住宅街や河川敷ロード、公園などを走る人が増えた。スポーツ店に行けばランニングコーナーの充実ぶりに驚かされ、市民が参加できるマラソンやランニング大会はますます盛んになっている。市民が参加できる入門大会ともいえる「Funラン」に参加してみた!
市民ランナーの最高位は川内優輝選手のようだ。
そもそも「市民ランナー」とは、実業団などに所属せず、専門的なトレーニングやサポートを受けないで、趣味でマラソンや駅伝などを楽しむランナーを指す。
川内選手は実業団陸上チームに所属せず、埼玉県の地方公務員でありながら2011年の東京マラソンで実業団所属ランナーを次々と追い越し、日本人最高位の3位になったことで一躍名前を知られるようになった。
その後のマラソン界では「なぜ市民ランナーに実業団ランナーは負けたのか?」が考察され、さまざまな論評がなされている。
とはいえ、川内選手は東京マラソンで有名になる以前にも関東学連選抜の選手として箱根駅伝に二度も出場しており、家の近所をゆったり走るレベルの市民ランナーではない。
ぼくの友人にもランニングを趣味にしている男性がふたりいる。
ひとりは出版社時代の後輩で40代。フルマラソンや野山を走るトレイルランを趣味にしており、大会にも時折出場してフルマラソンで3時間を切るのを目標にしている。
もうひとりの友人というか知人は60歳を超える。それでもフルマラソンに定期的に出場しており、昨年もホノルルマラソンに参加。タイムは速くないが、完走を目標に走り切っている。
このふたりも立派に「市民ランナー」と呼べるとぼくは思う。しかし、それ以外のランナーも世の中には大勢いると感じるのだ。
基礎的な訓練など受けていない。毎日走りたいが、まだまだ無理(心もちょっと弱い)。30分走れば疲れる。距離にも自信がない。
それでも、たまに走ればそれなりの満足感があるし、喜びも感じる。
こういう「市民ランナー」どころか「市民ジョガー」にも手が届かない、ぼく並みレベルの人は多いだろう。残念ながら、このレベルではフルマラソンやハーフマラソン出場は無理。しかし、マラソンや駅伝中継を見れば、少しだけ大会に出てみたいという気持ちが起きる。実力がないのに、案外やっかいな人たちなのだ。
そんな輩が出られる大会があった。それが「Funラン」である。
12月29日。大晦日が迫る日曜日。「一緒に走ろうぜ」と誘った仲間と東京メトロ桜田門駅に8時30分に集合した。
地上に出ると大都会の中心とは思えぬほどに空は澄み、高層ビル群が輝いて見える。
桜田門をくぐって皇居外苑方面に行けば、オレンジ色のスタッフゼッケンを付けた数人が待ち受けていた。
スポーツイベントやスポーツマーケティングを学んでいる専門学校の学生たちが、ボランティアでスタッフを務めているという。参加者を迎える笑顔が青空とマッチしてなんとも爽やかだ。
ちょっとばかりあった「完走できるかなぁ」という不安も、学生たちの明るい対応に“削除”されていく。
事前に参加費(5㎞2,625円、10㎞3,150円)は振り込んである。ボランティアスタッフに名前を告げるのと引き換えに、ナンバーが記載されたゼッケンを受け取った。
ぼくはサッカーとスキーをしていたから、ゼッケンといえば「ビブス型」だと思っていた。しかし、いただいたそれはしっかりした材質の紙でできた四角いもの。胸に小さな安全ピンで装着する。
制作費を考えれば3000円程度の参加費で、立派なゼッケンが配布できるわけはないと気づいて、少しだけおかしくなった。
しかーし!ナンバー入りのゼッケンの効果は甚大このうえない。それを胸につければ、所詮しがない市民ジョガーもどきでも、皇居のまわりをぐるりとランニングする立派なランナーに見た目も心も変身させてしまうのだ。
ゼッケンをもらった人々は、桜田門周辺でストレッチングや軽めのジョギングを始める。うん、とても一流ランナーっぽい。
ぼくもまだ二回しか履いていない新しいジョギングシューズに履き替え、前日購入したランニング用のタイツにパンツを重ねてストレッチを開始。テンションあげて9時30分のスタートを待つのだった。
ゼッケンの色は2色に分かれていた。青地のゼッケンは皇居1周の5㎞コース。もちろん、ぼくだ。
黄色地のゼッケンは2周10㎞の参加者。スタート時間も異なる。
9時30分。カウントダウンの後に5㎞組がスタートする。記録を争う気がさらさらないぼく(その資格も実力もないけれども…)は、集団の後ろをやっとこ行く。
桜田門前の広場から内堀通りを二重橋方面に向かう。
1㎞ごとにボランティアスタッフが立っているとスタート前に説明を受けたが、そのスタッフが全然見えない。こうなると、快晴の空も光を反射するお堀も、美しいビル群も目に入らなくなる。
ひたすら前を行く人の背と、沿道にいるはずのスタッフを探して走り続ける。
最初の1㎞なのに情けない…と思われるだろう。しかし、不規則に走っても、定期的に訓練していないぼくにとって、最初こそがきついのである。友人も、「最初の1㎞が長かったね」と笑っていた。
やがて念願の1㎞スタッフに出逢い(恋人同士のような文字使いだが、本当に出会いでなく出逢いの気分だった)、竹橋へ向かう。もうずいぶん慣れてきて、並木の下を軽快な気分で走る。しかし、それは束の間の快走(?)だった。
竹橋から千鳥ヶ淵、半蔵門へのルートは、皇居1周を反時計まわりするときの最大の難所である(素人にとって)。だらだら続く上り坂。息があがる。
走り慣れているランナー(けっこう年配さん)にヒューと抜かれ、カンボジア人の猫ひろしにビューンと抜かれた。
苦しい後にはご褒美もある。半蔵門から桜田門は下り坂になり、景観も抜群なのだ。まさに走って気持ちいい区間である。
こうして、初参加のランニング大会で完走。Funランは入門者にはとてもいい大会だった。
ゴール後に有楽町で完走を祝って乾杯となったのは、お約束といっていい!
●代々木funラン実行委員会
今後も皇居1周ランなどを予定
http://yoyogi-funrun.com/
●東京スクールオブビジネス
スポーツ学科が好評な専門学校
http://www.tsb-yyg.ac.jp/campaign/
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。