が終わり、場合によっては乾燥されて、すぐに清潔な服が着られてしまうのだから「川で洗濯」なんて想像もつかないのだ。 それでも、「川のきれいな水でごしごしこすれば、汚い服がきれいになるのよ」と説明をすれば、子どもたちはなんとなく想像できる。 しかし、「助けた鶴が部屋に閉じこもって機織りをする」といっても、子どもたちはちんぷんかんぷんだろう。 「え、糸でキレを作るの、どうやって?」となるに違いない。 機織りの機械がどんなものかが想像つかないのだから、それも当たり前だろう。 しかし、全国には伝統の機織りを大事にしている場所がある。そのひとつが兵庫県の丹波の山間にある「丹波布」だ。 |
機織り機を手足で操作。足の操作でタテ糸を上下に分けて、その間に横糸を通して編んでいく
完成した丹波布。一定の間隔でシルクの横糸が混ざっているのが特徴で、それが京の都の女性たちを魅了した
赤や茶色、ベージュ、藍色に染まった糸をそれぞれ束ねる。 それらの糸を機織り機のタテ方向に1本ずつていねいにセット。仕上がりのイメージを浮かべながら、さまざまな色の糸を並べていく。 タテ方向の糸をセットしたら、今度は機織りによって横糸を編む。このときも、仕上がりを想像しながら横糸の色を途中で変える必要がある。 足の操作によってタテ糸を1本ずつ交互に上下にし、その間に横糸を通していく。横糸が通ったら編んだ糸を手の操作によってしっかり押し付ける。そのときに発する音が昔話に出てくる「カタン、コトン」なのだ。 手慣れた機織り職人が編めば、カタン、コトンのリズムが心地よく、1センチ、2センチと見ているうちに美しい布が仕上がっていく。 これが全国各地で盛んに行われた機織りだ。糸や編み方にそれぞれの地の特色があり、「○○織り」「××布」などと呼ばれるようになった。 「丹波布」にも大きな特徴がある。一定の間隔を開けて、2~8ミリ程度のシルクの横糸を用いるのだ。 そのシルク部分が輝き、華やいで見えるために、「丹波布」として江戸時代末期の京の都で、女性たちに人気を得たのだった。 |
丹波布の伝承館。「道の駅あおがき」内にあるのでドライブで行きやすい
「手織教室はたおと」は東京、埼玉、群馬で機織り教室、染色教室などを実施している
綿繰り機によって綿の種をとり、糸車で綿の糸を紡ぎ、近隣の素材を使って糸を染める。その後に機織りによって丹波布を織っていく。 伝統工芸の継承者育成も行っており、希望してくる人々の指導も行っている。いくら伝統工芸品が素晴らしくても、それを作る人が育たないとやがて文化は衰退してしまう。 そのために積極的に職人の指導を行っているのだ。 道の駅内にある伝承館では職人をめざす人々が草木染や機織りをしている姿が見学できる。 そればかりでなく、機織り体験や綿繰り機による綿の種を取り除く作業、糸車体験などもできるのだ。 ただし、短時間の体験だから、ほんのちょっとかじった程度になる。ま、それでも十分に満足なのだが…。しかし、調べてみると、それなりの時間をかけてマフラーなどが織れる体験教室が全国にあるのがわかった。 お子さんと一緒に昔話がもっと理解できるように、機織りの素晴らしさを知るために、機織りがある場所にお出かけしてみませんか? |
●地域の伝統工芸と美しい機織りの文化に触れよう
[丹波布伝承館]
http://edu.city.tamba.hyogo.jp/lifestudycenter/sisetu/tanbanuno/index.html
●じっくりと染色や機織りを体験したいのなら!
[手織教室はたおと]
http://www.hataoto.com/index.html
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/)
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載(http://www.yomiuri.co.jp/tabi/)