温泉の宝庫、大分県には、まだまだ広く知られてない名湯がたくさんあります。壁湯温泉もそのひとつ。川沿いの一軒宿ですが、清冽な湯を自噴する壁湯天然洞窟温泉は一見の価値があります!
所在地:大分県玖珠郡九重町大字町田62-1
TEL:0973-78-8754
●泉質:単純泉(弱アルカリ性低張性温泉)
●源泉温度:39度
●湧出量:測定不可(自然湧出)
●pH:7.9
●日帰り入浴:9:00~21:00(受付20:00)
●日帰り料金:大人300円、子ども150円
別府や由布院など、大分は日本有数の名温泉を擁しているが、今回はあえて、一軒宿の落ち着いた温泉を取り上げてみたい。
福岡から九州自動車道を南下し、九州を横断する大分自動車道への分岐を東へ向かう。
国道387号を20分ほど走ると、宿の駐車場の看板が見えてきた。
壁湯温泉。ここが目的地だ。
クルマを停めて、緩やかな下り坂のスロープを徒歩で下りていく。
すると隠れ里のような木造の小さな門と、民芸調のかわいらしい宿の玄関が姿を現した。
軒先には、ほおずきやとうもろこしが掲げられている。
決して豪華ではないが、ほっと心が落ちつく、田舎のおばあちゃん家のような雰囲気が漂っている。
明治40年(1907)創業の、旅館福元屋だ。
玄関を入ると、黒光りする床が目に飛び込んできた。
掃除が行き届いた、商人宿のような風情に、期待がさらに大きくふくらんだ。
この宿のすぐ下に流れる神田川沿いには、ふたつの露天風呂がある。
ひとつは宿の名物、壁湯天然洞窟温泉。
そして川に近いところにある共同浴場だ。
ともにお湯は浴槽の中からじかに湧いていて、かけ流しになっている。
加水、加温、循環のない、いわゆる「ぶくぶく自噴泉」だ。
壁湯天然洞窟温泉は、巨大な大岩の岩盤をえぐり、そのまま浴槽にしたダイナミックさだ。
これまでいくつもの温泉を見てきたが、洞窟と呼ぶにふさわしい湯船だ。
大きさは10畳ほどはあるだろうか。ゆうに20人は入浴できそうだ。
湯底は小石と砂。
岩肌がむき出しになった洞窟の奥に進むと、どんどん細く深くなっていて、隙間の先から湯がこんこんと湧き出ている。
無味無臭、ややぬるめの湧きたての湯。
適温、適量の奇跡の湯。
川のせせらぎをBGMに、長湯するにはもってこいの環境だ。
川との境界は、現在は仕切り石で固められているが、かつては大岩で仕切って浴槽にしていたと伝えられる。
背後の岩盤が壁のようにせり出していることから、壁湯と呼ばれるようになった。
脱衣所のすぐ脇に、浴槽の湯の排水溝があった。
浴槽に湯が注ぎ込む樋などはどこにもないのに、温かい湯がどんどんかけ流されていく。流れに手をかざすと、抵抗を感じるほどだ。
この壁湯天然洞窟温泉は、唯一無二のため混浴になっている。
女性にもこの露天風呂を楽しんでもらうため、宿泊者には、入浴専用の湯浴み着が用意されている。
さらに、混浴にどうしても抵抗のある女性には、露天風呂横に専用の内湯がある。
野趣あふれる岩盤風呂。
先代がのみで掘り出した、こぢんまりとした浴槽。清潔な湯はこちらでも堪能できるようになっている。
壁湯温泉は、川に面した岩壁の隙間から湧出しており、福元屋の露天風呂の下に、もうひとつ混浴の共同浴場がある。
建物が中2階建てになっており、上で着替えて階段を下りると、川面に近い場所に大きな浴槽が設けられている。
こちらは浴槽の底の一画だけが大石になっていて、湯はその石の間から自噴する。
共同浴場は、朝7時から22時まで、料金箱に200円を投入すれば入浴可能だ。
なんという、恵まれた環境だろう。
壁湯天然洞窟温泉に向かう途中、女性専用風呂の建物の壁に、
筆書きの看板が掲げてあった。
「半刻入らずして壁湯を語るべからず 一刻入って身體に問うべし」
半刻(1時間)では足りない。一刻(2時間)ゆっくり入って体に聞けば、この温泉のすばらしさがわかる――。
取材とはいえ、駆け足で温泉めぐりをする私に、温泉の恵みへの感謝を諭すような文言ではないか。
直球そのままの提言に、私は思わず頭を垂れるしかなかった。
福岡市から宿までは、大分自動車道経由で110㎞、約1時間20分。玖珠ICからは国道387号町田バイパスで約20分。最寄りは九重ICで約10分。
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/