アウトドアや旅の仕事をしてきて、さまざまな体験をする機会があった。しかし、未だ足を踏み入れていないのが“釣り”の世界だ。今年こそ、釣りに挑戦してみるか!と思うこのごろなのだ。みなさんもお付き合いしてくださいませんか?
アウトドア雑誌の編集長をしていた時代がある。
毎月のようにキャンプ場に行き、読者と交流し、さまざまなイベントを行っていた。
ダッチオーブン教室、ロープワーク教室、MTB大会などを開催したが、意外に人気があったのが渓流釣り教室や、釣り用のフライ製作教室だった。
どうやらアウトドア愛好家には釣り好きが多いらしい。というより、確実に釣り好きが多い。湖畔のキャンプ場をベースに、ゴムボートを出してブラックバスを狙う人も珍しくない。
もう15年も前に北海道の天塩という、稚内に近いキャンプ場で知り合ったファミリーがいる。彼らと僕は温泉好き、スキー好き、そしてワイン好きと共通点が多く、すぐに友達になった。
あれから何回、共に温泉に行っただろう。スキーに一緒にでかけた経験もある。もう数えられないほど杯を交わしている。
しかし、どうしても相容れないのが“釣り”だった。
温泉からの帰路、まっすぐ自宅をめざすぼくに、「せっかくだから渓流釣りをしてから帰るので、ここで」と告げて、山奥に続く道を行く彼らを何度見送っただろう。
近年では船舶免許を取得し、房総半島の館山にボートを持つまでになった。金曜日の夜に調布の家を出て館山に向かい、ボートがレンタルできる制度を使って土曜、日曜と海釣りを楽しむ。
2日間釣りに興じた後の車内のアイスボックスは、それなりの釣果で重くなっているらしい。
そんな彼らに何度も誘われたが、ぼくはこれまでに一度も釣りの誘いに乗ったことはない。
ぼくは今まで、釣り嫌いだったのだ。
キャンプ場で知り合った読者からは、「編集長は釣りをしないんですか?」と、何度も聞かれた。そのたびに、「そ、そうですねー、あまり、しないんです…」と、言葉を濁した。アウトドア雑誌の編集長なのに、釣りが嫌いなんてカッコ悪いと思ったからだ。
あるときのキャンプ大会は、釣り具の上州屋さんとタイアップしていたから、「編集長、ぜひ渓流釣りをしましょう」などと明るく担当者に誘われて、ついうつむいた覚えもある。
でも、釣りの経験が一度もないというわけではない。小さい頃にやったことがある。そのときの印象が悪いのだ!
1回は東京湾でのハゼ釣りだ。ハゼ釣りの餌はゴカイだった。これがいけない。
小さな頃のぼくはミミズが嫌いだったから、ミミズのお化けみたいなゴカイが気持ち悪くて仕方ない。しかも、千切って適度なサイズにするなんて、とてもできない。さらに、釣り上げたハゼがアジやイワシといった魚とは形態が異なり、とても不気味だ。これには二重にまいった。
もうひとつの体験は、高原や観光地で見かける「観光釣り堀」というやつだ。
祖父が蓼科に山荘をもっており、蓼科には観光釣り堀があった。ニジマスを釣り上げて、釣り上げた分だけ購入するというやつだ。これが入れ食いなのである。針を入れたとたんに釣れちゃう。釣れれば重量に見合ったお金を支払わなければならない。
「釣りすぎちゃダメよ。釣るんなら小さいのにしなさいよ」と母。
こんな釣りがおもしろいはずもない。アタリを待つ釣り独特の緊張感や釣り上げたときの喜びがいっさいないのだから。
こうして、ぼくは釣りを小学校3年以来していない。
こんなぼくが「釣りをしてみようかな」と思っているのである。
最初の理由は、先に書いた友人のボートに乗ってみたいからだ。
もうひとつの理由は、「釣りをしないなんて、もったいないにもほどがある」と、多くの知人に説教されるからだ。
ぼくは東京の下町に住んでいる。このあたりは江戸時代に埋め立てられた地も多く、今でも門前仲町や木場界隈には運河が走っている。
そして、そこには多くの屋形船や釣り船を出航させる施設があるのだ。
なかには釣り人には有名なお店もあるから、そんな環境に住んでいるのになぜ乗らないというわけだ。
友人の話によれば、釣り船に乗り合わせれば知り合いも同然で、船を下りてから釣れた魚を交換して、釣れなかった種類の魚を持ちかえる場合もあるそうだ。
家に帰ってから自分でさばき、お刺身や自己流なめろう、煮魚にする。これもまたやってみたい。
最近、料理に凝っているぼくは自分で釣った魚を、自分で調理して食べてみたいのだ。
そんなわけで、この夏は(寒い冬はやはり二の足を踏む)釣りに挑戦しようと思うのだ。調べたら、海釣りなのに「ルアー釣り」という、さよならゴカイの釣り船もあるし…。
というわけで読者のみなさんも、釣りに挑戦してみませんか? しかも、すぐに釣り上げると怒られる釣りではなくて、釣り上げたら褒められるまっとうな釣りに!!
●江東区にある釣り船
東京湾のルアー専門釣り船 さわ浦丸
http://www.sawaura.co.jp/sawauramaru/
深川吉野屋
http://www.team-yoshinoya.com/
●海釣り施設がわかるWEBサイト
海釣り王
http://www.tsuri-king.com/
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。