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大人気の熊本県・黒川温泉の近くに、古くから温泉が自然湧出する集落がある。外から丸見えの露天風呂は、無色透明で気持ちのいいきれいな湯だった。
満願寺温泉
所在地:熊本県阿蘇郡南小国町満願寺志津
TEL:0967-42-1444(南小国町観光協会)
[温泉館、上湯]
日帰り入浴料金:大人200円+寸志
日帰り入浴受付時間:6:00~22:00
泉質:単純温泉
泉温:42.8度
湧出量:237.6?/分
pH:7.1


満願寺温泉露天風呂。志津川の中にあり、反対側の道路から丸見え


満願寺。庭園は県指定の名勝で、重要文化財の宝塔や石塔群もある。樹齢1000年といわれる金毘羅スギは国指定天然記念物


上の湯。地元ではあせもやにきびに効くといわれている


満願寺温泉から志津川を上流に数キロさかのぼったところにある南小国町立岩水源公園。豊富な湧水が常時ごんごん湧いている。
温泉の人気は、必ずしも知名度や温泉街の規模によらないというのがおもしろい。
秘湯に魅せられた温泉通の間では、東の乳頭(秋田)、西の黒川(熊本)が揺るぎのない温泉番付の横綱となっている。
いずれも古き良き日本の郷愁をそそる名温泉であることは間違いない。  

今回は、その黒川温泉にほど近い、埋もれてしまいそうな名湯を取り上げてみたい。  

黒川温泉沿いの国道442号日田往還から小国町方面に進み、並行する県道40号に入る。
目的地は高野山真言宗の古刹、満願寺。
黒川温泉からクルマで15分も走れば到着する。

満願寺は、北条氏の祖の北条時政以来、代々継承されてきた肥前国阿蘇社の所領を継いだ時定によって、鎌倉時代中期に創建された。
時はモンゴル帝国(元)が勢いを増し、服属政権となった高麗とともに日本に侵攻を仕掛けてきた時代。いわゆる元寇である。
文永の役(1274)、弘安の役(1281)と立て続けに襲来した蒙古に対処するために、時定は鎮西奉行としてその対策に従事した。

山門入口にある満願寺縁起には、元寇平定祈願の地として当山が選ばれた理由が書いてあった。
九州中央部にあり要害堅固であること、弘法大師が霊場を開き、梶原氏が築いた庭園のある縁故の地であることが掲げられている。
そしてもうひとつ、見逃せない理由に、自然湧出の温泉の存在があった。

満願寺の目の前を流れる志津川は、オキチモズクという珍しい日本固有種の紅藻が生息する清流だ。目を凝らすとたくさんの稚魚が、群れをなして泳いでいる。

この志津川の満願寺の門前から約100mほど上流にかけて、川の斜面の岩の間から温泉が湧出しているのだ。

民家を右手にして満願寺から上流に向かって少し歩くと、反対側の川の縁にコンクリート製の浴槽が見えてきた。
まさかとは思ったが、間違いない。川の中にひさしが張り出しており、露天風呂の浴槽が3つ並んでいる。
ふたつは大き目で、ひとつは子ども用だろうか。小さくて浅い。

道路から丸見えの露天風呂。
脱衣場はどこに、と思いきや、露天風呂のひさしの向こう側に簡単な棚が設けてあった。

恥も外聞もなく、宿の玄関前の小路で服を脱ぎ、タオル一枚で湯船に向かう。

お湯はけっこう温かい。41度ぐらいの適温だ。
無色透明。無味無臭。
じつにきれいな湯。

湯船から見上げると、だんだん違和感がなくなってきた。
川の中というより、どこかの宿の清流沿いの露天風呂に入っている気になってくる。
平日ということもあり、クルマや人の通行もほとんどなく、人目が気にならなくなってきた。

なにしろお湯が新鮮ですごく気持ちがいいのだ。
湯は、土手の岩の隙間から湧き出していて、川の水を混ぜているわけではない。自然に湧出する湯をコンクリートでせき止め、大きな湯だまりを作ったというのが正しいだろうか。

しばらく入浴していると、かたわらの小さな湯だまりで、おじいさんが食器を洗いはじめた。入浴している人がいるのが当たり前といった風情で、なんのてらいもない。

湯から上がって写真を撮っているとき、お向かいの住人と自治会長に話をうかがうことができた。

この温泉は60世帯ほどの志津地区自治会で管理しており、交代で週に2回の清掃を行なっているという。
びっくりしたのは、この地域の家には風呂がないというのだ。
最近風呂をつくった家が2、3軒あるのだが、介護などで外に入りに行けなくなったため。
住民みんながこの露天風呂に入るというわけではなく、川沿いには満願寺温泉館と、もうひとつ50mほど上流に上の湯という内湯がある。
特別に両方の建物の中に入れてもらって見学した。
温泉館は3、4人が入ればいっぱいになりそうなやや小さな浴槽。
上の湯は天井が高く、10人ほどが入れそうな広さだ。
どちらも単純温泉なのだが、上の湯はにきびやあせもに効くという。
源泉がつねに湧いていて、浴槽の端から豊富な湯がかけ流されていた。

こんな温泉は、いままで聞いたことがなかった。
観光用ではなく、あくまでも住民用として生活に密着している。
だからこそ、宣伝は積極的に行なってこなかったのだろう。

温泉館で入場料と寸志を払えば、外部の人でももちろん入浴させてもらえる。
しかし、最近は露天風呂脇にある食器などの洗い場を寝湯にする観光客もいて困っているという。

こういうマナー違反が増えれば、その反動として入浴が禁じられてしまうこともあり得る。
満願寺温泉がいつまでもこのままあり続けられますよう、温泉ファンの心遣いを切に願うばかりだ。

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温泉の近くには駐車スペースがないので、満願寺駐車場を利用。そこから1分ほど歩けば満願寺。志津川は春には桜並木となり、4月の温泉祭りには自治会による屋台も出る。
< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。ブログ「デュアルライフプレス」
http://blog.duallifepress.com/
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