「荒川ブランド」と銘打たれた16の町工場。工場は小さくても、マイスターたちがそのアイデアと高い技術でモノ作りに精を出す。荒川区が実施する「モノづくり見学・体験」は、それらの工場の見学とモノ作り体験ができるプロジェクトだ。 |
東京・荒川区南千住から三ノ輪橋に出て“チンチン電車”に乗って荒川区を横断する。都電の沿線や日暮里駅周辺には、荒川が誇る16の町工場が点在している。 鞄(かばん)製作所、リヤカーや自転車を作る工場、行燈(あんどん)や竹細工の工房など、16の町工場の作るモノはまちまちだ。 「荒川ブランド モノづくり見学・体験スポット」は、これらの町工場を見学、体験できるプロジェクトで、荒川区産業経済部観光振興課を中心に発足した。 三ノ輪橋と早稲田を結ぶ都電。生活に密着した交通手段だ
森田鞄製作所では厳しい目で代表の栗田さんが製品をチェックする
クルマでおでかけの場合も、三ノ輪や南千住周辺にクルマを駐車して、チンチンとベルを鳴らしてから発車する都電を使ってめぐるのがいいだろう。 基本的に見学・体験を希望する場合はそれぞれの会社に事前に連絡する必要がある。ただし、先方は会社であるから定休日は土・日曜・祝日である場合がほとんどだ。 また、体験料金も会社によって異なるし、無料の場合もある。 森田鞄製作所で革製ストラップの文字入れ体験ができる(500円)
見学・体験できるところは認定看板が目印。工場は町に溶け込んでいるので見つかりにくいところも
革靴製作の「MISAWA & WORKSHOP」では革製品のメンテナンス講習(1,000円)から手縫いルームシューズ製作体験(21,500円)まで。べっ甲細工の「森田商店」では根付などのべっ甲作り体験が3,000円から。 そのほかにもドールハウス制作や金属加工品の製作体験、鋳造体験など、それぞれの会社の特徴を生かした体験ができるのだ。 |
工場めぐりは三ノ輪近くから始めた。 16の工場はすべてに特徴があるのだが、1日で全部をまわれない。インターネットで調べて、気になるところを訪ねてみた。 まずは「森田鞄製作所」へ。創業60年以上の小さな手づくり革製バッグ工場には、この道40年を超える代表の栗田行雄さんがいる。 棚の上にはさまざまな色のなめし革。革を縫う強力なミシンも数台。栗田さんは完成間近なバッグを鋭い目で検査する。 「あらかわショッピングモール」でも、森田鞄は人気だという。価格は高めだが、革の特徴を生かして細部までこだわった、持ちやすく、使い勝手のよい鞄が愛されるのは、製造工程を眺めるだけで理解できる。 日興エボナイト製作所で美しい万年筆を見せてもらった
エボナイトをこすって静電気の実験も
仕事にかかっている数名の職人たちは活気に満ち溢れていた。 その後は都電を使って、まるで「ぶらり途中下車の旅」。 都電に乗ったのは何年ぶりだろう。 「エボナイト!?」。「それなに?」 こんな程度の知識で、荒川一中前駅で降りて「日興エボナイト製造所」に行った。 エボナイトとはゴムと硫黄を混合して加熱することによって作る硬質ゴム。天然ゴムを利用してエボナイトを作っているのは日本で唯一らしい。 エボナイト研磨体験で作った万年筆置き(500円~)。持ち帰れるのがうれしい
さっそくエボナイト製品を見せてもらう。万年筆の本体部分が美しい。弾性のある硬質ゴムだから、ギター演奏に用いるピックにも適している。 体験用に万年筆置きの研磨やエボナイトの静電気実験などのプログラムが用意されていた。 |
町屋駅前から歩く「竹中雛人形製作所」では雛人形、五月人形の製作を竹中さんご夫婦とお嬢さんの3人で行っている。 正絹衣裳をていねいに着せて、お顔をつけて完成となるのだが、衣裳作りはすべて手作業で時間がかかる。年間で100体ほどしかできない細かな作業が求められるのだ。 竹中雛人形製作所ではすべて手作業で衣裳を作る
カードケース製作体験(500円)。衣裳の余り布で作るのだが、とてもきれいだ
ところで竹中雛人形製作所、1月から4月のあいだは体験ができない。この時期、雛人形と五月人形の完成に追われ、とても手が放せないのだそうだ。 「三味線かとう」では三味線の皮張りや修理の様子が目の前で見られる。代表の加藤金治さんが目の前で道具や糸を使って巧みに皮を張る。 「三味線かとう」では目の前で皮張り作業が見られる
店内には三味線や用具が並ぶ。
2階はレンタルスペースで三味線の演奏会なども開催されている 職人は身体が柔らかい! こんな感想を加藤さんを見ていて抱いた。 手がスムーズに動くだけでなく、足をうまく利用して器用に作業を行う。皮張りの仕事に全身の鼓動が感じられるのだ。 「浅野工芸」は貴金属の加工業を営む。 金、銀、プラチナなどを利用して仏具や優勝カップ、杯やワイングラスや食器類を作る。 浅野工芸では銀器を作っている真っ最中だった
小さな部品もすべて手作り。延べ棒だった銀に生命が宿った瞬間だ
インターネットで調べればグラム当たりの金、銀の価格はすぐわかるし、それが高額であるのも認識できる。 それらに代表の浅野盛光さんのアイデアが加わり、延べ棒だった金や銀が魂を持つ。芸術・工芸品としてのプラスαの付加価値がつくのだ。目の前で作られる高級品の数々。なかなかに迫力がある。 職人は道具にこだわる。
浅野工芸は工芸品を作るための道具も手作りで、大事に扱われていた ☆ 荒川の町工場を訪ねて見学・体験する1日。 職人たちの目線、動きは見ているだけで勉強になる。まして、体験もできるのだから…。町工場には日本の経済成長を支えた原点がある。 |
●モノづくり見学・体験スポットガイド荒川区公式ホームページ
http://www.city.arakawa.tokyo.jp/kanko/pamphlet/monodukuriguide.html
見学や体験には事前の予約が必要です。また、営業時間、体験内容もまちまちです。まずはホームページを開いて、16の会社の事業、なにが見学・体験できるのかを調べましょう。
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載