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八甲田山麓にある酸ヶ湯温泉は、日本で最初に国民保養温泉地に指定された、温泉リゾートの草分けともいえる存在だ。現在でも総ヒバ造りの木造の湯船で、混浴のスタイルをかたくなに守り続けている。なかでも「熱の湯」の浴槽は湯底から源泉が直接湧き出る「ぶくぶく自噴泉」で、非常に珍しい新鮮で稀有な温泉だ。

酸ヶ湯温泉
所在地:青森県青森市荒川南荒川山国有林酸湯沢50番地
TEL:017-738-6400
日帰り入浴料金:大人600円/小学生300円
日帰り入浴:7:00~17:30
[熱湯]
●泉質:酸性・含二酸化炭素・鉄・硫黄-アルミニウム-硫酸塩・塩化物泉(硫化水素型) 
●湧出量:110?/分 ●源泉温度:48.1度 ●pH:1.85 ●湯底:板敷(スノコ)
[四分六分の湯]
●泉質:酸性・含鉄・硫黄-アルミニウム・カルシウム-硫酸塩・塩化物泉 ●源泉温度:49.6度 ●pH:2.02


圧巻の「ヒバ千人風呂」。木造湯小屋にもかかわらず160畳ほどの大きさがある


「熱の湯」は足下から湯が湧く「ぶくぶく自噴泉」で、ときおり気泡が湧き立つ


「玉の湯」はもうひとつの内湯。シャワーも完備され浴槽も十分な広さがある

かの地での春スキーに憧れを抱きつつも、まだ一度も足を踏み入れたことのない場所。それが八甲田山だった。

青森へのドライブは、東京から気軽に行ける距離ではない。
武蔵野の私の自宅からは、距離にして700㎞以上ある。

東京-大阪間が約500㎞だから、東京-倉敷ぐらいの距離感だろうか。
北東北へのクルマ旅は、なかなか走りごたえがあるのだ。

この春、温泉の取材で、初めて八甲田山方面へ向かうことができた。残念ながらスキーを楽しむ時間はなかったのだが、八甲田山から十和田湖にかけて、ワインディングロードを快走するのはじつに爽快な気分だった。

目的地の酸ヶ湯温泉は、八甲田山の西部にある。
八甲田山というのは一番高い八甲田大岳(1584m)を主峰に、複数の峰々から成る複数火山の総称だ。
かつて新田次郎の『八甲田山死の彷徨』が映画化され、私にはその印象が強い。
日露戦争直前の明治35年に、ロシアとの戦争に備えた雪中行軍の演習中に、210名中199名が死亡した「八甲田雪中行軍遭難事件」を題材にした山岳小説だ。

実際に取材に入ったのは5月の後半。にもかかわらず、道路脇の木々の根元は残雪で覆われており、いっせいに芽吹き始めたブナやシラカバの新緑が勢いを増しつつあった。

酸ヶ湯温泉の発見は、徳川綱吉の時代の貞享元年(1684)と伝えられている。
津軽藩の記述によると、元禄15年(1702)に木造の湯小屋が建てられ、冬場には撤収されるという夏場の温泉利用がされていたことがわかる。
掘れば湯が出るために、何人もの湯主が現れ、湯の権利を巡って競い合っていたという。
こうした地元の民を束ね、権利をひとつにまとめ上げたのが郡場直世(1848-?)だ。郡場は明治27年(1894)に近代的な最初の建物を建立し、明治35年(1902)に「酸ヶ湯温泉組合」を発足させて、権利の一元化による利益の安定的な分配を図った。
昭和29年(1954)には、四万温泉、日光湯元温泉とともに、国民保養温泉地第一号に指定されている。
湯の効能と豊富な湧出量、十分な収容施設、清純な環境、交通の便のよさ、低廉な料金といった要素を満たしているからこそ、全国温泉のモデルケースとして酸ヶ湯が選ばれたわけだ。

酸ヶ湯の名物は、なんといっても混浴スタイルの「ヒバ千人風呂」だ。
総ヒバ(ヒノキアスナロ)造りの木造の大浴場で、複数の大きな浴槽がどんと存在している。
建物の中央に柱がないのは、屋根が内側から吊り天井になっているからだ。湯の酸性度が強くふつうの釘では溶けてしまうので、チタン素材を使用しているという。

浴槽は5つあり、なかでも脱衣所からの扉を開けた正面にある「熱の湯(ねつのゆ)」がいい。
これは、湯底の下から源泉が湧き出る、全国でも非常に珍しい「ぶくぶく自噴泉」なのだ。ぶくぶく自噴泉というのは造語で、源泉から引湯せずに、浴槽そのものが源泉の湯壺になっている温泉を指している。

湯底はすのこ状の板敷で、ところどころに2㎝幅ほどの隙間が空いており、湯はその隙間から気泡とともにぽこぽことあふれ出してくる。すのこの下は15㎝ほどの空洞で、地面は泥沼のようになっていると、湯守が教えてくれた。
この「熱の湯」だけで、湧出量はなんと毎分110?。源泉温度が48.1度なので、湯が溜まるうちに自然に温度が冷え、浴槽が満杯になるころにはちょうど適温になるという、新鮮で贅沢な湯なのだ。

泉質は酸性が強く、pHは1.85。なめるとかなりすっぱい。
薄い緑色で、かすかに白濁している。
玉子臭といわれる硫化水素の臭いはするものの、単純な硫黄泉の臭いではない。香ばしいというか、独特な泉質だ。

160畳ほどの大きさがある「ヒバ千人風呂」には、「熱の湯」の奥に「四分六分の湯」というもうひとつの大きな浴槽がある。
源泉が別なので、泉質は微妙に異なる。湯治の場合は症状に応じて温泉内にある診療所の医師から入浴法が指示され、たとえば冷え症なら次のような入浴の手順を踏むことになる。
まず「熱の湯」に5分ほど入り、次に「四分六分の湯」に5分。
かぶり湯の「冷の湯」を頭からかぶり、打たせ湯の「湯滝」で3分。
最後に再び「熱の湯」に3分ほど入って上がる。
こういった具合だ。

効能を持続させるために石けんは使用不可。そもそも酸性なので、石けんは泡立たないのだが。
もうひとつの内湯「玉の湯」には、シャワーがあり、シャンプーや石けんを使用することができる。

周囲の豊かな自然環境と素晴らしい泉質の温泉は長湯治をするのにぴったり。こういう温泉地がまだ遺されていることを体感するだけでも、温泉めぐりをする価値はあるというものだ。


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奥入瀬渓流の石ヶ戸休憩所付近。渓流沿いを散策したくなるほど爽やかな環境だ

最寄りのICは東北自動車道・青森中央ICで、所要時間は40分程度。だが東北自動車道の十和田ICを起点に鹿角市から十和田湖畔をめぐり、奥入瀬渓流を遡行するというドライブルートも気持ちがいい。渋滞や休憩を勘案しなければ、十和田ICから十和田湖の発荷峠展望台までは約45分。そこから奥入瀬渓流を抜けて酸ヶ湯温泉までは約70分。冬季は八甲田山南麓が通行止めになるためにこのルートはおすすめできないが、グリーンシーズンから紅葉シーズンにかけては絶好の見頃となる。

< PROFILE >
長津佳祐
観光やレジャー、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。このたび山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/
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