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手紙や葉書をさっぱり書かなくなっている。携帯電話やメール、ラインなどの発達で、その必要がないためだ。配達される郵便物も企業からのお知らせや請求書などが多く、ほっこりするものが少ない。そのなかに、手作り葉書が1枚あったらとても素敵だけど…。

飛鳥山公園の一画にある「紙の博物館」。紙に関する展示をはじめ、企画展も開催される


ボランティアスタッフの方が親切に手伝ってくれるので安心して参加できる


教室の最初には副館長の江尻さんの「紙」に関する話があった
「小川に行きたいのだけれど…」と言ったのは、神奈川県の鎌倉で千代紙人形を創作し、生徒たちにその技法を教えていた祖母だった。

鎌倉観光に来る人たちに「お多福人形」と呼ばれた小さな千代紙人形が好評で、祖母は製作に追われていたが、彼女が本領を発揮するのは歌舞伎を題材にした高さ30センチ前後の大物だった。

「暫」「勧進帳」「連獅子」などの歌舞伎の人気演目の登場人物を、少々太い指先で器用に作り上げていく。

千代紙をうまく利用して色鮮やかで、独特のやさしい曲線をもった人形をこしらえる。我が祖母ながら、それはみごとな仕事だった。

その祖母が小川に行きたいと言い出し、自動車の運転免許を取ったばかりの僕は、鎌倉と埼玉県の小川を往復した。

小川は清流に恵まれた土地であり、和紙の原料となる「楮(こうぞ)」が原生していたために、はるか昔より和紙作りが盛んだった。
奈良の正倉院に伝わる古文書には、「8世紀に武蔵国から大量の紙が寄進された」という旨の記載があるという。

武蔵国は現在の東京、神奈川県東部、埼玉県と広範囲におよぶので、その紙が小川のものだとは断定できないが、同時期に小川の和紙は他のところにも寄進を願い出ており、すでに和紙製作が盛んだったことが裏付けられている。

僕は祖母と一緒に小川のお店をめぐった。和紙を選ぶ祖母に付き合い、あるお店では紙すき体験をして世界に1枚の葉書を作った。

あれはもう30年以上前の出来事だ。

最初にすき枠を選ぶ。絵が描かれた部分は”すかし”になる


牛乳パックを溶かした原料をすき枠にたっぷりと入れる


落ち葉や色紙を原料の中に沈めると、それが模様となって浮かびあがる
全国をめぐると和紙の生産地を訪れる機会は案外多い。清流や湧水があり、楮をはじめとする原料が手に入りやすい土地では、現在でも昔ながらの方法で紙をすいているのだ。

近年では「道の駅」や記念館を整備して、「紙すき体験」ができる施設も増えた。

高知の四万十川を旅したときは、紙すき体験ができる民宿があって驚かされたものだ。

体験の方法はさまざまで、楮を煮る工程からもあれば、紙すきだけを行うケースもある。葉書のような小さいものを作る体験もあれば、半紙大の紙すきに挑戦させるところもある。後者はとても難しく、熟練の職人さんの手を借りないと、均一な厚みをもつ和紙はできなかった。

ところで僕は、紙すき体験ができるのは、きれいな水があり、和紙作りの伝統がある土地だけだと思っていた。

あるとき、東京でも紙すき体験ができるのを知った。

最初は楮などで作る、いわゆる「和紙作り」だと思い込んでいたら、東京・北区王子の飛鳥山公園内にある「紙の博物館」で行っている紙すき教室は、牛乳パックを使用するリサイクル型だった。

日本は世界第3位の紙生産国であり、約2600万トンの生産を誇るが、その約6割がリサイクルによってできている。新聞紙に限れば、約8割がリサイクルされるほどだ。

つまり、樹木を倒して紙を作る時代は一昔前に終焉していたのである。

紙博物館では牛乳パックを中性洗剤で煮て、コーティングフィルムをはがし、さらに漂白剤でほぐれやすくしてからミキサーにかける。これがリサイクル紙の原料になる。

博物館のスタッフやボランティアスタッフにより、それがうまく伝わるから、大人も子どももリサイクルに関心が沸く。なかなかの試みなのだ。

自動車用ジャッキを改良した機械で水分を除く


薄い布の上からアイロンをかけると、葉書が完成する


できたてほやほやの葉書に、さっそく言葉を添える子どもたち
紙博物館では特別なイベントと重複しない限り、基本的に土曜、日曜の午後1時から約90分間、紙すき教室を実施している。

入館チケット(大人300円、小中高生100円)の購入が必要だが、教室参加費は無料。会場には受付でもらった整理券をもった人たちが集まっていた。

最初に紙の生産量やリサイクルの話がある。その後に、整理券の順番に紙すきがはじまる。

“すかし”が入るように工夫されたすき枠を選び、そこに牛乳パックを溶かした紙の原料を注ぎ込む。

用意された落ち葉やハート型や梅の花のかたちに切り抜かれた色紙を液体の中に沈める。どんな仕上がりにしたいかをイメージして位置を決めるのだ。

そのあとにすき枠を持ち上げて水を切って紙の成分だけを残し、さらにジャッキを利用した水しぼり機で水分を除く。

あとはアイロンかけ。1分ほどで自分製葉書が完成する。

会場では子どもたちがさっそくペンを持って何かを書いていた。

できあがったばかりの葉書に言葉を添えて、大好きなおじいちゃんやおばあちゃんに出すのだと笑う。

世界でたった1枚のこんな葉書が届いたら、さぞかしうれしいのだろうなと、こちらまで気持ちがほっこりした。

短い時間で気軽にでき、それでいて楽しく、気持ちが温かくなる「紙すき教室」。

僕の祖母はとっくに天国に召されたけど、作った葉書を祖母に送りたい気分になった。

●紙の博物館
http://www.papermuseum.jp/

●小川和紙Net
http://homepage2.nifty.com/washi-net/index.html

●小川和紙Net内「紙漉きが体験できる施設」
http://homepage2.nifty.com/washi-net/link/experience/link_ex1.html
< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載
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