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内部温度1200度の溶解炉を前に、マイ・グラス作りに没頭する。模様付けをしてから溶解炉に入れたり、空気を入れて膨らませることを繰り返して形を整えてゆく…。グラス作りの工程は、とても素敵なひとときです。とっておきのマイ・グラス、作ってみませんか!?


内部1200度の溶解炉の前に立つ金山義信さん。溶けたガラスを「吹き竿」に巻き取り、グラス作りが始まる


金山義信さん作成のみごとなグラス。さまざまな色がグラスに溶け込み、独特のやさしさを醸し出している


奥さまの作品。ガラスを使って冬の情景をかわいらしく表現。小さな幸せな世界が確立されていた

グラス作りを過去に二度ほど体験したのだが、その場所は工芸村と雲仙という観光地だった。だから、楽焼やキャンドル作り同様、グラス作り体験は行楽地に限るのだと勝手に思い込んでいた。

しかし、それは大きな間違いだった。ネットで検索すると首都圏や地方都市にも「グラス作り体験」の文字が躍る。それも予想以上の数なのである。

それぞれのホームページを眺め、なんとなく引かれたのが『Blue Glass Arts(ブルー・グラス・アーツ)』だった。

京王井の頭線の浜田山駅より徒歩5分の住宅地の一角に、1階空間が開放された工房があった。コインパーキングが隣接しているので、クルマでのおでかけにも向いている。

ブルー・グラス・アーツは2004年の開設で、代表である金山義信さんと奥さまが運営している。ふたりともにガラス工房での経験は20年に達し、義信さんは1996年の「八王子市美術工芸展」以来、数多くの展覧会に作品を出品しており、2000年の「オランダ紀行・朝日・チューリップ賞」で秀作賞・審査員賞、2004年の「現代ガラスの美展IN薩摩」で審査員賞を受賞しているほどの達人だ。

2階はギャラリーになっていて、そこに義信さんご夫婦の作品に加え、ブルー・グラス・アーツが主催している教室の生徒たちの作品が並んでいた。

それが、なかなかみごとなのである。

もちろん、金山さんご夫婦の作品が素敵なのはいうまでもない。しかし、現在70名ほどいるという教室の生徒たちの作品もいい味を出している。らせん状の模様やかたちも個性的で生き生きしている。

僕のチャレンジ魂に火が付く。

「いつか、こんな作品を仕上げ、ビールが飲みたい!」

家の小さな庭に折り畳み式アウトドア用イスを出し、夏の昼下がりに“マイ手作りグラス”でビールをゴクリとしている自分が想像できてしまう。

よし、グラス作りに挑戦してみよう。密かに誓う僕だった。


模様は白と青に決定。白と青のガラス片を枠内に置く。枠はグラスの円周に設定されている


濡らした新聞紙で形を整える工程も。内部1000度の炉から出されたばかりのドロドロガラス、少々怖い


吹きガラス体験のメインイベントともいえる“吹き”の作業。目の前でガラスが膨らんでいく

訪れた日は小雨の降るとても寒い日だった。それにもかかわらず、工房のドアが開け放たれている。

中を覗き込んでから挨拶をする。溶解炉が放つオレンジ色の光が逆光になって見えにくかった黒い物体が、すくっと人体のシルエットになり、金山義信さんが「いらっしゃい!」と返してくれた。

溶解炉の中は1200度。そのなかに耐火性のあるツボが設置されており、そこでガラス粉が溶けてドロドロになっている。その前に立つ金山さんにとって、外の寒さは気にならないようだ。

「スイッチを頻繁に切ると、ツボが破損する可能性があります。だから、溶解炉の火を消すのは年に一度。そのときにツボの交換や掃除をします」と、金山さん。

芸術家を前に僕は思う。ガス代はどれくらいなのかな、と。最初にこれが浮かぶのだから、とても芸術肌ではないのだろう。

ブルー・グラス・アーツでは吹きガラス教室、バーナーワーク教室、吹きガラス体験などを積極的に開催している。吹きガラス教室ではタンブラーや一輪挿し、器作りを最初に習い、やがてお皿やワイングラスなどに挑戦していく。

ビー玉やクリスマスツリーに飾るオーナメントなどを、遊び心たっぷりに作ることも可能。

吹きガラス体験では一輪挿しやコップを作る。所要時間は約30分と気軽にできるのが利点だ。

体験過程は主に以下のようになる(繰り返し作業などもあるので、これがすべてではありません)。

  • 模様を決める。その模様に必要な色ガラス片、あるいは重曹を用意する。重曹を利用するとガラス内に細かい泡が生まれる。
  • 1200度の溶鉱炉のドロドロガラスを吹き竿に巻き付ける。
  • ドロドロガラスにガラス片を付ける。
  • グローリーホールと呼ばれる1000度ほどの炉でドロドロガラスを焼き戻し。取り出して息を吹き込んでガラスを膨らませていく。水を浸した新聞紙によってドロドロガラスを整えるという初心者には“ちょっと怖い”作業もある。
  • 4の繰り返しによって形を整え、やがて“くびれ”を入れて切り離す。
  • 木ごてで底を整える。洋ばし(ジャック)と呼ばれる巨大ピンセットによって飲み口を作る作業も行う。それらが終わればほぼ完成だ。
  • 徐冷炉で1日かけて冷まして完成!

完成品を取りに来るのが待ち遠しい。


焼き戻しと吹き作業などを繰り返していくうちに、徐々に形が整ってきた


ジャックによって飲み口を作っていく。いよいよ仕上げの工程だ


体験入学で完成したグラス。まだ完全に冷ます作業の前だが、白と青の模様が浮き出てきた

金山さんはガラスと向き合う芸術家だから、ガラスが高温度であるのを感じさせない動作を繰り返す。その姿は一流料亭の板前さんのようだ。食材を前に大きな包丁を巧みに扱うから、まるで危うさを感じさせない。

僕は初心者だから、金山さんが溶解炉からドロドロガラスを取り出すたびに、ほんの少しだけビビる。それは吹き竿の分だけ遠くにあるのに、触れたらどうしようと思うのだ。

体験教室などでも指導する金山さんだけに、慣れた手つきであっても慎重にドロドロガラスを扱って体験者をサポートしてくれるのだが、わかっていてもあたふたしてしまうから不思議だ。たぶん、1200度のオレンジがかった透明のドロドロガラスに、威圧感を覚えてしまうからだろう。

そんな不思議な感情は、さまざまな工程でも変わらない。

水に濡らした新聞紙でドロドロガラスの形を整えるときも、実際にはまったく熱くないのに心臓がドキドキする。

吹き竿に息を吹き込んで、ガラスを膨らませていく工程も、ジャックで飲み口を整えるときも然り。「失敗したらどうしよう」と緊張する。

やがて、心配ばかりしながら作ったグラスが完成する。それはそれでとても素敵な世界にひとつのマイ・グラス。喜びだって大きい。

でも、金山さんの作ったグラスは、壮大なる感情とやさしさを併せ持つ。この違いが大きい。

その差を生む最大の理由は技術的な問題だろう。でも、心情の問題あると思う。

金山さんはドロドログラスを溶解炉から取り出すたびに、「いいグラスに育てよ」と、未来をきっと見ているに違いない。息を吹き込むたびに「きれいに膨らめよ」と願っているだろう。新聞紙で形を整えるときも「思い通りになれ」と念を送っているはず。つまり、ポジティブな思考からよいガラス製品は生まれると思う。

次回、挑戦するときは積極的にドロドロガラスと対話してみたい。「きれいに膨らんで、イメージどおりになってね」と。技術力の差は如何ともしがたい。でも、思いだけは前向きに作業するのが大切だと感じる。そして、一生を共にできるマイ・グラスを作ってみたいと思うのだ。


「おでかけマガジン」より、みなさまへ読者プレゼント実施中!

●Blue Glass Arts(ブルー・グラス・アーツ)
http://www.blue-glass-arts.com/index.html
※体験や教室入校をご希望の方はホームページ内の「体験お申し込みフォーム」あるいは「お問い合わせ電話番号」より事前にお問い合わせください。
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
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