鎌倉市にある妙法寺と杉並区にある妙法寺。「苔寺」として知られ、その風情ゆえに人気が高い鎌倉妙法寺と、厄除けにご利益があると参拝客が多い杉並妙法寺。ふたつのお寺の歴史を辿ってみました。
フジテレビ系列で4~6月に放送された『続・最後から二番目の恋』は鎌倉を舞台にしています。
2012年の1~3月に放送された『最後から二番目の恋』と同様に鎌倉・極楽寺の古民家カフェを舞台に、中年の恋(?)を描いて評判になりました。
とくに小泉今日子演じる吉野千明と中井貴一演じる長倉和平のお酒を飲んでの丁々発止は抱腹絶倒、周囲の人たちとの人間関係もおもしろく、久々にホームドラマの楽しさを感じさせてくれるものでした。
ふたりが飲むシーンの多くは、鎌倉に実在するカフェや居酒屋がロケ地でした。そのほか鎌倉の女性市長(柴田理恵)まで登場するのですから、鎌倉市全面協力のもと鎌倉の観光スポットもたくさん出てきました。
ドラマを観ていた人たちが「鎌倉に行ってみたい!」と思うのは当然でしょう。古都・鎌倉の名所を含めて、ドラマに出てきたカフェや居酒屋をめぐるのがプチブームのようです。
実際に、『続・最後から二番目の恋 ロケ地情報』というサイトまで立ち上がっており、カフェなどの所在地もわかります。
居酒屋などの飲食店以外でよく出てくるのが海水浴場として夏に賑わう由比ヶ浜です。
第3話では長倉真平(坂口憲二)がベンチに座っている原田薫子(長谷川京子)に声をかけています。第6話では長倉真平が吉野千明に由比ヶ浜で相談していますし、第10話では吉野千明が健康診断を前にジョギングをしています。
この由比ヶ浜が鎌倉と杉並のふたつの妙法寺に縁があるのをご存じでしょうか。
1261年、由比ヶ浜から流罪のために伊豆伊東に流されたのが日蓮聖人だったのです。
比叡山や高野山で遊学した日蓮聖人が、安房の国より鎌倉に移り住んで草庵を建立したのは1253年だと伝わっています。それ以降、鎌倉での辻説法が始まりました。
その後、日蓮から第5世となる日叡によって本格的に開山されますが、それはほぼ100年後の1357年のことでした。
後醍醐天皇の子・護良親王と藤原保藤の娘・南方の間に生まれた日叡は、日蓮を偲び、父・護良親王の菩提を弔うために堂等伽藍を建てたそうです。
江戸時代になると鎌倉妙法寺は徳川11代将軍徳川家斉、肥後の細川家などの尊宗を集めました。総門、仁王門などが朱色なのは将軍・家斉を迎えるためであり、本堂は文政年間に肥後細川家によって建立されています。
木造の本堂や、かつて熊本城天守閣に祀られていた加藤清正像を安置する大覚殿などが境内にあり、仁王門から釈迦堂跡に続く石段は苔におおわれて(苔石段は苔保護のために脇に新しい石段があります)「苔寺」と呼ばれる妙法寺は、古都めぐりをする人たちの人気を集めています。
鶴岡八幡宮のような“派手さ”はありませんが、古都・鎌倉を象徴する寺院のひとつといえるでしょう。
さて、このように書くと、日蓮聖人以降の妙法寺に関わる人たちは順風満帆な暮らしぶりだったように思えます。しかし、そうではありませんでした。肝心の日蓮聖人が「流刑」に処されているのです。
それは1261年のことでした。
草庵を焼き払われ、それでも布教活動をしていた日蓮聖人は、鎌倉幕府によって伊豆半島伊東への流罪が決まるのです。
日蓮聖人が流罪になるのを聞き付け、由比ヶ浜に駆けつけたのは日朗上人でした。彼は役人に同行を願いでました。
しかし、それは叶わぬことでした。役人に仕打ちされた日朗上人を残し、日蓮聖人は船上の人となって出航していきました。
師は大丈夫なのか…、自らの傷も忘れて由比ヶ浜で師匠の無事を祈る毎日。やがて、奇跡が起こりました。
ある夜、祈り続けていた日朗上人のもとに、“光る木”が流れてきました。日夜、師匠を想ってお題目を唱えていた日朗上人にとって、それはまさに“佛天”への導きの木でした。
日朗上人はそこに日蓮聖人の姿を彫刻したそうです。
3年後、日蓮聖人は無事に鎌倉に戻ってきました。そして、日朗上人とその信仰の篤さをこの目で見て、尊像開眼して魂を込めました。
その像こそが、杉並区にある妙法寺に奉安されている「やくよけ祖師」、通称「おそっさま」と広く親しまれている厄除けの仏様なのです。
環状七号の西側、東京メトロ丸の内線の東高円寺と方南町の間、閑静な住宅地の一角に大きな木の茂る妙法寺があります。
周囲の人がベビーカーを押しながら、あるいは自転車でお参りに来る姿が目につきます。
最初にくぐるのは「仁王門」で、徳川4代将軍家綱公が寄進したと伝わる金剛力士像が安置されています。
手水舎の水は「天明の水」、天明2年(1785年)に掘った井戸は、今でも涸れることなく水をたたえています。
その奥に祖師堂があり、開帳時には「おそっさま」のご尊顔を拝することも可能です。また、天井などの金箔もなかなか迫力があります。
パワースポットとして知られる寺院をめぐるときは、ご利益祈願だけでなく、そこにある建造物の見学も楽しみたいものです。
妙法寺には祖師堂のほかにも日本に西洋建築を持ち込み、鹿鳴館や旧岩崎邸などを設計したイギリス人のコンドル博士が設計した鉄門などがあり、境内は見どころがたくさんあります。
参拝がてらに散策し、その後は参道で名物の揚まんじゅうをいただくのがコースでしょう。
鎌倉と杉並の妙法寺。夏や初秋のひとときを鎌倉の海岸と所縁のあるふたつのお寺で厄除け祈願する。
東京と湘南を結ぶ厄除けドライブはいかがでしょう。
【ドライブひとことアドバイス】
夏期は鎌倉までのルートが混みます。お盆を過ぎて海水浴客が減少してからが狙い目です。駐車場は多くありません。
杉並の妙法寺も周囲は住宅地のためにパーキングが少なめです。しかし、周囲にコインパーキングも点在していますので、カーナビでチェックしてください。
●続・最後から二番目の恋 ロケ地情報
http://loca.ash.jp/info/2014/d201404_nibanmeno.htm
●鎌倉市観光協会
http://www.kamakura-info.jp/
●杉並区 妙法寺
http://www.yakuyoke.or.jp/index.html
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。