大空に二筋の細い雲を残して飛行機がどこかに飛んでいく…。未だ見ぬ地を目指して進む飛行機は、眺めるだけでも楽しいものです。まして、航空機を操縦するシミュレーション体験はパイロットの気分。成田空港に隣接する航空科学博物館におでかけしました。
エアバスA380が成田空港に着陸
航空科学博物館の屋外展示。本物の操縦席が見られる
航空科学博物館の展望展示室からの眺め
ぼくのスマートフォンには「flightradar24」というアプリが入っている。
24時間、世界中を飛ぶ飛行機が世界地図上に飛行機マークで示されるアプリだ。たとえば大島上空にいる飛行機マークにタッチすれば、「JL92ソウル→東京(羽田)ボーイング787 1時間20分経過、残り15分」、などが表示され、さらに高度と速度が示される。
つまり、その飛行機の位置と、機種、出発地と到着地、離陸後時間と着陸までの時間などがすぐにわかるのだ。
東京湾やヨーロッパ、アメリカの大都市の上空は、とくに飛行機マークが密集しているが、そのすべてが同様に示される。
絶対に必要というアプリでもないが、以前乗った飛行機が(たとえばNH185ホノルル→羽田)が、どのへんを飛んでいるかなどが調べられる。友人が乗った飛行機が今どのへんを飛んでいるかもわかる。こんなことが楽しいのである。
ぼくが飛行機を好きになった時期ははっきりしている。
大学卒業後、ぼくはパキスタンにあるカラチ総領事館で働いた。いちばん下っ端だったから、空港での来賓のお迎え、そして見送りが大事な役目だった。到着予定時間の30分前には空港に行き、ラウンジを手配して到着便を待つ。しばしば到着便が遅れる。そんなときは、空港で飛行機を眺めていた。
パキスタンの空港だけに、中東諸国やアフリカの航空会社など、日本では見慣れない塗装を施した飛行機が次々に現れる。それを眺めるのが好きだった。
カラチを発って再びカラチに戻る旅にもでかけた。そんな時は、予算内でなるべく乗ったことのない航空会社を選んだ。ヨーロッパの小さい国の航空会社、アフリカや中東の航空会社…。それぞれに異なる制服のCAに会い、独特の機内食を味わう。とてもおもしろい体験だった。
現在、羽田空港の国際便はますます増え、そのぶん成田空港に行く機会が減った。その成田空港に隣接して「航空科学博物館」がある。
ここはぼくのお気に入りの場所だ。
羽田空港や浮き島にある空港の場合は、飛行機の離着陸を間近に見ることは難しい。海の上をやって来て、海の上に飛び立っていくからだ。しかし、成田空港や伊丹空港、福岡空港は街のすぐ上を飛行機が飛ぶ。だから、より以上に迫力のある飛行機観察ができるのだ。
この前、成田空港に行ったときも、国道のすぐ上をアシアナ航空が採用する世界初の総2階建てジェット旅客機、エアバスA380が舞い降りてきた。
実物展示によるジャンボ機の胴体断面
8分の1スケールのジャンボ。操縦席で操作ができる
成田空港に隣接する航空科学博物館は、成田空港と飛行機に関する展示物が見られる博物館だ。
屋外に国産の旅客機として1960年代に初めて製造されたYS-11をはじめ、セスナやヘリコプターなどの小型機が展示されている。内部まで入れるものもあり、びっしりと計器が並んだ操縦席を見ることもできる。
おとな500円の入場料を払って館内へ入る。
まず驚かされるのは国内で見る機会が減ったジャンボジェットの巨大さだ。
1本で20トンもの重さに耐えられる大きな実物タイヤがあれば、エンジンの内部がわかる展示もある。
さらに、3層に分かれたジャンボ機前部の胴体断面展示が見逃せない。隣に展示されたYS-11とDC-8の胴体断面とは比較にならないほど大きいのだ。
最下層には荷物やクルマなどが積まれ、2層目は一般客室、上層にはビジネスクラスのシートが置かれている。
その大きさに圧倒されるのだが、もっと驚くのは外壁の薄さである。おとなの指の半分くらいの厚さしか外壁がない。こんな薄い壁で、時速900km前後で太平洋を飛び越えてアメリカへ、あるいは北極圏を飛び越えてヨーロッパに行っていたのかと、しみじみ思う。
主翼断面も展示。これらは、かつて実際に空を飛んでいた本物だから、まるで整備工場にいるような気分になる。
博物館の上部は展望展示室や展望台になっている。成田空港に発着する飛行機を眺めるには最高の場所だ。
「もうすぐ〇〇航空が着くよ」といった声が展望台に響いていた。きっと常連さんなのだろう。大きな望遠レンズが付いたカメラを手にしている。彼らは情報を交換しながら、飛行機の姿をファインダーにとらえていた。
【おまけ画像 着陸するANAカーゴ機(博物館で撮影)】
ジャンボ機のコックピットをガイド付で見学
ジャンボ機のドアを開閉する
客席に座ってひと休みも可能
その昔、ぼくは飛行機のシミュレーションゲームにはまっていた。セスナから始まり、徐々に大型機を操縦して各地の飛行場から離陸して着陸するゲームだ。
だが、所有するゲームはレベルがあがると旅客機から戦闘機になり、急にぼくの熱は冷めた。ぼくは飛行機好きといっても、旅客機が好きなのだ。ダグラスDC-3のプラモデルは作っても、ゼロ戦やF-4は作らない。
話は逸れたが、空港や航空博物館にはたいていシミュレーションがある。そのほとんどは戦闘機を想定したものではなく、旅客機を想定したものだ。これが楽しいのだ。
航空科学博物館にもコックピットに入って操縦することで、向きなどが変わる8分の1スケールのジャンボ機模型がある。
別料金100円が必要だが、DC-8のフライトシミュレーターは、実際にパイロット訓練用に用いられたものを改造したものだ。
さらに、「747セレクション41機内ツアーガイド(別料金500円)」は、実物のジャンボ機の先頭部分を解説付でまわるものだ。機長姿のガイドによって、実際にドアの開け閉めを体験したり、実物ジャンボの操縦席に座って計器を眺めることもできる。
かつて、地球を何周分も飛んだ飛行機を使って開催されるミニツアーだけに、臨場感は計り知れない。
シミュレーションでのパイロット体験をし、本物のジャンボ機のコックピットに座り、展望台で成田空港を飛び立つ、あるいは着陸する飛行機を見る。
ぼくはもちろん、スマホアプリの「flightradar24」を活用し、「あの飛行機はジャカルタから飛んで来たのだ」「あのANA機はニューヨークまで行く」などとつぶやきながら飛行機を眺めていた。
☆
今回は千葉県の航空科学博物館を取り上げたが、埼玉県所沢市の「所沢航空発祥記念館」、青森県三沢市の「青森県立三沢航空科学館」、石川県小松市の「石川県立航空プラザ」、静岡県浜松市の「航空自衛隊 浜松広報館エアーパーク」などの飛行機を主にした博物館がある。青空がきれいで、飛行機が似合う日におでかけして、飛行機体験をしてみたらいかがだろう。
< PROFILE >
篠遠 泉
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。
篠遠 泉
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。