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温泉浴場として世界で初めて世界文化遺産に登録されたのが、和歌山県・湯の峰温泉の「つぼ湯」だ。「つぼ湯」は熊野詣の際に体を清める湯垢離場として知られ、聖地・熊野で温泉文化が脈々と受け継がれてきた。

湯の峰温泉公衆浴場
所在地:和歌山県田辺市本宮町湯の峰110
TEL:0735-42-0074
●泉質(つぼ湯):含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉
●源泉温度(つぼ湯):52.8度
●湧出量(つぼ湯):不明
●pH(つぼ湯):6.8
●日帰り入浴:つぼ湯=1組30分交代制・大人750円・12歳未満450円(6:00~21:30)、くすり湯=大人380円・12歳未満190円(6:00~22:00)、一般公衆浴場=大人250円・12歳未満130円(6:00~22:00)

あづまや
所在地:和歌山県田辺市本宮町湯の峰122
TEL:0735-42-0012
●泉質:含硫黄-ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉(重曹硫化水素型)
●源泉温度:92.5度
●湧出量:92?/分
●pH:7.6
●日帰り入浴:要予約(13:00~15:00/700円)



熊野本宮大社。向かって左手の社殿が夫須美大神(ムスミノオオカミ/イザナミノミコト)、速玉大神(ハヤタマノオオカミ/イザナギノミコト)の両神、中央は主神の家都美御子大神(ケツミミミコノオオカミ/スサノオノミコト)、右手は天照皇大神(アマテラスオオミカミ)


湯の谷川の川床に下りると、熱水が吹き出すポイントの「湯筒」があり、温泉玉子を茹でられるようになっている


川床から見たつぼ湯の建物外観


小さな建物のなかにある世界遺産の「つぼ湯」


つぼ湯向かいの宿「あづまや」。もちろん源泉かけ流しだ


「あづまや」の内湯はなんとも豪華な槙の浴槽。その大きさ、縁の高さが絶妙

紀伊半島にある熊野三山は、神々が宿る聖地として古来より崇められてきた。

幾重にも連なる山々を越えた、さらに奥深く。
その先に、熊野本宮大社はある。

京都から熊野本宮までの参詣道はいくつかある。
平安時代の上皇たちは紀伊半島の西岸を南下し、紀伊田辺より中辺路というルートをたどって熊野本宮をめざした。

道すがら、そのところどころに、「王子」と呼ばれる道しるべがある。
熊野古道紀伊路に祀られた熊野御子神の分社で、休憩所の役割も果たしていたという。その数の多さから、熊野九十九王子と呼ばれている。

湯川王子を過ぎ、参拝者が三越峠を越えると、ようやく熊野への入り口が近づいていることを実感する。
檜林を分け入り下っていくと、そこには清水が流れている。

いにしえの貴人たちは、この猪鼻王子で禊ぎをしてから、いよいよ「発心門」へと向かった。
かつては大鳥居が立っていたという発心門王子。

王子のなかでもとくに格式の高い五躰王子のひとつで、熊野聖域への門となる。
参詣者はこの大鳥居の前でお祓いをしてから、鳥居をくぐった。

うれしくも神の誓いをしるべにて
心を発す門に入りぬる       藤原定家

来世を救済するという熊野本宮に、平安の貴人は何を求めたのか。
数百人を従えた上皇たちの熊野御幸と、それによって広がった武士や庶民の参詣ブーム。
「蟻の熊野詣」とまで呼ばれたおびただしい数の人々が、心を惹きつけられ、熊野をめざした理由は何であったのか。

「浄不浄を問わず、貴賤にかかわらず、男女を問わず」
熊野の神はすべてを受け入れてくれる神だったからこそ、上皇から庶民まで、熱狂的なほどの信仰を集めたといわれている。

十二もの神々を祀り、熊野川の中州に存在した旧社地の大斎原(おおゆのはら)。
明治22年(1889)の熊野川の大洪水により、大半が流出し、かろうじて残された上四社の社殿を、そのまま現在の場所に移築したのが熊野本宮大社だ。

信仰する人々に対して分け隔てがなかったのと同様に、熊野本宮にはまた、多くの神々が祀られていた。
日本古来の原始宗教である、アニミズムにもつながる多様な神々の存在。
そこにこそ、熊野信仰の本質があるように思えてならない。

大斎原から急な上り坂を登り一時間ほど歩くと、湯峯王子に到達する。

ここが、世界で初めて、温泉浴場として世界遺産に登録された「つぼ湯」のある湯の峰温泉だ。

湯の峰温泉の開湯は、神代にも遡ることが歴史書に記されており、第13代天皇の成務天皇の御代に発見されたと考えられている。
成務天皇の実在性は検証されていないものの、推定ではその年代は4世紀半ばに相当する。開湯1800年という数字が広まるようになったのは、この推定年代を元にしたものなのだろう。

熊野詣のために訪れた貴人は、谷あいに湧き出る天然の岩風呂に心底癒されたに違いない。
湯の峰温泉は、熊野詣の禊ぎである、湯垢離場として栄えてきた。
現在もそこを訪れれば、貴重な「つぼ湯」に入ることができる。

湯の峰温泉公衆浴場を訪れ、つぼ湯の入浴を申し込むと、交代制で30分ごとに1組の入浴が可能になっている。

川の中に建てられた小さな木造の建物。
それがつぼ湯だ。

扉を開けるとすぐ脱衣所があり、階段を数段下りたところに小さな湯船が口を開けている。
3人も入ればいっぱいになるほどの大きさ。
湯はやや白みがかっている。

つぼ湯が温泉として本当に素晴らしいのは、どこからも引湯していないということだ。
湯は湯底の岩盤と小石の隙間から染み出してしみだしてくる。

泉温52.8度。
適温での湧出と適度な大きさの湯船とのマッチングによる、天然湧出の「ぶくぶく自噴泉」。

この日は取材ということで、普段は閉じられている三方の木の扉を開けてもらうことができた。
川の増水によって建物が流されないようにするため、三方を開けて川水の通り道を確保するのだ。
光が差し込み、湯船の底の小石がようやく見えてきた。

お湯がこんこんと湧いて出ている。
だからこそ、循環も消毒もせずに、ありのままの温泉を楽しむことができるのだ。

つぼ湯から道路を隔てたところに「あづまや」という宿がある。
こちらは3本の自家源泉を持ち、源泉温度は92.5度にもなる。

槙で組んだ浴槽は60年以上前に組み上げられたものだが、湯が新鮮なせいか、材質が高級で堅牢なせいかびくともしていない。
弱アルカリ性だが、ぬるぬるとした、薬効を感じられるほどの素晴らしいお湯。

槙の浴槽は浅目で、木枠の縁に頭を乗せるとちょうど寝湯をするのにぴったりなデザインになっている。

ここ湯の峰温泉には、厳しい旅の経たからこそ味わえる、極楽浄土が広がっていた。


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京阪神方面からは、阪和自動車道・南紀田辺ICから国道42号を南下。田辺市街を抜け、上富田町朝来交差点より国道311号に入り、田辺市本宮町に至るのが一般的なルート。
東京・名古屋方面からは、東名阪自動車道・伊勢自動車道・紀勢大内山IC経由、国道42号を南下。新宮市より国道168号に入り田辺市本宮町に入る。

< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
ブログ「デュアルライフプレス」http://blog.duallifepress.com/
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