湯殿山(ゆどのさん)という名前からわかるように、この地は1400年以上も前から湧き出る湯殿が参拝されてきました。出羽三山の奥宮として「語るなかれ」「聞くなかれ」と戒められた神秘の霊場。温泉通ならばぜひ経験しておくべきでは。 |
大鳥居からはマイカーでは上がれない。本宮入口からは撮影禁止、語るのも禁止された神秘の霊場になる
湯殿山神社本宮 所在地:山形県鶴岡市田麦俣字六十里山 開山期間:4月下旬~11月上旬 [冬季間] 出羽三山神社社務所 TEL:0235-62-2355 すべての市町村で温泉が湧出する山形県にあり、月山、羽黒山と並び称される、出羽三山奥宮の湯殿山(ゆどのさん)だ。 出羽三山は、蘇我馬子によって暗殺された崇峻天皇の御子、蜂子皇子(はちすのみこ)の開山とされる。崇峻天皇の暗殺は592年だから、1400年以上の歴史を持つことになる。 蘇我氏の難を避け、海路で由良海岸(鶴岡市)に上陸し、出羽の国に入ったと伝えられている。 出羽三山神社沿革によると、皇子は三本足の霊烏の導くままに羽黒山に入り、難行苦行の末、山頂に羽黒権現を奉る羽黒山寂光寺を建立。次いで月山、湯殿山を開き、両神を羽黒山に勧進して羽黒三所大権現と称するようになった。 古来より、温泉は自然からの恵みとして、日本人の信仰の対象になってきた。滝や巨大な岩など、自然の森羅万象に人間の意志を超えた生命の神秘を感じとり、自然物そのものを御神体として崇めてきた。 今回取り上げる湯殿山神社本宮には社殿はなく、熱湯の湧き出る「それ」が御神体そのものになっている。 「それ」と書いたのは、この山で体験したことは「語るなかれ」「聞くなかれ」と戒められているからだ。 「語られぬ 湯殿にぬらす 袂かな」 これは松尾芭蕉が詠んだ句で、他の俳句に比べればあまり有名とはいえない。東北紀行『奥の細道』にも、湯殿山神社のことが簡単に記されている。 「そうじて、この山中の微細、行者の法式として、他言することを禁ず。よりて筆をとどめてしるさず。」 江戸時代、西の伊勢参りに対して東の奥参りと称され、全国から多くの参拝者が訪れたという歴史がある。しかし、湯殿山があまり世に知られていないのは、こういった戒めがあるからに違いない。 専用バスでは約5分強程度。時間があれば自然を感じながら自分の足で上がっていきたい。撮影もバスを降りた本宮入口の参道まで
ほら貝を吹く山伏や五重塔で有名な羽黒山は、現世利益の御神徳にあずかる宮。夏スキーのメッカ、標高1984mの月山では、山頂で大神を参拝して死後の浄化を受ける。そして湯殿山に至り、その大神より新しい生命を賜って生まれ変わるというのが、出羽三山信仰のストーリーとなっているのだ。 湯殿山神社は月山登頂を果たしたあかつきに、尾根伝いを西に下って約8km、急な崖を何カ所も越えてようやくたどり着く、登山道の下山途中にある。奥宮と呼ばれるのはそのためだ。 現在は、月山に登らなくとも、国道112号線から湯殿山有料道路を使えば簡単にアクセスできるようになっている。 有料道路を2kmほど走ると、自然のなかに赤い大鳥居が姿を現す。クルマで上がれるのはここまで。駐車場からは専用バスに乗るか、徒歩で約30分かけて本宮まで上がっていくことになる。 この鳥居をくぐってしまえば、その向こうは神秘の霊場。 芭蕉にならい、あえて記さずにおこう。 しかし、それでも、伝えたくなる気持ちは残る。 参拝後、あまりの感動に涙で袂(たもと)が濡れるほどだった、と詠んだ芭蕉に深く共感した。 参拝の仕方も、従来の社殿のものとは大きく異なる。 心が洗われるというよりも、そこに滞在していたときに、自然に湧出する温泉を生命の源になぞらえた古人と、心がひとつになった気がした。 最後にもうひとつ。 ふだんから杖をつきながら歩く、脚の悪い同行の父が、帰りにはなぜか杖を持たずに参道を下りてきた。 これを霊験あらたかというべきか……。 庄内町のフレッシュなマッシュルームを使った生ハムクリームスープパスタ。庄内牛のいちぼローストのソースは紅茶タンニン+ニンジンピューレと炭塩で
アル・ケッチァーノ 所在地:山形県鶴岡市下山添一里塚83 TEL:0235-78-7230 鶴岡市郊外にある、庄内イタリアン「アル・ケッチァーノ」だ。 野菜使いの達人・奥田政行シェフが経営する名店。東京・銀座1丁目にも姉妹店の「ヤマガタ・サンタンデロ」がオープンし、その名は世界にも広まっている。 1カ月以上前に予約しておいたためスムーズに案内してもらえたが、オープンと同時にほぼ満席に。 この日、注文した5500円のおまかせコースでは、以下のような料理が並んだ。 ・吹浦産の岩牡蠣 鳥海モロヘイヤケッカソース ・稚鮎とだだちゃ豆のリゾット ・きんから鯛のアクアパッツァ ・マッシュルームと生ハムクリームスープパスタ ・庄内牛のいちぼロースト ・桃のシャーベット ・だだちゃ豆のアイスとロールケーキ 生野菜を盛り込んだ料理を想像していたのだが、素材本来の味をどっしりと楽しむような料理が並んだ。 素材の組み合わせやアレンジに新しい発見があり、次の皿が出てくるのが待ち遠しい気持ちになる。 まだまだ地方には、経験していないこと、新しい発見がある。 温泉を、地方をめぐる旅は、まだまだ続きそうである。 |
国道112号線から湯殿山休息所の大駐車場までの約2kmは有料道路となっている(400円/往復通行料、駐車料含む)。大駐車場から湯殿山神社本宮入口までは、専用バスか徒歩で上っていくことになる。徒歩でも約30分の行程。専用バスは片道200円、往復300円。参拝時は御祓料として1名500円が必要。開山期間は4月29日~11月3日頃まで。積雪期は閉山されるので、要注意のこと。
同じ期間、ドライブの立ち寄りスポットとなる国道122号線沿いの寒河江ダムでは、日本最大の噴射高112mを誇る月山湖の大噴水が見られる。平日は10時~16時まで、土日祝は10時~17時まで、ともに1時間ごとに打ち上げられる。