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開湯が800年前との伝承がある大湯温泉は、地理的にも非常に興味深い場所にある。約4000年ほど前の縄文時代後期の遺構、大湯環状列石が近いのだ。もしかすると古代人も、温泉にひたっていたのだろうか。


大湯環状列石。同心円状に石が配列され、周囲には竪穴式住居が再現されている


環状列石の周囲からは土器も出土

大湯温泉 荒瀬共同浴場
所在地:秋田県鹿角市十和田大湯字荒瀬25番1
TEL:0186-37-3055
●泉質:ナトリウム‐塩化物泉(食塩泉)
●源泉温度:53.8度
●湧出量:測定不可
●pH:7.8
●日帰り入浴:6:00~21:00
●日帰り料金:180円(税込)

大湯温泉観光協会
http://www.ink.or.jp/~o-yu/


大湯新橋から川を見下ろすと、右手に青い屋根の荒瀬共同浴場がある


地熱によりタイルごと温まっている。お湯は湯底からどんどん湧き出ている


約1分おきぐらいの間隔で大きく湧き上がる

イギリス南部のソールズベリーから北西に13㎞。
そこに巨石がサークル上に並んだ遺跡がある。
1986年に世界遺産に認定されたストーンヘンジだ。直立する巨石は紀元前2500年から紀元前2000年の間に立てられたと推定され、それらを囲む土塁と堀は紀元前3100年頃までさかのぼると考えられている。アングロサクソン人がブリテン島に移住した時には、すでに存在していたわけだ。

じつは日本にも、それに匹敵するストーンサークルがある。
秋田県鹿角市。大湯環状列石。
米代川支流の大湯川左岸に、縄文時代後期前半につくられた遺跡がある。
環状列石は万座と野中堂にあるふたつ。直径はそれぞれ約45mほどある。その中心を結んだ線が夏至の日没方向と一致している。
万座の環状列石の周りには150基、野中堂には50基の配石遺構がある。
年代はストーンヘンジ創建以前と思われる紀元前4000年前。
ほぼ同じような時期に、まったく異なる場所で似た遺跡が建造されていたというのだから非常に興味深い。

これらがなんのためにそれがつくられていたのかは推測するしかないが、大湯環状列石の周囲には、竪穴住居跡や掘立柱建物跡、柱列などの遺構も見つかっていて、一部は復元整備されている。土偶などの出土品や、数字を意識した土版なども見つかっている。
再現されたものには日時計状組石もあり、太陽の運行について、なんらかの知識を持っていたことは間違いないと考えられている。

さらに、環状列石から東側には麓から頂上までの形がきれいな四角錐をなす黒又山(クロマンタ)がそびえている。
地元では古代ピラミッドと呼ばれており、地中レーダー探索では階段状に成形された跡が確認されているというから、これいかに!?
地元の研究チームが地道に調査を続けているようだが、いまだその謎は解明されていない。

さて、今回訪ねた温泉は、この大湯環状列石からわずか3.3㎞しか離れていない場所にある。
大湯温泉は大湯川沿いにあり、6軒の温泉宿が点在する小ぢんまりとした温泉街だ。
十和田湖を観光する際に、南から国道103号を北上して観光するルートの玄関口にあたる。

ここは、盛岡と鹿角を結ぶ旧来満街道沿いにあり、宿場町として発展してきた。来満峠(らいまんとうげ)は難所で、冬になると往来が途絶えがちになったほど。
江戸時代には下の湯が盛岡藩の保養地として指定され、この一帯には鉱山が点在していて、働く人々の保養地として栄えた。

伝承では800年前の開湯と伝えられているが、明治19年に内務省衛生局が編纂した『日本鉱泉誌』に、大湯温泉の下の湯、上の湯、河原の湯の記述がある。
最も湯量が豊富な下の湯が発見されたのは、室町時代の文明年間(1469~1486)。浴場をつくったのは江戸時代の延宝年間(1673~1681)とある。
上の湯は同時期の発見だが、源泉に入浴するようになったのは江戸時代の万治年間(1658~1660)になってからのこと。
河原の湯については年月が特定されていない。

じつはこの3つの温泉名は、現在の大湯温泉にも共同浴場の名前でしっかりと引き継がれている。

唯一、大湯川の最も上流にある共同浴場の荒瀬の湯だけが、その名が記されてない。
昭和57年(1982)に、川沿い湧く湯源を元にして建てられたためだが、じつはこの共同浴場こそが、奇跡の温泉なのだ。

大湯川を渡る大湯新橋の上に立つと、川沿いの右手に青い屋根の建物が見える、
それが荒瀬共同浴場だ。クルマで入っていくには少々わかりにくいが、湯小屋の近くに数台が駐車できるスペースがある。
建物はごくふつうの公衆浴場と変わりはない。
入口の受付で180円を払うと、なんの変哲もない脱衣所があるだけだ。
何が奇跡の温泉かというと、源泉がこの湯船の底から湧き出てくる「ぶくぶく自噴泉」なのだ。

浴室に入ると、足の裏からタイルが地熱で温められているのがわかる。
湯船の底は大きめのタイル。
じっと目を凝らすと、ときおりタイルの隙間から湯が湧き出て、ボコッと水面が盛り上がるのがわかる。
無色透明だが、なめると塩気のほかに旨味すら感じる。食塩泉なのだ。
正直、まいったのはそれからだ。
お湯が熱くて、なかなか入れないのだ。
温度は45度はあるだろうか。地元の人はかけ湯をするだけで、難なく湯船につかることができる。
だが、何度かけ湯しても、この温度にはなかなか慣れることができない。足湯のようにヒザ下まで入れただけで、数秒して引き上げると真っ赤になるほどだ。
水で埋めてもいいよ、と地元の方に声をかけられたが、せっかくの純度100%の温泉を薄めるわけにはいかない。
かけ湯を何度も繰り返し、意を決して湯船につかった。
それでもほんの数秒耐えられればいいほうだろうか。
長野の野沢温泉の共同浴場も、熱めの湯の印象があるが、あの比ではない。
いままで入った温泉のなかで一番熱い湯と言ってもいい。
それでも、この湯は清冽で、じつに新鮮だ。
当日受付をしていた番台の成田さんに話をうかがうと、12月上旬と、7月の温泉祭りの前の2回、タイルのパネルをはずしての大掃除をするそうだ。
タイルの下は約30㎝ほどの空洞になっていて、その下に角材が渡してある。
角材の下には岩盤があり、その岩盤の隙間から湯が湧き出てくるのだという。
そして、ご当地らしいなと思ったは、岩盤の上に、ネットに入れたホタテの貝殻をいくつも沈めること。もちろん貝殻はきれいに洗浄してから入れるのだが、貝殻を入れることでレジオネラ菌対策に効果があるのだという。

雨が降ったり、雪融けになって川の水位が上がると、湯量が多くなって温度も高くなるんですよ。そう、成田さんは教えてくれた。
川の水量によって熱くもなったりする。
温泉が生き物のように思えて、これが自然なのだと妙に感心した。

もしかして、縄文人はこの温泉の存在を知っていたのだろうか。
大湯川沿いに環状列石を配した縄文人は、この地の住み心地のよさにとても満足していたからこそ、あのような遺跡を残すだけの文化をもっていたにちがいない。
そして、川沿いに自然に湧く温泉の存在も知っていて、彼らは豊かな生活を営んでいたのではないだろうか。
大湯温泉には、そう思わせるだけの湯の力があると思った。


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東北自動車道十和田ICから国道103号を十和田湖方面へ9㎞。約15分で温泉街に到着。国道沿いにあるのでわかりやすいが、荒瀬共同浴場へは大湯新橋からまわり込むとわかりやすい。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/
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