某サイトの「幕末イケメンランキング」で“殿堂入り”しているのが新撰組副長として活躍した土方歳三で、幕末好きの女性たちに圧倒的な人気を博しているとか。彼の菩提寺が高幡不動尊、さっそく参拝に行ってきました。
山や地方都市を歩くのが好きなわたしは、年に一度、体力作りを兼ねて高尾山登山をしています。
特色のある数本の登山道が整備され、さまざまな植物が見られる標高599mの高尾山。ミシュラン発行の日本のガイドブックに三ツ星で紹介されているだけに、四季の彩りが美しく、設備が充実した気軽な自然派観光スポットです。
東京から向かうと高尾山の手前に正式名称「真言宗智山派別格本山 高幡不動尊金剛寺」があります。金剛寺というより“高幡不動尊”と呼んだほうが、京王線などの駅名になっているだけにピンと来る人が多いでしょう。
高尾山には毎年のように登るわたしですが、高幡不動尊に行ったことはありませんでした。
そこで高幡不動尊のホームページを検索すると、「豊かな自然に恵まれた境内が四季の風物と調和する」という、とても素敵な文言が目に飛び込んできました。
多摩動物公園に近く、都立多摩丘陵自然公園に隣接する高幡不動尊。高尾山同様、自然が美しいという言葉に納得できます。
また、高幡不動尊は新撰組の“鬼”の副長、土方歳三の菩提寺でもあります。
新撰組は“武州(武蔵国)”出身者が主流。局長・近藤勇、副長・土方歳三、一番隊組長・沖田総司、さらに井上源三郎、斎藤一、藤堂平助、永倉新八ら圧倒的多数を占めています。
新撰組副長として局長を支えた土方歳三は、1835年(天保6年)に、石田村(現在の日野市)に生まれました。高幡不動尊の住所も日野市ですから、それぞれの距離は5㎞ほどでしょうか。
土方歳三は“天然理心流”に入門(入門2年後に近藤勇が天然理心流4代目となります)、63年に浪士組の一員として京都に出発。やがて新撰組が結成されます。
京都市中取締りなどで幕末の主人公のひとりになった土方歳三は、大政奉還、鳥羽伏見の戦いなどを経て京都を追われます。
局長処刑の後に函館・五稜郭に入城。銃弾を受けて戦死したのは1869年(明治2年)のことでした。
「歴女」という言葉が流行るくらい、日本史好きの女性が増えています。
織田信長、豊臣秀吉たちが主役の戦国時代、そして『竜馬がゆく』、『燃えよ剣(土方歳三が主人公です)』などの司馬遼太郎の名著の影響もあって幕末の関心が高いようです。
歴史好き女性の目を意識した、「幕末イケメンランキング」という某サイトを見つけました。写真が残る志士や藩主がランキングに並んでいますが、圧倒的に支持され、みごと(?)に「殿堂入り」の快挙となっているのが土方歳三なのです!
さて、その土方歳三の菩提寺である高幡不動尊とはどんなお寺なのでしょう。
成田山新勝寺(千葉県成田市)、玉嶹山總願寺(埼玉県加須市)と並び、関東三大不動として知られるのが高幡不動尊です。
その草創は大宝年間(701年)以前とも伝えられますが、1100年前の平安時代初期に慈覚大師円仁が清和天皇の勅願により、東関鎮護の霊場として山中に不動堂を建立して不動明王(御本尊)を安置したのが正式な創建のようです。
1335年(建武2年)に大風で山中の堂宇が倒壊、麓に移し建てたのが現在の不動堂になります。
成田山、總願寺と同様に高幡不動尊では「お護摩」が行われています。お護摩とは梵語で焚く、焼くなどを意味します。不動明王に供え物を捧げ、「護摩木」を焼いて祈るのが修法です。
護摩木には参拝者が書いた「家内安全」「心願成就」「災難消除」などの言葉が並び、それが不動堂で行われる護摩修業の際に燃やされて御利益となります。わたしが訪ねたときも、たくさんの護摩木が護摩修業を待っていました。
さて、広い境内には室町時代の仁王門、東京都最古の文化建造物である不動堂をはじめ、高幡山の総本堂である大日堂、高さ39.8mの五重塔などの見どころが数多くあります。
残念ながら訪ねたときに仁王門は工事中でしたが、新緑に囲まれたそれらの建造物は美しく、スケッチをしている年配ご夫婦の様子が微笑ましく感じられました。
激動の時代に自らも衝撃的な人生を歩んだ土方歳三と、彼の銅像が立つ新緑に包まれた穏やかなお寺。その対照がとても印象的でした。
工事のためのシートが被った仁王門に面する川崎街道には、何軒もの名物グルメ店があります。立ち寄りたい衝動にかられますが、ダメダメ、それは参拝の後のお楽しみ。
総門を入ってすぐの左手には土方歳三像が、まるで主のように驚くほど大きな鯉が悠々と泳いでいる弁天池を前に立っていました。その像を見上げる若い女性たちがいます。歴女の方なのでしょうか。しばらく佇み、彼の人生を頭の中で反復しているようでした。
土方像の向かいは不動堂です。境内にアナウンスがあり、間もなく護摩修業が行われるのを知り、さっそく不動堂に行きました。
不動明王の前の壇には護摩木が置かれています。お護摩の火は不動明王の“知恵”を象徴し、薪は“煩悩”を表すそうです。不動明王の知恵の炎で護摩木を焼きつくし、それをもって信徒の願いが清浄なものとなって、やがて成就すべく祈りが捧げられます。炎を前にした僧侶の姿が心に残りました。
護摩木に願いを書き込んだあとは境内の散策です。赤がまぶしい五重塔、新緑に包まれた大師堂、聖天堂、境内の奥に位置する大日堂(鳴り龍天井があります)と参拝してまわります。
総門から見て境内の右側は講堂などがあり開かれていますが、一転、左側は多摩丘陵の自然が残されています。四季の道と呼ばれる山道や、その周辺では自然歩きが楽しめます。
森の中にさまざまな句碑が点在しており、小さな池も。それらを訪ねて歩くのも楽しいものですし、なんといっても新緑が美しい。夏はきっと木漏れ日が気分いいはずですし、秋には紅葉が目と心を癒してくれるでしょう。
ひとしきり歩いた後は、第二のお楽しみの高幡不動グルメの番です。
高幡まんじゅう店には「護摩まんじゅう(もちろん、ゴマ風味です)」に加えて「歳三まんじゅう」、「もえよ剣(焼き菓子)」といった土方歳三“和”スイーツがありました!
※今回のプレゼント賞品です。
さらに「不動せんべい」の開運堂、各種そばが味わえる、そば処開運そばがあります。そばに浮かぶのは「開運」の文字が入った特製かまぼこ。なんだか食べるだけで御利益がありそうです。
高幡不動尊参りは参拝だけでなく、四季の彩りとおいしいグルメも楽しんでください。
遠藤 里佳子
旅行雑誌ライター。国内外の旅を多く取材。全都道府県を制覇(通過ではなく宿泊をしてカウント)したのは32歳のとき。ハワイやカナダ、オーストラリア、東南アジア、中国など太平洋圏に詳しい。