「だるま」は禅宗開祖の達磨大師が座禅を組んでいる姿を模した置物であり玩具でしたが、今では縁起物として宗教を越えて親しまれています。年明け早々、群馬県高崎市の少林山達磨寺へ行って貴重な体験もしてきました。
リフレッシュを兼ねて、ときどき温泉にでかけています。1月2日に向かったのは上越の温泉地でした。
ただし、私の旅は目的地と自宅の往復というケースはほとんどありません。どこかに寄り道がスタイルなのです。
関越道を北上しているときに、ふと思いついた寄り道先が高崎市にある少林山達磨寺でした。1月に行われる七草大祭だるま市やだるま供養、10月の達磨まつり会などが有名で、テレビのニュースなどでもしばしば見るのですが、実際に訪れたことはありませんでした。
温泉仲間たちも「そうだ、行ってみよう」とすぐに意気投合、上信越自動車道の藤岡ICで降りて、少林山達磨寺に寄ってから関越自動車道前橋ICで再び自動車道に戻る“おとなの道草”になりました。
少林山達磨寺の縁起は達磨大師とのかかわりによります。
1680年(延宝8年)に「鼻高の聖地に霊木があるから、座禅をしている私を掘りなさい」と達磨大師から夢のお告げを受けた一了居士(いちりょうこじ)が訪れました。
観音堂には大洪水のあとに村人が川の中から引き上げた香気のある古木がありました。一了居士はさっそく古木に達磨大師像を彫りました。しかしその像は大きすぎて、観音様と並べて安置できませんでした。
すると、再び村人が流木を運び込み、ちょうどよいサイズの達磨大師像が完成しました。
その話はすぐに「達磨出現の霊地・少林山」と広まって、いつしか多くの人々の信仰の対象となりました。
さて、達磨大師は鎌倉時代に日本に伝わった仏教禅宗における重要な人物で、後世では“仏像”のような存在になっています。禅宗寺院で達磨大師を描いた掛け軸や札を見かけるのはそのためです。
そして、達磨大師が「だるま」のモデルです。
達磨大師には9年もの座禅によって、手足が腐ってしまったという伝説があります。そのために、だるまには手足が描かれていません。
また、少林山達磨寺周辺だけでなく、仙台の松川だるま、多摩の東京だるま、愛媛の姫だるまなど、さまざまなだるまがありますが、高崎駅の名物駅弁「だるま弁当」などの存在も手伝い、高崎だるまが一躍全国的に有名になっていきました。
警備員の指示に従って向かった小型車専用駐車場は、少林山達磨寺の上部にあったので、総門から見上げた長い階段を登る必要がなくなりました。
「下からちゃんと登ったほうがいいんじゃないの?」と友人が言いますが、これもひとつの“決まり”なので、「ご利益が減ることはないよ」と、私が誤魔化します(クルマを停めたところから徒歩で降りて、総門からお参りをするのがホントはもっともいいのでしょう)。
駐車場でクルマを降りれば、そこは参拝者が列を作る霊符堂(本堂にあたります)でした。霊符堂には北辰鎮宅霊符尊と達磨大師が祀られています。
私の目を引いたのは霊符堂の周囲に置かれただるまでした。
達磨大師をモデルにしただるまは、時代とともに「繭(まゆ)型」に変化します。それによって起き上がりやすくなり、七転び八起きの縁起物になりました。
群馬県といえば富岡製糸場と絹産業遺産群が世界遺産登録されているほど養蚕業が盛んでした。近隣の養蚕農家が七転び八起きにあやかって蚕の起き(脱皮)がよくなるように祈願して、片目だけに墨を入れました。そして、蚕がよい繭を作ると、残った目にも墨を入れてお祝いをしました。
それがだるま祈願の起源です。
霊符堂の周囲に置かれたたくさんのだるまのほとんどに両目が入っています。祈願成就した人たちの多さに驚かされました(笑)。
私たちも先人たちの文化に則って、山内の瑞雲閣で赤いだるまを分けていただきました。
それだけではありません。同じ瑞雲閣内にてだるまに魂を入れていただきました。だるまをお渡しすると法要のあとに、右側の目に小さく墨の点を入れてくださるのです。
さあ、お願いが成就するのかどうか、なんだかわくわくしてきました。
山内でだるまを分けていただいた私たちには、もうひとつ気になることがありました。それは、地図に掲載されている「〇〇だるま店」の表記です。
道草ついでにだるま店も覗かねば! しかし、想像していたような参道の店舗はありません。それでもクルマで3分ほど走ると、『岡田だるま店』の看板が見えました。
店舗の雰囲気はまったくなく、まるで農家の様相(実際に農業も営んでいらっしゃるようです)。よくよく見れば、母屋の右にだるま工房がありました。
しかし、人の姿は見えません。「だるま市」を前にもっとも忙しい時期のはずなのに…。すると、歯磨きをしていた男性がにゅっーと顔を出し、「どうぞー!」と声をかけてくださいました。
この出会いが、私たちに至福の時間をもたらせてくれることになります。
工房内には大小たくさんのだるまがありました。赤、白に加え、金色のだるまもあります。ただし、よく見ると顔や袈裟の部分が完成していません。
これは困ったなと思案していると「自分たちで塗ればいい」と大将。
以前は100軒あっただるま店が今では50軒ほどになったそうですが、それでもだるま市への納品はたいへんな作業。岡田だるま店ではすでに完成品を100体以上納めてひといき、開店休業状態で店内のだるまは未完成だったのです。
「白い絵具はこれ、金色はこの粉に液をまぜて絵具にするんですよ。筆を使って袈裟のシワの部分や目のまわりに金を入れてください」と大将。
予期せぬだるま体験になりました。これから行く旅館の名前を入れて、商売繁昌、千客万来などと文字を書けば最高のおみやげに。
大将の特別な配慮によって、とても素敵な体験になりました。
高崎市内には「だるま体験」をしている施設もあります。岡田だるま店では体験は行っていませんが、偶然のタイミングと人の好い大将による小さな奇跡でした。
●少林山達磨寺
http://daruma.or.jp/index.php
●お世話になった岡田だるま店 製作過程がわかります
http://okadadaruma.web.fc2.com/workshop.html
●体験を常時行っているだるま店 大門屋
http://daimonya.jp/about/
常磐二郎
海岸沿いのドライブとお酒が大好物のWEB・雑誌編集4年目の中堅編集者。
好きな高速道路は、東名高速道路と海老名SA。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。