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  3. 湯の華が香る自噴泉と田舎料理でもてなす温泉宿 福島県・横向温泉
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福島県・土湯峠に近い横向温泉は、かつて会津藩の食料を備蓄する藩命を担ってきた場所だった。ふたつの湯小屋には単純泉とは思えない独特な泉質の湯が湧き出している。女将手づくりの田舎料理と相まって素朴で味わい深い温泉宿だ。
横向温泉 滝川屋旅館
所在地:福島県耶麻郡猪苗代町若宮字下ノ湯甲2970
TEL:0242-64-3211
●泉質:単純温泉(低張性中性温泉)
●源泉温度:39.9度
●湧出量:27.8?/分
●pH:6.2
●日帰り入浴時間:11:00~14:00
●料金:1000円



滝川屋旅館の外観。木造二階建てで、大女将の眺める庭の水辺の方向には水車小屋もある


玄関を入ると巨岩が家の中にのめり込んでいるのがわかる


先代が設けた民藝道具の展示スペース。田舎の暮らしの様子が垣間見られる


岩風呂の脱衣所。湯が湧く傍らに設えられており、巨岩がせり出している


岩風呂には湯の華がたくさん浮かんでいる。かつては薬代わりに乾燥させて傷口に塗っていたという


混浴風呂。ふたつの浴槽はつながっており、奥へは沸かした湯を注ぎ込んでいる



会津若松から猪苗代湖に至り、磐梯山の東を回り込みながら北へ向かう。安達太良山の西側を抜けて福島市に向かう途中で、箕輪スキー場の標識が見えてくる。
横向温泉は箕輪スキー場の駐車場からすぐの場所にある。  

ここはかつて、会津から伊達へと抜ける峠道。
土湯トンネルに入らず旧道を行けば、名湯がいくつも連なる温泉郷ロードとなる。

横向温泉は、阿部家の先祖が見つけた温泉で、現在の湯守であるご夫婦は8代目に当たる。  

豪農の東屋のような、木造二階建ての母屋。
玄関を入ると、いきなり目の前に巨岩が姿を現し、圧倒される。  

むき出しの岩は建物の中のいたるところで出現し、岩風呂へと続く回廊にもあった。

玄関に掲げてあった木製の表示板に、温泉発見の由緒が書かれていた。
女将さんの話とまとめると、宿の縁起はこうなる。

江戸初期の寛文元年(1661)、岩弓川の川岸の岩石の間から湧出する温泉を発見。
この地は寒冷で、冬の間は雪に閉ざされる。阿部家は藩命を受け、会津藩の食糧と温泉を守ってきた。
江戸末期の文久元年(1861)に湯小屋が建てられ、明治一九年(1886)に湯治宿を開業。
横向下ノ湯として、代々阿部家がこの滝川屋旅館を守ってきた。

現在もお元気な先々代の大女将によれば、昔は湯治で一週間や10日は当たり前の時代。滝川屋も相当な浴客でにぎわっていたという。
客室の部屋の多さは当時の名残だが、現在は宿泊2組、自炊1組の最大3組までしか受け入れていない。
夫婦ふたりで対応できるのは、それで精一杯なのだと女将は言う。

客の目当ては、なんといっても良質な温泉だ。  

2つある湯小屋はともに内湯で、混浴の2槽と、かつて女湯として使っていた岩風呂がある。
泉源はこのふたつの湯小屋の中央に位置し、それぞれの浴槽の板敷の湯底に穴があけてある。湯はその穴から浸み出してくる。足下から自噴泉が湧き出て、その真上に浴槽をしつらえた「ぶくぶく自噴泉」なのだ。  

不思議なのは、混浴がやや白濁しているのに対し、岩風呂は赤褐色の湯花が湯面いっぱいに拡がること。とても同じ源泉とは思えない。  

しかも、現在の温泉法の分類では中性の単純温泉となり、無色透明無味無臭の印象のある一般的な単純温泉とは信じられないのだ。

60年以上湯を見てきた大女将も温泉の神秘に驚きを隠しえない。

「日によって、色や香り、味も変わるんです。天気のいい日はぬるく、雨の日は熱くなる。風のない日は温かく、今日は硫黄の匂いが強いなと思うこともある。不思議なものです」  

入浴すると炭酸の気泡がほのかに体にまとわりつく。なめるとやや酸味があり、鉄分のような渋味すら感じられる。  

湯温が低めのため、長湯がいい。30分以上は当たり前。1時間もつかっていれば、あとからぽかぽか温かくなってくる。
冬季のみ、混浴風呂に温めた湯を注ぎ込んでいる。一方の岩風呂は加熱せずに自噴のありのままに任せている。  

宿泊客が少ないということは、このいずれの湯も独り占めできるということだ。
ホワイトボードに入浴中であることを記載しておけば、お互いに邪魔されることなくゆったりと入浴できる。  

湯上りの晩御飯に供されるのは、山菜や里山の地の恵みを使った自家製の田舎料理。
人肌にやさしい自噴の湯と、女将の心のこもった料理の数々。  

時空をタイムスリップしたかのような至福のひとときを、この宿は約束してくれる。

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日帰り入浴は可能だが、入浴できる組数を絞っているため、必ず電話で確認と予約を。連泊する宿泊客がいたり他の日帰り客が入浴している場合は入れないこともあるのであしからず。
東京方面からは東北自動車道・安達太良SAで下り、県道304号線を北へ。国道115号線に合流したら猪苗代湖方面へ向かう。土湯トンネルを抜けたら旧道の県道30号線に入ってすぐ。30㎞、40分。
仙台方面からは東北自動車道・福島松川SAから県道52号線に入って西へ。国道115号線に合流したら猪苗代湖方面へ。27.8㎞、35分。
猪苗代湖方面からは磐越自動車道・猪苗代磐梯高原ICで下りて、国道115号線を北へ。土湯トンネルに入る手前で県道30号線に入ってすぐ。23.1㎞、25分。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
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