「都市伝説」が語られ、多くのタレントがテレビで話してから、人気爆発したパワースポットが東京・杉並にある大宮八幡宮です。安産、縁結びにご利益があるとして人気の神社ですが、近年では「小さいおじさんを見た」「妖精を見た」という声が後を絶ちません。 |
住宅地の一角に現れる一之鳥居。ここから表参道が始まります
「御神水」をひとくち含みたい人が長い列を作っていました
本殿に続く長蛇の列。境内は武蔵野の雑木林の雰囲気が残っています
幽霊を見たのはフランスをレンタカーで一周したときでした。 スイス・ジュネーブ発で成田に戻る予定だったのですが、深夜にジュネーブに戻ったわたしたちは、ホテル経費を浮かせるために、「P」の標識があるところでの車中泊を決めました。 駐車場は幹線道路から入った坂の上にありました。真っ暗な場所に車を停め、眠りについてから2時間くらい経ったとき、車の窓をトントンと叩かれました。 寝ぼけ眼で窓を開けると、外には3人のおばあさんが立っていました。フランス語で何かを話しかけてきます。 フランス語は通じませんが、表情や身振り手振りで、「大丈夫かい?」と気遣ってくれているのがわかりました。わたしたちが「OK!」と応じると、ニコニコ笑いながら3人は前方に歩き去りました。 辺りが明るくなって目覚めたとき、車の前方を見て唖然としました。車のすぐ前は下りの急勾配で、おばあさんたちはまっすぐに歩けるわけがないのです。 左横には歴史のありそうな古い教会がありました。そして、右横は墓地。そこは教会の駐車場だったのです。 「おばあさんたち、まっすぐ歩いてから振り返って手を振ったよね」と、友人は茫然とした顔をしていました。 やさしそうな表情をしたおばあさんたち。きっと、仲良し3人組が同じ墓地に眠っており、駐車場で夜を過ごすわたしたちを心配して見に来てくれたのでしょう。 妖精は北海道の森で見ました。小さな人は中野の友人宅で見ました。明け方、布団の縁を小さなおじさん二人が、3頭の羊を連れて、ゆっくり歩いていたのです。 |
縁結びや安産にご利益があるだけに若いカップルが目立ちます 「マタニティマーク」が中央に描かれた絵馬がありました 立派な樹木や「共生の木」などがある境内。奥は天神様です
とくにパワースポットに関心がある人たちは「東京のへそ」と称し、“神々の記憶と数々の日本の歴史へと誘う胎内回帰ができる神秘の場所”として注目しています。 大宮八幡宮は昔から厄除けなどに加えて、とくに安産、縁結びにご利益がある神社として“知る人ぞ知る”神社でした。 しかし、状況は大きく変化しました。 「都市伝説テラー」である芸人の関暁夫が大宮八幡宮を「都内最高のパワースポット」と語って(杉並出身だからという説もありますが…)有名になり、さまざまな芸能人が「小さなおじさんを見た」とテレビで話して一躍脚光を浴びる神社になりました。 東京・杉並という住宅街にあって広大な敷地をもつのも特徴です。 一之鳥居、二之鳥居をくぐると一気に森の香りに包まれます。 表参道の両側に大きな樹木が続き、神門の手前右側には「広き野に霊の清水あるところ」と詠まれた御神水が湧き出しています。 神門の横には夫婦銀杏、本殿の横には菩提樹、さらに“かやの木”に犬桜が寄生した“共生の木”など、境内は武蔵野雑木林の面影が残っています。 境内には学問の神様・菅原道真公ゆかりの「大宮天満宮」、「大宮稲荷神社」、「三宝荒神社」、「若宮八幡神社」などに加えて「振武殿」と呼ばれる弓道場もあります。 壮大な神社と神秘の森。小人伝説があるのもうなずけます。 |
周囲の町内の神輿が展示されていました 弓道場ではベテランから若い女性まで、精進する姿が見られます
公園が隣接しているために、緑の面積が思いの外広い神社です
3月の日曜日、大宮八幡宮には大勢の人がいました。 神門手前から本殿まで行列が続き、本殿や境内の神社をお参りした人たちが、“参拝の締めくくり”といった雰囲気で御神水に並んでペットボトルに汲んでいます。 カップルが縁結びを願い、若い夫婦が「マタニティマーク」が描かれた絵馬に安産を祈願する言葉を書き込む。 幹線道路が周囲にあるとは思えない静けさのなかで、参拝者がさまざまなお祈りをしています。 都会の神社とは思えない厳かな空気感は、境内と周囲、隣接する公園にある森が作り出すものでしょう。なるほど、都市伝説が生まれるのがわかる気がします。 わたしが見たやさしい幽霊と、北海道の森の妖精と、小さな遊牧民。そこに恐怖はありませんでした。 もともと、その地に住んでいた人、棲んでいる何かが現れたにすぎないと思えるように、ごく自然に存在していました。 信じるかどうかは別問題だと思います。 参拝とともに、そんな伝説が生きる場所に出かけてみませんか? |
< PROFILE >
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。