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「山ガール」という言葉が流行り出して、もうずいぶん時間が経つ。女性に限らず、山をめざす人が増えた。彼らの多くは「山小屋」に宿泊して山頂をめざしたり、トレッキングを楽しむ。さて、旅館ともホテルとも異なる山小屋とはどんな宿泊施設なのだろう。


側面にソーラーパネル、屋根に風力発電を設けた夏沢鉱泉。トイレは100円で利用が可能、水洗で洋式も完備


オーレン小屋の談話室。消灯時間まで山の会話が弾む


渓流沿いの山小屋には飲料用にもなる山清水がある場合が多い

海の日の3連休、八ヶ岳でトレッキングと温泉を楽しんだ。

八ヶ岳の西側、桜平の駐車場にクルマを停め、夏沢鉱泉、オーレン小屋、夏沢峠にある山彦荘を経て、八ヶ岳の東側にある本沢温泉まで行った。

桜平の駐車場は満車で、いかに山ブームが本物かを実感することから始まったトレッキングだったが、夏沢鉱泉やオーレン小屋などがいわゆる「山小屋」である。

桜平から歩き始めると、夏沢鉱泉までは30分の道程。関係車両が通れる上り坂が続く。

この日のために自宅周辺を走って身体を鍛えてはいたが、久しぶりに歩く“永遠と続く”かに思える登り坂は心身にきつい。

2日間の行程にもっと急坂はあるのだが、やがて身体が坂道歩きに慣れてくるためか、以降はあまり苦にならなかったのだが、最初の区間がいちばんつらく感じた。

辿り着いた夏沢鉱泉は宿泊、温泉施設がある山小屋だ。ぼくらはここで10分だけの休憩。「生ビール」や「ぜんざい」のメニューに、帰路に立ち寄ったときは、トレッキングの仕上げにいただこうと決意する。

ところで、山小屋は大別すると、クルマで来られるところと、そうでないところがある。

夏沢鉱泉はクルマで来られる山小屋だ。しかし、その先のオーレン小屋や山彦荘は歩いてしか行けない。

これは食料品や飲料をクルマで運べるか、人力でしか運べないかの差になる。山小屋が開く前に、レトルト食品やプロパンガス、飲料などの主だったものはヘリコプターで一気にあげる場合もあるが、それにしても野菜類などは人力でしかあげられない。

当然、夕食や朝食の内容、飲料の料金にもこれらは反映されるのだ。


標高2150mの本沢温泉露天風呂。湯船の底から湯が湧く100%源泉かけ流し、奇跡の「ぶくぶく自噴泉」だ。


山小屋にあるものといえば、スタンプ!

30年も前に世界遺産に登録された富士山に登ったことがある。

富士宮の浅間大社から歩き始めて五合目を通過、8合目の山小屋に宿泊して翌早朝に登頂。山頂を半周してから御殿場駅まで歩くという“完全登山”を決行したのだ。

そのころの山小屋はトイレも粗末だったし、夕食のメニューは白米と具のないみそ汁、あとは漬物だったと記憶している。

人力でしか食材を運べない8合目の山小屋では、それでもご馳走なのだ。

しかし、近年の山ブームで女性も大勢やって来るようになり、山小屋は著しい進歩をとげている。

夏沢鉱泉(標高2060m)はソーラーパネルを設置して電気を供給しているし、夏沢鉱泉を含めた系列の硫黄岳山荘(2650m)、根石岳山荘(2550m)は、高所にあるのにトイレを水洗化し、清潔で快適に保っている。

山頂付近の山小屋には風呂がない場合が多いが、根石岳山荘は宿泊者限定の絶景展望風呂を設けているほどだ。

八ヶ岳のように山小屋がたくさんあると、山小屋を経由地にしてルートが決められるのがいい。

ぼくたちも桜平から歩き始め、夏沢鉱泉を経由し、オーレン小屋でランチと決めていた。

沢沿いの山小屋には必ず飲料可能な清水がある。これが歩いて来た身体を潤し、ランチの際にもとても助かるのだ。

オーレン小屋では渓流で冷やしたビールなどの飲料(もちろん、スーパーマーケットの2倍ほどの値段だが、人力で運ぶ分が加算されるのは仕方がない)も売っており、清流の水、飲料と一緒にお弁当を広げた。


早朝4時30分の本沢温泉。身仕度を始める時間だ


本沢温泉の朝食はいっせいに始まる。玉子、ソーセージなどと素朴だが温かいみそ汁がうれしい


めざす山に向けて6時前後に出発! 子ども連れ、女性グループも多かった

オーレン小屋からも登り坂が続き、夏沢峠に着く。八ヶ岳西側と東側の分岐点で、ここで大きく景色が変わる。

眼下には清里、小海の緑がカーペットのように広がるのだ。

峠には山彦荘があり、ヤマネとモモンガが顔を出す。

山彦荘から本沢温泉まで下る。ぼくらのトレッキングルートのなかでいちばんの急坂だ。1日目に下るということは、桜平に帰るために翌朝は登らなければならない(汗)。それもまたトレッキングの楽しさだろう。

さて、辿り着いた本沢温泉は、けっして温泉旅館ではない。歩かないと着かない山小屋である。しかし、ここの湯がいい。内湯も加温加水循環なしの源泉100%かけ流し。

そして、標高2150mの日本最高地点にある野天風呂は、究極の湯「ぶくぶく自噴泉」。湯底の砂の合間から湯が湧いているのだ。

ぼくらは究極のぶくぶく自噴泉を楽しみ、その後は5時から夕食になった。そう、山小屋の夕食は早いのだ。

そして、8時には消灯になる。そう、山小屋の就寝時間は早いのだ。あくまでも早朝から山に登る人のリズムに時間を合わせている。

部屋の電気は一斉に消える。そういうシステムなのである。

部屋の片隅に置いてあるふとんを自分たちで敷く。

翌朝、部屋の電気は4時過ぎに灯った。これも全部屋一斉。洗面や温泉に浸かって眠気を覚まし、午前5時30分から朝食。
その後、人々はそれぞれがめざす山に向かって山小屋を発つ。 家族連れもいれば、ご夫婦、女性だけのグループも。本沢温泉は午後8時がチェックアウトタイムになっている。



これから秋にかけて、山がもっとも美しくなる。この時期に山小屋へ泊まり、体力に合わせたトレッキングを楽しもう。


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●八ヶ岳トレッキングルート
http://www.yatsugatakes.com/index.html

●山がわかる『週刊ヤマケイ』
http://www.yamakei.co.jp/weekly_yamakei/index.html

< PROFILE >
木場 新
休日評論家。主な出版物に『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」を連載
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