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“オアシス”とはもともと砂漠中で水が湧き、樹木が茂っている沃地をいいます。しかし、今では“都会のオアシス”などと、大都会の中でも癒される場所を指すようになりました。等々力溪谷はまさにそんな場所。緑に囲まれ、空気が爽やかなスポットです。
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東急大井町線の等々力駅周辺にはあまり駐車場がありません。そこで、自由が丘駅や二子玉川駅周辺にクルマを停めて電車で等々力駅へ。
私が訪れた日は7月の終わりのとても暑い日でした。
小さな等々力駅のすぐ前にあるジェラートのお店に惹かれます。
中華料理店や不動産店、マーケットが並ぶ通りには強烈な日差しが注がれていました。
等々力溪谷までのガイド表示もしっかりしていて、迷うことはありません。
昭和初期(昭和14年にゴルフ場は閉鎖)にあったゴルフ場に行く人たちのために架けられたことから命名された「ゴルフ橋」の横に、川沿いまで降りる階段が設置されています。
そう、ここがパワースポットとしても知られる等々力溪谷です。
住宅街を切れ込んで流れる矢沢川が形成する東京23区内唯一の溪谷で、周囲には豊かな緑が残されています。
神社、古墳、滝、水などがある場所がパワースポットとしてのひとつの条件になっていて、この連載でもそれぞれを取り上げてきましたが、等々力溪谷にはそのすべてが揃っています。
ゴルフ橋から川沿いまで階段を下りると、そこには先ほどまでの強い日差しはありませんでした。木々の葉が太陽を遮り、川で自然に冷却された爽やかな空気が身を包み、とても心地良いのです。
ゴルフ橋から等々力不動尊までの約1㎞は、ベンチなども設置された遊歩道になっています。カップルやご夫婦、家族連れが爽やかな空気の中を楽しそうに歩いています。
ベンチでお弁当を広げている方もいて、まさに都会のオアシスという言葉がぴったりの空間でした。
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大きな木と川の音に囲まれた遊歩道は、ときには狭く、ときには悠々と歩けます。
矢沢川は人の手によって石垣などで整備されており、流れも遅く、自然のままの渓流ではありませんが、それでもアメンボがすいすいといく光景に心が和みます。
やがて頭上に大きな橋が。都内の動脈のひとつである環状8号線です。
そして、環状8号線の橋の横、渓谷の上に見えるお店に向かって急な階段を登って行く人が。評判のピザ店で、「ああ、やはり都会なんだ」と気づかされました。
逆にいえば等々力溪谷の遊歩道は、それだけ都会を忘れさせてくれる鳥の声と緑に包まれた別世界なのです。
環状8号線を過ぎると間もなく「等々力溪谷横穴古墳」の表示がありました。
矢沢川に架かる小さな橋を渡って斜面をあがると、奈良時代(7世紀後半~8世紀)のものと推定される横穴式の古墳が保存されています。
ガラス越しに中が覗けるのですが、正直なところ様子はわかりませんでした。
周辺では6基以上の古墳が見つかっており、人骨やガラス玉、金属製の耳環も発見されています。
さらに川沿いを進めば「稚児大師堂」、その先には「稲荷堂」と「不動の滝」があります。
不動の滝は数千年ものあいだ、乾くことなく流れ落ちているのだそうですが、とても細い滝で、ときには修行僧の滝行の場にもなっています。
しかし、溪谷に滝の音が轟くことから、「とどろき」と命名されたというのですから、かつて周囲が雑木林だったころは、湧き出す清水の量も大きく異なったのでしょう。
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不動の滝から急坂を上ると等々力不動尊があります。
紀州に根來寺を開いた興教大師が、不動明王から「関東に霊地がある」と夢で告げられてやって来て、「夢と同じ」と、ここに不動尊を安置したのが等々力不動尊の始まりです。
境内は五千坪あり、春は桜、秋は紅葉の名所となっています。
急坂を上ったために、不動尊に着くころには汗が出始めましたが、不動尊もまた巨大な樹木に囲まれており、さらに谷を見下ろす休憩所がなんとも心地良い。
関東三十六不動霊場のひとつの等々力不動尊は、真言宗の開祖、弘法大師にあやかって、学業成就、芸事上達のご利益がとくに期待できます。
まずはお参りをしてパワーを授かりましょう。
次は遊歩道を散策してきた身体を潤す番。
うれしいのは境内にある「雪月花」です。等々力溪谷沿いには売店、カフェなどがありませんが、約1㎞歩いてたどり着いた等々力不動尊境内にある小さな売店では、お抹茶(お菓子付)、おしるこ、ところてん、夏にはかき氷やラムネなどを販売しています。
お抹茶をいただけば、心身ともにパワーを分けてもらった気分になるから不思議です。
まだまだ暑い日が続きます。エアコンに頼るのではなく、自然の涼しさを感じに等々力溪谷に出かけてみませんか。
そして、秋の紅葉の時期も見頃。
都会のオアシスという言葉がぴったりの溪谷は、新鮮な空気に包まれています。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。