首都圏に住んでいる人にとって名古屋は経由地になってしまいがちです。京都や大阪、神戸に行く時に通過する場所といったイメージが少なくありません。でも、名古屋は樹齢1000年の大楠が見守る由緒ある熱田神宮と、日本各地で評判の注目すべきグルメの街なのです。
深い杜の中を歩く七五三詣でのお子さん
手水舎は大楠のすぐ横です
樹齢1000年を超える大楠
喫茶店リヨンの「モーニング」、喫茶店むらやまの「小倉チーズトースト」。
スパゲッティ・ヨコイの「あんかけスパゲティ」にキャラバンの「鉄板イタリアン」。
世界の山ちゃんや風来坊の「手羽先」、樞(くるる)の名古屋コーチン料理。
あつた蓬莱軒の「ひつまぶし」、天むす千寿の「天むす」。
矢場とんの「味噌カツ」、串かつラブリーの「どて煮」。キッチン欧味や、まるは食堂の「エビフライ」。赤からの「赤から鍋」。
そして、きしめんNAGOYA住よしの「きしめん」、味仙の「台湾ラーメン」、山本屋総本家の「味噌煮込みうどん」、うどん錦や若鯱家、歩々亭の「カレーうどん」…。
パソコンでカタカタとテキストを打っているだけで、お皿や丼に盛られた素敵な姿を思い出して、ヨダレが垂れそうです(ごめんなさい)。
このところ、名古屋グルメが日本を席巻しています。首都圏や自動車道、空港などにも出店するところがあり、その味が全国的に評判になっています。マスコミなどでも取り上げられるケースが急増しました。
私だって名古屋で1日を自由に過ごしていいのなら、モーニングから始めてランチはスパゲッティ、夜はお酒に手羽先、そして締めに味噌煮込みうどんかカレーうどんをいただき、ホテルのベッドで幸せを噛み締めながら熟睡したい。摂取カロリーなんて気にせずに、ね。
でも、名古屋はグルメだけの街ではありません。由緒あるパワースポットも点在しています。
金運があると有名な金(こがね)神社、黄金の鯱で名古屋のシンボル的な存在の名古屋城、学業成就の上野天満宮、豊臣秀吉所縁の「ひょうたん絵馬」がある豊国神社…。なかでも、由緒ある神宮が名古屋駅の南に位置する熱田神宮なのです。
荘厳な雰囲気に包まれた本宮
名古屋市民の篤い信仰を集めています
車祓いをする人も
熱田神宮へは国道19号を北上して向かいました。「熱田神宮●km」と、案内板も適度に出ているのでスムーズに到着できると思っていました。それが甘かった(汗)。
実際に熱田神宮に近付くと、そこが熱田神宮だという標識が目立たないのです。カーナビで確認して、都会の中の鎮守の杜があるから熱田神宮であるのがわかります。
しかも、19号を北上して来ると駐車場への行き方がわかりません。神宮を通り過ぎて右折、右折ではいつまでたっても反対車線がジャマでうまく駐車場に行けないのです。
それでも、なんとか熱田神宮の駐車場にクルマを停めることができました。もう少し駐車場への案内が手前からあればいいのに…。あ!いきなり文句から始めると罰があたりそうですね。
境内に入ると、そこは七五三詣でのファミリーと観光バスで立ち寄った中国や韓国からの観光客の姿が目立ちました。
七五三は基本的には11月15日に5歳と3歳の男子、7歳と3歳の女子の無事な成長を願ってお参りする習わしです。
天和元年11月15日に館林城主である徳川徳松(徳川綱吉の長男)の健康を祝ったのが起源とする説が高い行事です。
私が訪れたのは10月初旬でしたが、現在では11月15日の1カ月前からお参りする方が増えたそうです。
外国人観光客が多いのは名古屋だけではありません。浅草や鎌倉でもよく見かける光景でしょう。当初は参拝のマナーなどが言われましたが、現在は参拝マナーも浸透しており、彼らもきちんと頭を下げて鳥居をくぐり、手水舎から二拝二拍手一拝の流れを守っています。
話はそれますが、シルクロードの取材に行ったときにお世話になった日本語がペラペラの中国人ガイドさんの話を思い出します。
彼らもしばしば団体を引率して日本を訪れるのですが、最初の集合の時に厳しく言うのだそうです。
たとえば、集合時間に遅れない、日本ではゴミを捨てない、ガムを捨てない。電車の乗り降りは降りる人を待つ。列に並ぶ…。神宮やお寺で騒がない、マナーを守るなど、かなり口をすっぱくして言うそうです。
彼らの努力も大きいのでしょう。日本人に混じってきちんとお参りをし、絵馬にお願いごとを掛ける外国人参拝客の姿は、なんとも微笑ましいものでした。
熱田神宮の樹齢1000年を超える大楠も、国際的な友好関係が生まれ、さまざまな人が訪れるようになった今日を、喜んでいるかもしれません。
絵馬にはさまざまな言語がありました
奉納された東海地域産の日本酒
宮きしめんは参拝後に食べたい逸品
おばあさんの世代なら「三種の神器」といえば戦後の日本の“新生活”を支えたテレビ、洗濯機、冷蔵庫と記憶しているかもしれません。
しかし、本来「三種の神器」とは日本神話のなかで天孫降臨の際にニニギノミコトが天照大神から授けられた「八咫鏡(やたのかがみ)」「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」、「草薙剣(くさなぎのつるぎ)」を指します。
熱田神宮の創建は草薙剣の御鎮座に始まるのです。ヤマトタケルノミコトは神剣を現在の名古屋市緑区に留め置かれたまま紀伊半島に旅立ち、そこで亡くなられています。
御妃であるミヤスヒメノミコトはその後に神剣を熱田の地に祀ったのです。以来、「熱田さま」「宮」と親しまれつつ、伊勢神宮につぐ尊いお宮として信仰を集めてきました。
境内の広さは約6万坪。喧騒な名古屋の街に、静かで緑豊かな一帯を残し、樹齢1000年を超える大楠も境内で悠々と枝を伸ばしています。
また、由緒ある神宮だけに宝物館には皇室をはじめ、全国から寄せられた貴重な奉納品が収蔵展示されています。
これだけの神宮ですから、さまざまなパワーが宿っています。
前述した大楠は弘法大師が植えたと伝承され、棲息している蛇を見かけると幸運に恵まれるとされています。
別宮八剣宮は織田信長や徳川家康が修繕に関わっているために、戦国武将のパワーが感じられるところです。ちなみに信長塀は織田信長が桶狭間の戦いで勝利したお礼に寄進したものと伝わっています。
さらに、目の神様であり、顔を洗えば美肌になると信じられている「お清水さま」、2012年から一般公開された現在でも撮影禁止の「一之御前神社」は、熱田神宮でもっともパワーが強い場所という人もいます。
広い境内の中はパワーに満ち溢れているのです。そして、お参りを終えた後は、境内の「宮きしめん」へ。ダシが効いたシンプルなきしめんでありながら、とても美味。結局、最後は名古屋グルメに戻るのでした。
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。