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  3. 湯底の砂まで透けて見えるサファイヤブルーの「ぶくぶく自噴泉」鹿児島県・湯川内温泉
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鹿児島県出水市に、アルカリ性の単純硫黄泉という珍しい泉質の温泉がある。この湯は浴槽の底から湧く「ぶくぶく自噴泉」。かじかの鳴き声を聞きながら入れる、風情のある湯治宿だ。

湯川内温泉 かじか荘
所在地:鹿児島県出水市武本2060
TEL:0996-62-1535
●泉質:アルカリ性単純温泉
●源泉温度:(上の湯)38.4度、(下の湯)38.2度
●湧出量:(上の湯)93 l/分、(下の湯)94 l/分
●pH:(上の湯)9.6、(下の湯)9.5
●日帰り入浴:7:00~21:00(受付終了)
●入浴料:大浴場/大人300円、小学生100円


下の湯。木の仕切りの向こうは女湯で、源泉の湯底はつながっている。男湯のほうが、湧き出る温泉の量が多いという。


玄関。この先に受付があり、自噴泉の浴室は建物と独立して上の湯、下の湯のふたつがある


下の湯から上の湯へ向かう途中にあった浴槽跡。かつては温泉プールだったのだろうか


敷地の最上部、川沿いに鳥居があった。自然の恵みに感謝する温泉神社が祀られていた

全国を旅していると、「こんな温泉地があったのか!」と驚かされることがある。
 
もちろん、当方が知らないだけなのだが、雑誌やテレビに出てくる温泉地には偏りがあるため、いまだ脚光を浴びることなく、人知れずひっそりとたたずんでいる名湯もあるのだ。
 
いろんな温泉を旅しているから、「詳しいんでしょう」と水を向けられることがある。でも、なにせ日本の温泉は3000をゆうに超える。
真剣に数えたことはないが、たぶん300は入湯しているのではないだろうか。とはいえ、達人の域には、まだまだ遠く及ばないのが実状だ。

近年訪れた九州の温泉で、とても印象に残っている湯がある。

鹿児島は鹿児島湾に突き出た桜島の印象が強い。

県の北西部にある出水市(いずみし)は、八代海(不知火海)を隔てて天草と向かい合う、人口約5万5000人の町だ。

この町の観光といえば、なんといっても1万羽を超える鶴の飛来地だろう。
出水平野の水田地帯には、毎年10月中旬から3月頃にかけて、越冬のために鶴の大群が飛来する。
シベリアから中国を南下し、朝鮮半島を経由して壱岐を通り、長崎半島から八代海を渡って、出水市にやってくると考えらえている。
ほとんどがナベヅルとマナヅルで、毎年12月にピークを迎える。場所としても動物としても、国の天然特別記念物に指定された貴重なものだ。

出水市ツル観察センターでは、飛来する大群を間近に観察することができる。

海沿いのツル観察センターから南東へ約16㎞。
九州新幹線出水駅をかすめるようにして紫尾山(しびさん/1067m)の北懐へと分け入っていく。

クルマで30分ほど走ると、風景は田園から山道へと姿を変える。
林道を分け入るように登っていくと、今回の目的地である湯川内温泉(ゆかわうちおんせん)に到着した。

クルマを駐車場に停め、坂道を上ると、赤い提灯が訪問客を誘導する。
傍らにはかじかの鳴く小川が流れている。

玄関にたどり着いてようやく、宿の全容が見えてきた。

玄関脇は受付になっていて、日帰り客はここで料金を支払う。
すぐ隣には木造二階建ての簡素な湯治棟。

ご主人の松ヶ野さんに話をうかがうと、現在の経営者が旅館を始めたのは昭和30年代からで、建物自体はそれ以前からあったという。
ただし、経営は何度か変わっており、詳細はわからないらしい。

宿のパンフレットを見ると、「当温泉は今から240年前(宝暦4年)に発見されました」とあった。

念のため、後日、『日本鉱泉誌』(明治19年刊)にあたってみた。
あった。
「湯神祠前に古碑アリ。宝暦五年乙亥八月創建云々ヲ記ス」とある。

宝暦5年は西暦1755年。元年(1751)に8代将軍徳川吉宗が死去し、9代家重の時代を迎えている。

いまから約250年前の宝暦4年に湯元が発見され、翌年に祠を建て、その後、温泉地として利用されてきた。

島津藩の時代には、120年間にわたって島津家御用達の温泉として利用され、明治以降に一般の入浴が可能になった。

湯治棟から少し上ったところに、木造の湯小屋の「下の湯」がある。男女別の内湯だ。
さらに上には「上の湯」が。
建物はつながっておらず、敷地内に二つの湯小屋が建っているという不思議な構成になっている。

下の湯はちょうど、川の真上に建っているような位置にあるのがおもしろい。

中に入ると壁際に脱衣ロッカーがあり、幅の大きな階段を三段下りたところに浴槽がしつらえてあった。
湯小屋は木造で、天井もかなり高い。

ちらりと湯を眺めてびっくりした。
岩が湯底に、ごろごろと転がっているのが見えるのだ。
なんという透明度だろう。

急いで服を脱ぎ、浴槽へと向かう。
近づくと湯船の大きさ、深さがはっきりしてきた。
この浴槽は、思った以上に深い。
湯底の砂の上に立つと、水面は胸ぐらいにまで到達する。

浴槽の中に、取り囲むように木枠が取り付けてあるのは、そこに腰をかけて適度な高さを保って入浴するためだ。
木枠に腰をかけても深く感じる人は、ところどころに置いてある切り株の上に座ると、上半身が水面に出るようになっている。
湯底の大岩は足置き場というわけだ。

湯底までの距離感がわかりにくいのは、水の透明度のせいだろう。
底の砂まではっきり見えるほど水は澄んでいて、しかも淡いサファイヤブルーの緑色に染まっている。
これほどまでに透明度の高い温泉にはなかなかお目にかかれない。

しかも香りは微妙に硫化水素臭があり、いわゆる硫黄泉だ。
温泉分析書では、アルカリ性単純温泉になっているが、ナトリウムイオンと硫酸イオン、炭酸水素イオンと炭酸イオンが極めて高い。
pHは9.5のアルカリ性。
つまりここは、旧分類では単純硫黄泉になる。しかもアルカリ性の炭酸泉なのだ。

硫黄泉でアルカリ性なのはとても珍しい。
泡が体表で気泡になるほど炭酸は強くないが、さらりとして間違いなく炭酸を感じる。

時折、湯底の砂の間から、ぼこっぼこっと泡が出てくる。
浴槽を見回しても、どこからも湯の注ぎ口がない。
湯は砂の底から、気泡とともに湧いて出ているのだ。

38.2度という少しぬるめの絶妙の温度で湧く、奇跡の「ぶくぶく自噴泉」。

これはとてつもない、宝のような温泉だ。

建物の位置を考えると、これは広瀬川の支流、神戸川の川底から湧いているのかもしれない。

湯底の砂の粒の大きさが絶妙で、足をもぐらせるとなんともいえない心地よさがある。
足の指先を何度も砂にうずめて、その感触を楽しんだ。

たまたまお隣で入浴をしていた方に話をうかがうと、水俣市から30分かけて通っているそうだ。
ぬるめだから、夏によくやってくる。
一日中、出たり入ったりを繰り返してゆっくり過ごす。

3月~6月にかけては、産卵のため、かじかが大きな声で鳴く。
かじかの声をBGMにして、ピュアな温泉にひたるのは、このうえない幸せだった。

こういう温泉に巡り合えるからこそ、温泉の旅はやめられない。

下の湯からすこし登ったところに上の湯の湯小屋があった。
こちらの浴槽はすこし小さめ。泉質もほぼ同じだ。
どちらも加水、加温、循環なしの源泉かけ流し。

湯治棟の中にも温泉があり、こちらの内湯は引湯してボイラーで沸かしているという。
寒い時期、湯治客への配慮だろう。

もうしばらく、ここに滞在していこうか。


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国道328号線を南東の紫尾峠方面へ向かい、小原山市民の森方向へ右折。標識にしたがいながら湯川内方面へ。田園地帯の風景を見ながら一本道を上がっていくと、かじか荘の看板が見えてくる。そこから1㎞ほど山道を上がればかじか荘へ到着する。
< PROFILE >
長津佳祐
ゴルフや温泉、クルーズ、スローライフを中心に編集・撮影・執筆を手がける。山と溪谷社より共著で『温泉遺産の旅 奇跡の湯 ぶくぶく自噴泉めぐり』を上梓。北海道から九州まで自噴泉の湯船を撮り下ろしで取材した、斬新な切り口の温泉本になっている。
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