1. Smart Accessトップ
  2. おでかけマガジン(+バックナンバー)
  3. 登録有形文化財の西洋建築で過去と未来を感じる
「Smart Access」おでかけマガジン 毎月2回、「Smart Access」会員のみなさまへ、旬のドライブ&スポット情報をお届けします。
トップページへ戻る
日本には文化財保護の目的で「有形文化財(建物)」に登録された建造物が8300件以上存在する。そのなかの西洋建築は“純日本”から世界との融合を模索した日本の未来を見据えて建てられたものが多い。そこは歴史を感じさせる独特の雰囲気がある空間だ。

自由学園明日館の正面ホール。フランク・ロイド・ライトの建築を見に来る人も多い


正面のホールの窓。細かく切られたガラスが”パテ”によってていねいにはめられている


ホール両側にある教室とその前の柱。柱の並びまで美しい
過去にもこの連載で書いたが、ぼくは幼稚園から大学まで東京の自由学園という学校で学んだ。

中学1年生の全員が寮に入って友人たちと学ぶという英国的な発想の学校は、ジャーナリストの羽仁もと子と、その夫であり同じくジャーナリストの羽仁吉一によって創立された。

キリスト教を柱に“生活”に基づく新しいアイデアを盛り込んで1921年に始まった学校は独特の授業を行う。事実、ぼくらは机の上の勉強だけでなく、寮で使う机や椅子を自分で作ったし(中学1年で!)、農作業や林業、腕時計の分解も行った。

創立には多くの知識人が賛同したようだ。そのひとりにアメリカの建築家、フランク・ロイド・ライトがいた。

旧帝国ホテルの建築でも知られる彼は、自由学園の設計を行っているのである。

1929年以降、自由学園は段階的に東京・東久留米に移転していくが、ライトが建てた「自由学園明日館」は東京・目白に今も残っており、建築を勉強する人だけでなく、ライトの建造物を観ようという観光客が訪ねる。

結婚式やコマーシャル、プロモーションビデオの撮影にもしばしば使用されているそうだ。

ただし、幼き日にそこで学んでいると、ライトの偉大さにはほとんど気づかない。旧帝国ホテルを作った人が設計したと聞いても「ふーん」と実感が湧かないのだ。

ぼくは明日館で当時開園されていた幼稚園の生徒だった。

お弁当だったかどうかは忘れたが、食後には「お昼寝」タイムがあり、4~6歳のぼくは友達と一緒にライトが築いた美しいホールでゴロゴロ寝ていたのである。

正面ホールの前面についた大きな窓。まるでヨーロッパの教会のようだ


ホールに置いてあった椅子も創立当時にあったものと同型で、ライトの想いが込められている
編集者になってからのこと。ニューヨークに行く仕事があった。

仕事の合間にメトロポリタン美術館に出かけた。

世界中から集めた美術品の鑑賞が目的であるのはもちろんだが、その視線は印象派の絵画や著名な彫刻物に向けられていた。広大な美術館だけに、それ以外の部屋は素通り状態になる。

そんな状態で入ったあるフロアで、ぼくの視線が止まった。六角形を活かした椅子や、見覚えのある窓が目に入ったのだ。

フランク・ロイド・ライトの部屋だった。

とても安心でき、穏やかな気持ちになる窓や家具。

小さいころにライト建築で育ったのだから当然かもしれない。実際に、その部分も大きいだろう。

しかし、展示品を見て解説を読むうちに、明日館の建築美は「教育の場にふさわしい造形」を求めたライトの計算によって生まれたものであるのに気づく。

ぼくは大人になって、ようやくライト建築で育った重みを知った。

彼の建築にぼくが感じるのは対称と線と曲面が描き出す美だ。明日館も旧帝国ホテルもほぼ左右対称である。それでいて、窓枠などの線に豊かな遊びを表現している。

晩年のライトの手によるニューヨークのグッゲンハイム美術館は曲線を活かしたモダンな作りをしている。

どちらの建物も「居心地がいい」という点で共通している。

ホールの後方の中2階部は食堂になっている。羽仁もと子の「食の場も教育」の発想によって印象的な作りだ


明日館の夜。取材した日はパーティの予約が入っていた
自由学園の明日館は一般に公開されていて、内部でお茶も楽しめる。

明日館以外にも見るべき建造物はたくさんある。そこに行って独特の空気感を体験すると、さまざまな思いが生じるものだ。

江戸時代の後期に日本で商売をした外国人たちによって建造された洋館。

さらに、明治初頭に近代化のために日本政府によって招かれたジョサイア・コンドルたちの建築家によって建てられた建造物。

それらは世界に羽ばたこうとする日本における「未来を見据えた」建物のように思える。

イギリスの建築家、コンドルが建てた建造物は多くが関東大震災や空襲、さらにさまざまな事情で現存していないが、それでも東京にニコライ堂、旧岩崎邸庭園洋館、旧古河庭園大谷美術館、三重県に六華苑旧諸戸清六邸が残っている。

駐車場がない場所もあるが、ドライブで出かけて近隣にクルマを停めてゆっくりと歴史を感じてみる。こんな体験もいいものだ。
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載
  • スポット特集
  • B級グルメ特集
  • オートキャンプ特集
  • レジャー&リゾート特集
  • ロケ地特集
  • 絶景特集
  • 子供といっしょにお出かけ特集
  • 特産品・名産品特集
  • 温泉・スパ特集