寒い季節の快晴日。スキーやスノーボードを行いに雪国にでかけるのもいいけれど、比較的気温の高い都会に出て遊ぶのはいかがだろう。目的はサイクリング。都会には絶好のサイクリングスポットが待っている!
15年住んだ東京下町・木場から中野に10月に引っ越した。
中野新橋・川島商店街のそばの昭和感が残る地域だ。この界隈にも木場と同様、“行ってみたい意欲”をそそる飯屋や呑み屋がある。
その引っ越し先の路地に入る角に自転車屋があった。そして、ぼくは引っ越して真っ先に外装6段自転車を買うことになる。
ロードでもマウンテンでもない。ごく普通のシティ用自転車だが、以前からこれが欲しかった。前輪の上には仕事用バッグが入る大きなカゴがあり、それなりに軽快に走れる外装6段!
木場に住んでいたときは、内装3段の“ママチャリ”で下町界隈を走っていたから、ぼくにとっては大きな進歩だ。
それ以来、仕事の打ち合わせに自転車を活用している。
新宿までなら15分ほどで行ける。頻繁に打ち合わせをする青山にも25分!
「健康を考えるのなら自転車より歩くことですよ」と、ハイキングの冊子を出すときに監修していただいたお医者さんに言われたが、わかっていてもやめられない!と自転車を漕いでいる。
自転車に毎日のように乗っていると、都会の自転車事情もわかってくる。
まず、東京は坂道で構成されているのを知る。
渋谷、千駄ヶ谷は“谷”なのだ。だから、そこに行くには下り、帰りは上りになる。神田川や善福寺川も低地を走る。だから、それを越えるには下り、上りとなる。
走りやすい道と、走りにくい道がはっきりしているのにも気付く。
山手通りは自転車レーンがきちんとしているからとても走りやすい。
甲州街道は歩道を走るよう推奨されているが、大勢の歩行者がいてとても走りにくい。
これらを経験的に学ぶと、走りやすい道や裏道を抜け、なるべく坂を下らないルートを選べるようになる。
こうして都会の自転車乗りは“自転車知数”を高めて、快適走行に辿り着くのだ。
ところで、もっと簡単に、快適に都会でのサイクリングを楽しめる方法があるのをご存じだろうか。
今回は都会の自転車体験を紹介しよう。
デング熱の発症によって一時期閉鎖された代々木公園だが、秋の深まりに合わせて再開され、天気のよい休日には多くの人たちが訪れている。
その公園内の一角にサイクリング場がある(公園内参宮橋寄り)。
定休日となる月曜日以外は自転車の貸し出しも行っており、マイカーで駐車場に乗りつけた人々が、安全で景色のよい公園内でサイクリングを存分に楽しむ。
貸し出し用自転車は大人用、タンデム、補助輪付の子ども用も備えているから万全といえるだろう。
また、自転車に初挑戦というお子さんを連れてくるファミリーも目立つ。サイクリングコースの脇に、小さな子ども用の専用広場があるので、自動車や歩行者に心配なく、存分に自転車の練習ができるのが理由だ。
ところで、ぼくの娘はすでに二十歳を過ぎて結婚もしている。つまり、立派な大人なのに、自転車に乗れるのかと問われれば自信がない。娘に尋ねたこともないのに“乗れない”と決めつけるのは失礼な話だが、子どもの頃の彼女に自転車に乗せるチャンスを逸してしまったのである。
当時、ぼくは横浜の高台に住んでいた。周囲はマンションや住宅街なのでクルマが頻繁に通る。
そんな環境で娘に自転車をプレゼントする勇気はなかった。坂道で暴走する可能性があるし、クルマと接触する恐れもある。
もしも代々木公園のような自転車環境があれば、小さい頃に自転車に乗せてあげられたのに…と思うのだ。
「自転車、乗れるの?」、娘にラインしてみた。
「乗れないよ」、すぐに返信がある。
「正確には乗れるけど、コントロールできないから、人さまがいるところでは乗れない」…やはり乗れないんだ、とぼくは思う。
「坂が多いところに住んでたから、乗る機会も少なかったしね」と続いた。乗る機会を作ってあげられなかったのはぼくだ。
やはり、代々木公園のような環境があればよかった。環境のせいにして誤魔化すぼくがいた。
観光地の駐車場にクルマをとめて、ショップや名所はレンタサイクルでめぐるというのはよくある光景だ。
同じようなことが都会でも進みつつある。
日曜、祭日に限るが神宮外苑もそのひとつ。
神宮球場や国立競技場、銀杏並木がある神宮外苑は日曜、祭日にはサイクリングコースとして開放される。自転車を持ち込んで疾走を楽しむ人もいるが、レンタサイクル利用者への対応も万全だ。
レンタル用の自転車は軽快車、ミニサイクル、子ども車など合計350台を用意し、訪れる人に都会の緑・神宮外苑を自転車でめぐってもらおうという趣向だ。
間もなく国立競技場の立て替え工事が始まるが、レンタサイクルなどを管理する日本サイクリング協会では、工事中であっても続ける意向があるそうだ。
また、行政がレンタサイクルに積極的に取り組みだしたのも歓迎すべきことだろう。
たとえば、千代田区は「コミュニティサイクル事業実証実験」として、30分100円から電動アシスト付き自転車を貸し出す制度「ちよくる」を開始している。
千代田区役所、千代田会館ビル、東京区政会館、靖国神社、西神田公園、神田明神、東京国際フォーラムなどに電動付自転車のポートを設置した。
利用希望者は簡単な手続きを行うだけで、自転車用保険に加入された電動自転車を気軽に借りられるという寸法だ。
同じような取り組みは、お台場のある江東区、銀座や新橋・六本木をかかえる港区、仙台、横浜でも実施されている。
自転車を有効活用=楽しく、健康的な休日という視点を加えれば、これからの休日のおでかけは変わってくるだろう。都会までクルマででかけ、コインパーキングに駐車してから先は自転車でめぐるというスタイルになる。混雑する街並みをクルマで走る必要もなくなるし、面倒な駐車場探しも不要だ。
クルマから自転車に乗り換えて、気ままにショップや路地裏散策を楽しむ。
自転車を有効活用する休日の過ごし方、ぜひ経験してみてほしい。
●代々木公園サイクリング場
https://www.tokyo-park.or.jp/park/format/facilities039.html
●神宮外苑サイクリングコース
http://www.j-cycling.org/jingu.html
●千代田区コミュニティサイクルちょくる
http://docomo-cycle.jp/chiyoda/whatiscs/
木場 新
休日評論家。主な出版物に共著の『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』、一部執筆&プロデュースの『温泉遺産』、『パックツアーをVIP旅行に変える78の秘訣』などがある。ウェブサイト「YOMIURI ONLINE」に「いいもんだ田舎暮らし」の連載ほか。