寒い季節は受験生にとって追い込み時、机に向かう時間も長くなります。そんな受験生たちの心の支えになっているのが「天神様」でしょう。俗に全国に1万社(実際は4000社弱という説もあります)、江東区の亀戸天神社も訪れる人が絶えません。
もともと「天神」とは雷の神様ですが、菅原道真が祀られる全国の神社は「天満宮」「天神社」などと呼ばれ、今日では菅原道真=天神様という構図で知られています。
菅原道真は845年に生まれ、903年に亡くなりますが、平安時代の学者、漢詩人、政治家として活躍しました。
ただし、晩年は恵まれたものではありませんでした。
藤原時平の陰謀によって大臣の地位を追われると、現福岡県の大宰府に左遷されています。
大宰府でも安住とはいかなかったようで、大分県にある「川底温泉」は、道真が刺客から逃れた際に発見した温泉だと伝わっています。
結局、失意のうちに没するのですが、その後にさまざまな不幸が起きました。
厄病が流行り、日照りによる飢饉が起き、天皇の皇子が相次いで病死します。さらに、天皇の御殿でもある清涼殿に落雷があり、多くの死傷者が出たのです。
これら一連の出来事を「道真の怨念」と時の要人たちは受け止めました。とくに清涼殿の落雷事故はその最たるものでした。その結果、雷神と道真が結びつけられたのです。
朝廷は北野天満宮を建立して道真の霊を慰めたばかりか、大宰府の埋葬地にも安楽寺天満宮(後の大宰府天満宮)を建てて菅原道真を弔いました。
ちなみに、その地は菅原道真の棺を運んだ牛が伏して動かなくなった場所です。
天満宮ができた当初は、「道真公の怒り」を鎮めるのが参拝目的だったのでしょうが、幼少のころから「頭のよさ」で知られた菅原道真は、いつしか学問の神様となり、いまでは多くの受験生たちがご利益を得るために訪れるようになりました。
大宰府天満宮に対して「東の天神様」として知られるのが東京・江東区亀戸にある亀戸天神社です。
最初は「東宰府天満宮」あるいは「亀戸宰府天満宮」と呼ばれていました。その後、明治時代になって「亀戸神社」となり、さらに昭和11年に「亀戸天神社」となって今日に至っています。
さて、東京スカイツリーも望める亀戸天神社は散策にも楽しいところです。
2月の「梅まつり」、4月下旬から5月上旬の「藤まつり」、10月下旬から11月下旬の「菊まつり」と、四季折々の花が下町の一角にある小さな天神様を彩ります。
また、庭園には太鼓橋(男橋と女橋)、灯籠、松尾芭蕉句碑などがあります。
「神牛(しんぎゅう)」は、前述した埋葬地となる場所で伏して動かなくなった牛がモデルです。参拝者が親しく触れることで病を治し、 知恵を授かると伝わるために、その像は人々の手によってピカピカと輝いています。
「五歳菅公像(ございかんこうぞう)」は、五歳の時の菅原道真公です。その台座には5歳の時に紅梅を詠んだ和歌が刻まれています。
子どもらしい素直な感情が表に出た和歌ですが、これを5歳で詠むのですから、菅原道真が学問の神様となったのもうなずけます。
庭園散歩が楽しめる亀戸天神社。境内には子ども連れや学生同士の参拝者が目立ちました。
下町の天神様に手を合わせ、中学受験、高校受験、大学受験の成功を祈っているのでしょう。その姿は“神だのみ”というよりも、天神様に“決意”を表明しているように見えました。
お参りの後に周囲を歩くのも亀戸天神社参りの楽しみです。
亀戸駅から天神社に続く道は、昭和の雰囲気も残っています。
昔ながらの1枚ずつ焼き上げる素朴な味が人気なのは「天神煎餅大木屋」です。
お腹が減った参拝者が立ち寄るのが「純手打そば越前」で、こちらはそば粉農家と契約栽培した最高の石臼そば粉を使用し、毎朝・夕に手打ちしています。
門構えから風情があるのは「船橋屋」。江戸時代の1805年に亀戸天神参道で創業。江戸時代から参拝者に愛されているくず餅の老舗で、おみやげにするもよし、店内でいただくのもよし。
たっぷりのきな粉と秘伝の黒蜜をかけたくず餅は、200年前から変わらない味です。
そして、もうひとつの亀戸名物といえば「亀戸ぎょうざ」でしょう。
いつも並んでいる人がいるほどの名物店で、メニューは餃子のみ。1皿5個入りで250円、おひとり2皿から。メニューは餃子だけでも、ビールや中国酒がけっこう多く、パリパリ餃子はアルコールとともに進みます。
ひとりで4、5皿は当たり前で、10皿という人も。
そして、お店のセンターでは大将がひたすら真摯に餃子を焼く、焼く、焼く…。もう、感動的すらあります。
ただし、売り切れ閉店ですから、早めに行ったほうがいいかも。
亀戸も再開発で便利でおしゃれなショッピングモールもできましたが、なんとなくレトロな商店街をぶらつくのもいいものです。このほかにも気になるお店を何軒か見つけました。
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学問の神様をお参りして、その後は下町・亀戸をお散歩。受験生や受験生をお子さんにもつ方でなくても、心とお腹が楽しいおでかけになるでしょう。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。