岩魚が悠々と泳ぐその池は、後ろにそびえる岩山を写していました。「神が降りた地」神降地(上高地)の穂高神社有する土地に明神池はあります。春には新緑、秋には紅葉に包まれる明神池は神秘の池、大自然に囲まれた美しいパワースポットです。
(穂高神社ホームページより)
わたしが通っていた学校の講堂には、東山魁夷の美しい絵が飾られていました。
中学校の入学式で見た森と湖、白馬が描かれたその絵は、ごく自然にわたしの心の中に刻まれました。
それから2年が経ったころでしょうか。家族と出かけた上高地で、東山魁夷の絵にそっくりな光景を目にしました。それが明神池でした。
明神池は上高地のバスターミナルより梓川を上流方向に1時間ほど歩いた場所にあります。
上高地で散策時間を設けた観光バスツアーの乗客たちが、「まずは行ってみましょう!」と、気軽にハイキングするのが明神池へのルートでもあり、左岸右岸ともに遊歩道が整備されています。
明神池は一之池と二之池の大小ふたつの池の総称ですが、池畔には穂高神社奥宮が鎮座しています。
この美しい池は穂高神社が有する土地にあります。
毎年10月8日に「穂高神社奥宮例大祭」、別名「お船祭り」が行われ、大勢の観光客を集めています。龍頭鷁首(りゅうとうげきしゅ)の船が明神池に浮かび、山の安全を祈願する平安朝の神事です。
また、この船を利用した神前結婚も評判で、毎年何組かのカップルがここで夫婦となっています。
行事がなくても、明神池の神秘的な景色はとても印象的です。
背後に岩山がそびえ、手つかずの自然が池の周りを囲みます。
明神岳の伏流水が湧き出すために透明度の高い池には岩魚が泳ぎ、森の中からひょっこり鹿が顔を出しそうな雰囲気が漂っています。
上高地の魅力を世界に発信したイギリス人宣教師・ウェストンをガイドした上条嘉門次の山小屋も明神池のそばにあります。
彼もきっとこの美しい景色に魅せられたのでしょう。
神社における「本社」に対し、関係があるものの別の場所にある社殿を「奥宮(奥社)」と呼ぶケースがあります。
「奥」とあるだけに山麓や標高の低いところに本社があり、奥宮は山頂などの標高が高いところに置かれているのが一般的です。
たとえば、石段で有名は香川県の金刀比羅宮の例をあげましょう。
表参道から階段を登りはじめ113段で一之坂鳥居、365段で大門、628段で旭社、785段で本宮に到着します。
そこから平坦な道、坂道、さらに階段をのぼり1368段目が奥社である「厳魂神社」です。金刀比羅宮の場合は階段の数ではっきりと位置関係がわかります。
さて、穂高神社は松本盆地の北西の一角に位置しています。
穂高見命は海神族の祖神となっています。なぜ、海のない土地に海神なのだろうという疑問が起きます。
なんでも後裔の安曇族はもともと北九州に栄え、海運を司っていたそうです。そのころから船によって大陸や本州北部との交流をもっており、やがて信濃に拠点を設けるようになりました。
その象徴が穂高神社です。
JR大糸線穂高駅のすぐ近くにある本殿。ちなみに穂高駅の標高は546mです。そして、山をあがった標高1540mの明神池の畔の奥宮、さらに標高3190mの奥穂高岳の山頂に祀られている嶺宮。
本宮と嶺宮の標高差はなんと2644m! そのスケールの大きさには驚かされます。
穂高神社には神札、家内安全、商売繁盛などのお札やお守りがありますが、気になったお守りは男女の神さまが寄り添う「道祖神守」や海運の神さまだけに「旅行安全守」さらに山が連なる土地だけに草鞋型をした「足腰守」があります。
また、たたりや悪しきもののけをお祓いし、除きさる「もののけの祓い」も毎月10日に穂高神社で行われています。
道祖神守、もののけの祓いが、いかにも信州らしいと感じるのはわたしだけでしょうか。
※今回のプレゼントは足腰守です。
上高地バスセンターから明神池へ向かって歩き始めます。
すぐに上高地でいちばん賑わう河童橋に出ます。河童橋の周辺にはチーズケーキなどが評判のレストランもありますが、それは帰りのお楽しみ。まずは飲料などを補給して明神池をめざしましょう。
河童橋では梓川の右岸(進行方向)を行くか左岸を行くかを決定しなくてはいけません。おすすめは梓川の右岸を行くルートです。
右岸ルートのすぐ先に「上高地ビジターセンター」があります。上高地初心者はここに立ち寄りましょう。上高地の自然や動物との遭遇マップ、さらには著名な山岳写真家が寄贈した四季折々の上高地のみごとな写真が飾られています。
ショップには上高地ならではの品々があり、目も楽しめますし、『ガイドが選ぶ上高地の花』などの冊子を手に入れるのも得策。これからの明神池ハイキングがぐっと楽しくなります。
さて、右岸ルートは比較的幅が広く、砂利道といった風情です。しかし、右側は深い森、左は木々の間から梓川の風が流れてきます。
こちらのルートを選ぶ理由は、アップダウンが少なく、とくに急な登り坂がないことです。
1時間ほど歩くと、最初の山小屋でもある「朝焼けの宿・明神館」がある明神に到着します。公衆トイレもありますし、飲料や生ビールも!
ここで右岸ルートを離れ、明神橋を渡れば明神池はすぐそこです。
奥宮参道にはお食事処や岩魚を焼くお店も。その先に奥宮があり、お参りはすぐにできますが、明神池の畔に立つには参観料300円を収めます。
門を通り明神池に。その美しさは息を飲むほどです。
神が降りた地、神降地の神秘の池。自然の中のパワースポットは、運気と地球のパワーに溢れていました。
帰路は左岸ルートで。こちらは木橋などが多く架けられた景色のよい遊歩道です。ただし、アップダウンが多く、ところによってはかなりきつい坂も。しかし、帰路は下りとなるので苦になりません。
明神池への往復も楽しめるパワースポットめぐりになりました。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。