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  3. 民芸家具が醸し出す和みの空間と童心をくすぐる大人の宿 長野県・美ヶ原温泉
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安曇野散策や国宝松本城をめぐる信州の旅で訪れたい松本市郊外の山辺の湯。天武天皇が行宮造営を命じた記述が『日本書紀』にも記載されるほど歴史が古く、木造三階建ての和モダンな宿が旅人を迎えてくれる。


国宝松本城。年末年始を除き無休。開城時間は基本的に8:30~17:00まで

美ヶ原温泉 旅館すぎもと
所在地:長野県松本市大字里山辺451-7
TEL:0263-32-3379
●泉質:弱アルカリ性単純泉
●源泉温度:42.8度
●湧出量:29.3?/分
●pH:8.6
●日帰り入浴不可
「貸切露天寝湯さざれの湯」
50分/1500円(一組)
「貸切露天ジャクジースパ ジェットストリーム夜間飛行」
40分/3000円(一組・バスローブ2枚付)
20分/1000円(一組)


遊び心をくすぐる和モダンの美食の宿


石庭でのひと休みが至福の時間を演出


すぎもと流馬刺しのたたきは辛味噌とみょうが、わさびとウニを巻いて食べる


満天の星とツリーハウスを眺めながら入るジャクジー

この夏、松本城を訪れる機会があり、初めて天守に登ってみた。
安土桃山時代末期から江戸時代初期にかけて築造され、天守は国宝に指定されている。
入館料の600円を払えば、靴を脱いで最上階まで上がれる気軽さに驚かされた。

外観からは五重に見えるが、内部は木造六階建てになっており、狭く急峻な階段がらせんのように配置されている。
階段を中央で仕切って、上り下りそれぞれ一列になって順に進んでいく。そのため、ゴールデンウィークやお盆などの繁忙期には激しい行列ができる。
なにしろ階段の最大斜度は61度。下る際には後ろ向きになりたくなるほど急なのだから、滞るのは当たり前だ。

それでも実際に見ると聞くとでは大違い。
銃砲を突き出す隙間から外を眺めたり、最上階で風に涼みながら城下を見下ろすと、戦国武将は平面ではなく立体的なバーズアイの視点で治世を考えていたことがわかる。
連戦の強者ならば、高地に立つだけで地の利や弱点を見通すことができただろう。

明治維新で文明開化の嵐が吹き荒れた際、天守が競売にかけられ、松本城も存亡の危機にあったというのは噴飯ものだ。明治維新とはどんなムーブメントであったのか。その一事をとっても、私たちが学んできた「歴史」というものについて、改めて見直す必要があると思う。
幸い、地元の有力者によって買戻しの運動が起き、天守は保存されることになる。
天守の回廊を登っていく際に、鎧や銃創、刀剣など、さまざまな武具が陳列されており、充実した展示物を見るだけでも、その価値は十分にあると感じた。

さて、その松本城からクルマでわずか10分ほどで、今回取り上げる美ヶ原温泉に到着する。美ヶ原といっても、王ヶ鼻の美ヶ原高原ではない。

ここは歴代の松本城主が庇護してきた温泉。
「束間の湯」「白糸の湯」「御殿の湯」「山辺の湯」といった名称で親しまれ、美ヶ原温泉という名称になったのは昭和30年代になってからだ。

近くに薬師如来堂があり、そこにこの温泉の縁起が記してある。

創立は約1300年ほど前。源重之が束間の府に在任していた折に眼病を患い、当「温湯」で浴療した。霊夢をみた重之はささやかな庵をつくり、薬師如来一体十二童と厨子を安置する。
重之は生年不詳で長保2年(1000)頃に没した平安時代中期の歌人だ。相模権守や日向守など地方の微官に任ぜられている。
だが、重之の発見とするには年代が合わない。

『日本書紀』には、天武14年(685)、壬申の乱を制した天武天皇の詔により、「束間温湯」に行宮造営を命じたとある。

「束間」とは国府のあった松本市を中心とした周辺の筑摩郡(塩尻市、木曽郡、安曇野市など)を指す。万葉仮名では「豆加萬(つかま)」。奈良時代に束間と呼ばれ、明治になって筑摩(ちくま)と改称された。

天皇が崩御したために行幸は実現しなかったが、この束間温湯こそが美ヶ原温泉や浅間温泉(松本市)であると考えられ、1300年前という表記はこれに依ったものだ。

住宅地に点在するように約20軒ほどの温泉宿が散らばっており、山辺に寄り添うように立ち並ぶ木造の数軒が、温泉街の風情を醸し出している。

旅館すぎもとは、かつて『温泉遺産』で「温泉施設の建造物」の項で取り上げた、木造三階建ての宿だ。

創業は昭和8年。
昭和38年に土台から改築したために、創業当時の建物は現存していない。
だが、館内に配置された松本民芸家具が存在感を放ち、和みの空間を演出している。

玄関ロビーではジャズが流れ、マッキントッシュの真空管アンプとシャンデリア、アンティークチェアという組み合わせが不思議な調和を見せる。

ロビーから、中庭を取り囲む回廊を通って客室へ向かう。

「七福の庭」と命名された、この石庭が気持ちいい。
風を感じる庭に面して足湯とデッキチェアが配置されており、湯上りにはここでビールやスパークリングワインを楽しむことができるのだ。

滞在期間中、風呂上りには決まってここに腰を下ろし、しばし憩いの時間を過ごした。
見過ごしてしまいそうだが、石庭の端にある鏡面の壁に囲まれたなかに「束間の温湯」の源泉のひとつがある。

源泉は無色透明な弱アルカリ性単純泉。
源泉温度が約42度と低めなので、内湯、露天風呂とも源泉を循環、加温せざるを得ないのは致し方ないところだ。

内湯は木曽の五木を利用した木造の浴舎で、打たせ湯のように湯が注ぎ込まれている。
女性大浴場にはミストサウナを設置したり、新露天寝湯の「さざれの湯」は寝ころびながら入浴できるなど、ひねりを効かせた趣向が楽しい。

この宿にはもうひとつ、満天の星を望みながら入れるジャクジー「ジェットストリーム夜間飛行」がある。
このジャクジーの正面に、ぽっかりと空中に浮かぶ、宮崎アニメにでも出てきそうな小さな建物が見える。
じつは、これはツリーハウス。
実際に中に入ることもでき、夕食のあと、食後のコーヒーをツリーハウスの中で飲むことができた。
ご主人の飲み仲間による会合が夜な夜な開かれることもあるらしく、大人の隠れ家のような雰囲気を体験するのも楽しい思い出になるだろう。

源泉かけ流しにこだわるむきにおすすめしたいのが、やや小ぶりな「貸切檜風呂」。空いていれば先着順でいつでも無料で入ることができる。
あらかたいろいろな風呂を巡った後に、たどりついたのはやはりこの湯船。

新鮮なお湯の、なんと気持ちのいいことか。
旅情と遊び心をくすぐられる温泉めぐりの締めは、この小さな檜風呂こそがふさわしいとひとりごちた。


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長野自動車道路・松本ICからクルマで約20分。国道158号野麦街道を東へ。国道143号に合流し左折。城東2丁目交差点を右折して県道67号に入る。惣社交差点で斜め左に折れて県道284号へ。そのまま284号を進み、川を渡って小路に入ると温泉宿の集落へと続く。駐車場は宿の先にあるので、玄関で指示を仰げば教えてくれる。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/
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