日本で最も好きなスキー場はどこですか? 北信州の野沢温泉はおもてなしの心で観光客を迎えてくれる、日本を代表する山間の温泉リゾートです。 |
すべての外湯は30余の源泉(約40~90度)から引湯され、源泉かけ流し。弱アルカリ性で、無色透明、硫化水素臭がある。
野沢温泉 所在地:長野県下高井郡野沢温泉村 TEL:0269-85-3155(野沢温泉観光協会) かつて、ひたすら全国のスキー場をめぐる生活をしていたとき、飲みながら仲間内で語り合ったものだ。 「やっぱり北海道のニセコじゃね?」 「ゲレンデ数と大きさでいったら志賀高原だよね」 「安比高原がいいじゃん。コンパクトにまとまっていながらスケールが大きくて」 「いや、やっぱり八方尾根だよ。あの景色のよさと、山頂からの朝いちゴンドラダウンヒルやってみ? もし八方に住んだなら、俺、毎朝1本滑れればもう十分かも」 あれこれ話すなかで、自分が思い描くナンバーワンは野沢温泉だった。 温泉があり、温泉街の雰囲気もあって、スキー場の規模も大きい。でも、それなら蔵王や八甲田でもよかったはずだ。 自分がなぜ野沢温泉に惹かれるのか……。 連帯感。 当時はうまく言葉にすることができなかったが、自分が感じていた野沢の魅力は、この言葉に集約されるのではないかと思う。 上信越自動車道・豊田飯山ICから千曲川を北上。飯山市のあたりから長野と新潟を隔てる山懐へと分け入っていく。 初めて野沢温泉を訪れたとき、山の中に“スキー村”が忽然と現れたような印象をもった。 多くのスキー場が町と町を結ぶ主要な幹線道路から少し入ったところにある「通過点」だとすると、野沢はどんつきもどんつき、これ以上先に進めないところに現れた「終着点」だ。 このスキー温泉村は「山籠り」という言葉が似合いそうだな、というのがファーストインプレッションだった。 野沢温泉のシンボルで外湯のひとつ、「大湯(おおゆ)」。温泉街の中心にあり、その向かいには足湯も併設されている
外湯利用時間:8:00~23:00 利用料金:賽銭箱に寸志を 泉質:単純硫黄泉 源泉:66.4度 しかし、野沢は違った。 “ステイ・ローカル、シンク・グローバル” 山の中に身を潜めたような小さな村でありながら、そこに住む人の目は世界に向いていた。 野沢に生きる人々や温泉街の雰囲気から、「海外から見た日本の温泉リゾート」を意識していることが伝わってくるのだ。 のちにわかったことだが、野沢は共同体意識が強く、温泉を個人ではなく村が管理している。 野沢には30余りの源泉があり、13カ所の外湯がある。これらの外湯は、外部から来た観光客にも無料で開放されている。 もし、源泉が個人経営に委ねられているとしたら、営利目的の独自のサービスで有料の外湯が主流になっていたことだろう。 外湯は古くから地域住民の生活の共同の場所として利用されてきた。 「湯仲間」という制度があり、それぞれの外湯の周辺の住民が電気料や水道料を負担し、当番制で毎日の掃除をしている。住民自治による維持管理がこれほど行き届いている温泉地を、私はほかに知らない。 野沢温泉のホスピタリティ、おもてなしの心が、この外湯に象徴されている。 長さ9mもある社殿を囲む飾りは「初灯籠」。前年に長男が誕生した家では子どもの成長を願って初灯籠が作られ、火祭りに奉納される
道祖神祭り 1月13日 午後1時? ご神木引き 1月14日 深夜まで 社殿組み立て 1月15日 昼過ぎ 社殿完成 19:00 火元もらい 19:30 灯籠到着 20:00 花火、道祖神太鼓 20:30 火元到着 野沢組惣代の火付け、初灯籠の火付け、 子どもの火付け 20:50 大人の火付け 22:00頃 終了 毎年1月15日、小正月に行われる道祖神祭りだ。 丸1日半かけて作られる高さ10数メートル、広さ8メートル四方の木製の社殿。 たいまつを持った村の男たちとそれを阻止する厄年の男たちがこの社殿をめぐって攻防を続ける。最後には社殿に火が放たれ、巨大な炎が空高く舞い上がる、壮大な火祭りだ。 40、41、42歳の厄年の男たちによる「三夜講」という組織が社殿を建築し、守る立場となって社殿に上がる。火つけをする一般村民から社殿を守るのが、26歳の厄年の男の役割となる。 3年間にわたる三夜講を勤め上げることが、村の男に宿命づけられた通過儀礼になっているのだ。 何を大切にし、守っていくべきか、野沢の村民は明確にそれを意識している。 村営にもかかわらず、ひとつの企業体のような連帯感をもつスキー場。 その連帯感の片鱗に触れたとき、安らぎを覚えるのは私だけではないはずだ。 |