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近年、「橋マニア」「ダムマニア」「インターチェンジマニア」といった人々が増え、テレビで鑑賞方法や何がおもしろいかを語るケースが増えてきました。新しい趣味が増えるということは、それだけ体験数も増すということ。今回は橋マニア、ダムマニアの気持ちに迫ってみます。

淡路島に伸びる明石海峡大橋の裏側


淡路島側にできた橋を見る露天温泉(美湯松帆の郷)


平成元年に完成した横浜ベイブリッジ


僕は以前横浜に住んでいたから、都心にクルマで出る時は、首都高「横羽線」をもっぱら愛用していた。しかし、当時の首都高は当然ながら選択肢が少ない。

首都高を造るときに、某役人がアメリカから派遣された設計技師に「日本はアメリカのようなクルマ国にはならない。だから、2車線で十分」と言って、3~4車線の計画図を撤回させたという記事をどこかで読んでいたから、渋滞している横羽線の上で、「その役人の顔をさらして国民に謝罪させろ!」と、憤っていたものだ。

冷静に考えればその記事の信憑性がどのぐらいなのか、予算との兼ね合いなど、主要首都高が2車線になったのは仕方がないのかもしれない。しかし、取材で訪れたロサンゼルスなどの片側5車線もある自動車道を見てしまうと、腹立たしくなるのは必至だった。

徐々に首都高も選択肢を広げていく。その一例として神奈川方面からも千葉方面からも、海岸線にもうひとつの路線が完成した。

横浜ベイブリッジが開通したのは、平成元年(1989年)9月27日、長さ860mの大型ブリッジだ。

初めて通行したのは開通直後だったと思う。まったく予想しなかったが、460mの中央支間部を通過したときに涙がこぼれた。

「人間の知恵と力はすげぇなぁ」と、感動したのをはっきり覚えている。

横浜ベイブリッジ完成時期以降に、さまざまな橋が日本に完成している。本州と四国を繋いだ瀬戸大橋が1988年、世界最長3911mの吊り橋となった明石海峡大橋が1998年、しまなみ海道の来島海峡第二大橋が1999年…。

ちなみに世界27位の長さに数えられるアクアブリッジ(東京湾アクアライン)の長さは4384mと明石海峡大橋より長いのだが、吊り橋の姿にロマンを感じるのは僕だけだろうか。

先日、兵庫県の舞子公園を訪ねる機会があった。そこから明石海峡大橋が目の前に見える。プロムナードに入館すれば、橋のすぐ下の特別展望室にも登れる。しかし、吊り橋を真下から眺めるのが素敵なのだ。

複雑でありながら規則正しく組まれた鉄筋が、淡路島に向かって一直線に進む。橋の下を大型の貨物船が悠々と通過する。

近年、橋マニアと呼ばれる人がしばしば情報番組に登場するが、彼らの気持ちが理解できる――橋はなんとも美しい人造物である。

橋をさまざまな角度から眺め、橋を研究する。こんな新しい体験も悪くない。

レインボーブリッジと尺玉


橋が架かって生まれた「さつま島美人」


横浜ベイブリッジを始めて通って以降、取材などでさまざまな大橋を渡ってきた。そして、橋ならではの遊びを体験した。

例えば淡路島と徳島を結ぶ大鳴門橋には「渦の道」と呼ばれる施設がある。これは大橋の下に設けられた全長450mの遊歩道のことで、高さ約45mを橋の中央部に向かって進む。時折ガラス床があってもちろん怖いのだが、それがやがて喜びに変わる。鳴門海峡名物の渦潮が真下に見えるという貴重な体験が待っているのだ。

しまなみ海道は広島・尾道と愛媛・今治を結ぶ約70kmの道で、途中には島々を結ぶ8つの大橋がある。しかし、それをクルマ専用としなかった発想が素晴らしい。サイクリングロードが併設されており、レンタサイクルターミナルも十分に設置されている。

クルマでしまなみ海道にでかけ、クルマを預けて自転車で橋を渡る。クルマで通るときとは異なる風景が見えるはずだ。

東京湾大華火祭ではレインボーブリッジと花火の新旧日本の技術をたっぷり鑑賞させてもらった。残念ながら東京オリンピック選手村建設のために、当分休止となる見込みだが…。

さて、橋のもうひとつの楽しみは、橋そのものではなく橋ができたことによる変化を知る知的探究だ。

鹿児島県の長島に長島研醸という会社がある。「さつま島美人」銘柄の焼酎を出しているので、舌鼓を打った人も多いのではないだろうか。

実は長島研醸は橋が完成したために生まれた会社である。鹿児島県本土から長島へ渡る橋ができ、長島の5つの小さい焼酎メーカーは危機感を覚える。

「これでは鹿児島本土の焼酎が簡単に島に入ってしまう…」。

将来への不安から5つの会社は手を結んで長島研醸を発足。5つの醸造所の焼酎をブレンドし、独特の風味と旨味をもつ「さつま島美人」が誕生した。

この話を長老のブレンダーから聞いたときに、僕は小さな醸造所の執念と、橋の力を感じた。橋によって運命が変わった人が目の前にいる。

結果は好転した。「さつま島美人」は県外に出され、遠く首都圏でも焼酎好きに評価されるまでになった。

※今回のプレゼントは「さつま島美人」です。ドライブ後に自宅で、橋が生んだ銘酒をお楽しみください。

黒部ダムの豪快な放水シーン


湯俣温泉に向かう途中のトンネル


山間部に掛かる歩行用の吊り橋なども話題を呼んでいるが、大型建造物といえば海では橋、山ではダムとなる。

日本最大のダムは黒部ダムであり、その高さは186m。放水シーンは迫力たっぷりだ。

また、信州大町と富山・立山を結ぶ中間に存在するために、今や周囲は大観光スポットになった。

トロリーバスは日本唯一のもので、電気を動力源としたのは排気ガス対策、環境保全の意味がある。

黒部ダムの完成によってできた黒部湖では、30分かけて遊覧する観光船が人気だが、これは日本で最も高所を運行する。

出費はかかるが大町側から富山側に抜けるには、トロリーバスで黒部ダムに出て、そこからケーブルカー、ロープウェイ、トロリーバス、バスと乗り継がないといけない。

自家用車をどこに停めるかは少々問題だが、これほどさまざまな交通機関を用いる旅もめずらしい。

また、ダム完成によって新たな冒険ができるようになった側面もある。

僕は以前、湯俣温泉に行った経験がある。相乗りタクシーを降りてから約2時間半の道程で到着する秘湯だ。山小屋に浴室もあるが、河原を掘れば温泉が湧くというのも魅力。

この名湯に2時間半で歩けるというのは、実はダムのおかげなのだ。日本で第2位の176mの高さを誇る高瀬ダムが完成したので、そこまで相乗りタクシーで行き、最初はダム沿いの電力会社が通した整備された道を行く。トンネルができているおかげで、直線的に目的地に向かえる。

まさにダム効果で秘湯・湯俣温泉は登山家でなくても往復できる範囲の温泉になった。

ダム=自然破壊とする向きも多いし、それについては同意できる部分もある。しかし、ダムによって自然が身近になったという側面も少なくない。

どう感じるかはその人次第。ダム観察体験を新たな趣味に加えるのもいいだろう。

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< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
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