海上のスポーツも多彩になり、日本でも南太平洋の海洋民族が使用していた「アウトリガーカヌー」が体験できるまでになった。一度体験すると“はまる”ほどの魅力に満ち溢れ、近年ではクラブや愛好者も増えているアウトリガーカヌーとは、いったいどんな乗り物なのだろう。 |
江ノ島の前を6人乗りのアウトリガーカヌーが行く。6人が息を合わせてパドルを漕ぐ
アウトリガーカヌーはパドルの操作によって海を進む ひとり乗りのアウトリガーカヌーを所有する愛好家も近年増えている
スキー雑誌の取材の際には、ぼくがレポートを担当し、彼が写真撮影を担い、北海道や海外へずいぶん出かけたものだ。 若いときはふたりともメタボとは無縁で、機材や取材用具が入ったリュックを背負って、ニセコやカナダ、アメリカ・ユタ州のスキー場を颯爽と滑ったものだ。 しかし、年齢とともに肉体は衰え、少しばかりの贅沢を覚えて“グルメ”を気取り、そのうちに醜い肉体になっていった。 若干薄くなった髪の毛に反比例して脂肪が増え、ふたりとも高年層への階段を一気に昇ってしまったのだった。 しかし、某カメラマンは驚くことに、誘惑だらけのその階段を途中で踏みとどまった。むしろ、駆け降りたといっていい。 「この腕の筋肉を見てくれよ。お腹だって数年前よりヘッコンダんだぜ!」 自慢するだけあって、二の腕にはたくましい筋肉がつき、腹筋もきりっとしている。 その秘密はアウトリガーカヌーにあった。 彼は江の島にあるアウトリガーカヌーのクラブに通い、あるときはひとりで、あるときはチームで訓練を重ねた。 今では年に1回の奄美大島の大会と、ハワイのモロカイ島からオアフ島までを結ぶ海上レースに出るほどになったのだ。 海の上の爽快なスポーツは、彼の身体を磨き上げていった。 |
ひとり乗りは個人の力! 基礎体力がないと遠くまでは行けない
江ノ島のビーチに並んだ「湘南アウトリガーカヌークラブ」の6人乗り。壮観な風景だ
重量があるように見えるが、思いの外、軽くできている
アウトドアで利用される一般的なカヌーは、いわゆる“ボート型”だが、アウトリガーは外側一方に浮子(うき)が張り出して付いている。 海洋民族たちは丸木の舟を作り、海の上で安定させるために、片側だけ浮子を付けたアウトリガーカヌーを発明した。 もちろん、舟の両側に浮子を付けたカヌーも開発されたのだろうが、うねりの多い南太平洋の外洋では、両側の浮子によって丸木舟が持ち上がってしまうと、その重量によって浮子と本体を繋ぐ腕木が折れるというトラブルが生じる。 そのために、シングル・アウトリガーカヌーというスタイルに落ち着いたのだろう。 現在でもシングル・アウトリガーカヌーはミクロネシアやポリネシアの一部で生活の手段として用いられているが、“海好き”のあいだでスポーツとして発展した。 カーボン樹脂やエポキシ樹脂で作られたカヌーは長さ約6メートルで重さはわずかに約11キロ(ひとり用)。持ち運びも楽で、気軽に海を楽しめるのだ。 また、アウトリガーカヌーの特徴は、チームでも楽しめる点だろう。たとえば神奈川県の江ノ島にある「湘南アウトリガーカヌークラブ」は、6人乗りを6艇、4人乗りと2人乗りを各1艇、ひとり乗り用を3艇所有している。 個人でも家族や仲間たちと一緒でも、十分に楽しめるスポーツなのだ。 |
江ノ島をバックに爽快に進む。クラブの常連たちはパドル操作も慣れたものだ
近年ではファミリーの参加者も増えている。子どもにも人気
ヨットとアウトリガーカヌーの共演。海のスポーツが多彩になったのを物語る
クラブには常連に交じって初参加の人、子どもの姿も見える。 「湘南アウトリガーカヌークラブ」は6人乗りカヌーの体験を受付けており、それに参加したのだ。 コーチの説明を受け、パドルの使い方を陸上で学ぶ。 そののち、ライフジャケットをつけて海に繰り出す。 すぐそばに江ノ島。湘南の海をアウトリガーカヌーで疾走する快感。 舟を操縦するには免許が必要だし、ヨットを購入するとなれば、それだけの予算が必要になる。 しかし、クラブ所有のアウトリガーカヌーなら、経費はそれほどかからない。スポーツクラブに入会するぐらいの気軽さだ。 コーチの声に合わせてパドルを漕ぐ。6人が力を合わせて漕ぐのがいい。 周囲を見回せば湘南の街並みが見えるのだが、イメージは未知なる島をめざす海洋民族のそれだ。 アウトリガーカヌー体験を存分に味わった。 ☆ ツケは翌日やってきた。 腕が痛い、背筋と腹筋が痛い、太ももまで痛い。 アウトリガーカヌーは全身運動であるのを身体が教えてくれる。 なるほど、某カメラマンがシェイプアップに成功したわけだ。 これからの季節、新しい海の遊びにはまる予感がした。 |
●湘南アウトリガーカヌークラブ
http://www.shonanoutrigger.com/
●カヌーアート(アウトリガーカヌーショップ)
http://www.kanuart.com/index.html
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載